植物園「 槐松亭 」

バラと蘭とその他もろもろの植物に囲まれ、メダカと野鳥と甲斐犬すみれと暮らす

ヤフオクで集めたお宝を調べる(中編) 印の真贋をみる

2022年08月05日 | 篆刻
昨日に引き続いて、この程入手した印12本を具に調べてみようと思います。最後の2本も昨日届きました。

篆刻印、その中で最もポピュラーな材料は石で、ほぼ100%葉蠟石 (ヨウロウ石)であります。その成分はケイ酸塩鉱物と呼ばれ、外観は様々、数百もの呼び名や分類がなされていますが、組成はほぼ同質、柔らかく見た目がロウに似ているという共通点があります。
その金銭的な価値は、次のような要素で決まります。
①石そのものの材質
②紐  持ち手側の飾り彫り
③薄意 側面などに薄く施した浮彫
④側款 制作年月・制作者などの文字情報が石の側面に彫られている
⑤印面 文字の意味、篆刻技術の巧拙・芸術性
⑥時代 篆刻印がいつ頃彫られたものか 骨董価値
⑦風合 石の表情・感触・色合い・透明度など

ホームセンター・ネットでの印材販売では、概ね実際に彫る(練習含め)ために売られる青田石と寿山石という普及品がほとんどで、大きさによって50円から1000円程度が一般的であります。これに、電気ドリルで流れ作業で細工する簡便な「紐」がつくと5割増しくらいの値段です。ワタシ達が通常彫る姓名印はだいたい5~7分(1分は3mm)で、一番安いものでだいたい300円程度となります。そうした安物、最近の寿山石にせよ青田石にせよ、一昔前から見れば恐ろしく質が悪いものです。欠けやすく夾雑物が混じって引っかかるなど彫りにくく、正四角形でないものも多いのです。

これに対して、ワタシがヤフオクで集めるのは、原則として古い時代の印材で印面の彫りが有るものです。
①中国三寶といわれる鶏血石・田黄・芙蓉石など希少性があり高価で美しい石 ②篆刻家の作になるもので、刀法・章法が勉強になるような字が彫られている ③中国・日本の昔の篆刻家・書道家による篆刻印で骨董価値がある
④掌に乗せて愛玩するに相応しい趣のある色や紐がある
といった条件を見て入札します。練習用には腐るほど在庫があるし、摸刻済みのものも、いずれすり潰して再利用しますから、当分不要なのです。

お宝といわれる印は、そんな要素が幾つも重なるのが通例であります。専門家・一流の篆刻家ならば自用・販売用に限らず、彫りやすく高級な良室の石を用います。注文を受ける方が篆刻家・名人ならば、頼むほうも金を惜しまないはずです。印材だけで数万円もする石を使うことも何の不思議もありません。さらに、その作者が書道・篆刻の世界で有名な故人ならば猶更価値が高いものです。

そうした観点から、ワタシが石を見定めるまず最初で最も重要な項目が、石の質であります。本物の自然石か(人工石ではないか)、自然石の形を残しているか(切り出した角材を自然形に変形させていないか)、中国三寶やそれに準じた銘石であるかということです。ヤフオクで多数出品され珍重される田黄石などの7.8割が、人工物・安い石をそれと似せたもの・新田黄と言われる類似品であろうとみています。(ワタシの仕事場にもそれと騙されて入手したものが4.5個あります(´;ω;`)
人造石か否かは、目立たない所に印刀をあてて削るのが一番です。石の粉や溶剤を混ぜて作ったものは、柔らかく、ぐずぐずの彫り味で、小気味よいカリカリとした感触がありません。見た目も着色料を入れたゼリーみたいに濁った色です。細かな仕上げ用のペーパーで擦り、艶出しの布で磨いても光沢が出ません。

 次に側款などの在銘が本物か・贋作かであります。本物の先生が作ったものは、前述のように高価で良い石を使い、印面の切り口が鋭く、字はほれれぼれする見事な出来です。細部にわたるまで丁寧で美しく仕上げています。

