植物園「 槐松亭 」

バラと蘭とその他もろもろの植物に囲まれ、メダカと野鳥と甲斐犬すみれと暮らす

鑑定結果 「秋堂」さんの田黄石 の倣古品(後編)

2022年03月07日 | 篆刻
 一昨日の夜NHKのBS放送で中国清朝の宝物が、中国に買い戻されているという番組をやっていました。清朝末期に数千年の帝政・王朝時代に営々と集めてきた無尽蔵な金銀財宝が、なぜ海外に流れその一部が日本に渡ったのかという時代物語は久々に興味深いドキュメンタリーでした。

 貧しい国であった中国で、人民からまき上げた税金やら貢物で集めた財物を様々な形で持ち出されたのが王朝の混乱期であり、国力が衰退した時期であったのです。それは、日本が鎖国を解いて外国人が日本の文物を買い漁り、太平洋戦争終結後接収されて米英が日