一方手間をかけてそれらしい偽物を作る場合、少しでも本物に似せ高く売ろうとします。目方で取引されるので大きい印材を用いる、雑ながらでも紐や薄意を付ける、印面の凹部を赤く塗る、というような小細工を弄します。もう少し手抜きする粗悪品は、紐や薄意を象った「型」に溶材を流し込んで固めるので、そのデコレーションの明確な境界線が出ず、ぼんやりとしたでこぼこになるのです。

そして本題、今回落札した品々をチェックします。

一番の注目は、2件で4個ある箱なしの印であります。

その一つが、中国、明の末期に名を成した篆刻家、王禔 (おうし)ー雅号福庵さんの作かもしれない「遊印」(写真中央)です。「博古知今」(古今の知識に通じている、博識である)の文字は王さんが得意とした金石文字です。刻まれている側款には「乙亥三月 福厂 」(厂は庵や廠 の略字)とあり、乙亥は最近では西暦1935年、1995年を指します。王禔さんは、公職を離れて1930年頃から上海で印と書を制作して売っていたという時期に合致します。福庵の文字も側款を印譜と比べて見ても、その筆跡はとてもよく似ているのです。


印そのものは、黄色味がかった乳白色で、やや透明な茶色や薄墨色の模様が入っております。恐らく芙蓉石だと思います。全体を楕円形に丸くし、印面の際(きわ)の部分はわずかに曲線がついてすぼまっています。紐は横たわった老人と犬が彫られており印材としてはまことに素晴らしいものであります。

いささかの希望的観測を加味し、ワタシの印象・経験で言えば客観的に見て王禔 先生の真作の可能性が高い、と思うのです。印箱も無く無造作に出品されたものでありますが、90年ほどの間に幾人かの手を経てここに流れ着いた、と思えるのです。そして、これと同じ方から出品された残りの3つの印が、値打ちものの石ならばそれを更に補完する要素になります。
一つが灰色の関防印であります。(一番上の写真右)。これは、側款の作家名が読み取れません。灰白色の石材は多種類なのですが、黒や濃灰色のヨウロウ石は、実はそんなに多くないのです。あまり出回らないのです。透明度が高いものは水晶凍、黒っぽく透明度が落ちると牛角凍と呼ばれる高級石ですが、この石は牛角凍と見ていいでしょう。

残り二つは飴色の自然石のままを生かした小さな印材であります。田黄石の特徴である、透明感のある飴色、温潤な風合いに合致します。まず人工石ではないかと疑い、目立たない部分にそっと印刀を入れ、更に磨いてみたところ天然の石であることは間違いありません。田黄石にもいろいろあり、類似した別種類の石もあるので、完璧な田黄石とは断定できないのです。そもそも田黄石の本物がどういうものを指すかも曖昧なのです。

大きい方の石(一番上の写真左)は、厚さ最大1㎝ほどで、高さ5㎝、印面は最大でも15㎜×6㎜と小さいものです。薄意は、お腹を出したお坊さんのような人物、山河と船が表裏に施されております。田黄石は、金や宝石のように重さで取引される貴重品ですから、もし偽物を作って儲けようと思ったら、もっと大きくて重いものを作るでしょう。従って、この小さな扁平の石は、一級品では無いものの「田黄石」として認定してもいいのではなかろうか、と思うのです。もう一つの石は、それと全く似通った色合いで、きちんと磨くとべっ甲飴のような色つやでありました。これは、流石に薄意は刻まれておりませんが、石質なら田黄と言っても差し支えない気もします。

昨日届いた印はこれであります。ワタシの見立てでは、二本とも田黄石に近い石で、「連江黄」と言われる良材です。S42年に刊行された「石印材」(山内秀夫さん著)には、寿山系で「連江県の境に産す。田黄色および黄白(以下略)、不透明・微透明、ひびが入りやすい」とあります。
ここまで6本の印はすべて天然の石であることは間違いありません。人工石でなければ、必ず相当の価値があるものであります。

注目の鑑定結果は・・・・・続きはまた後日にいたしましょう。


コメント
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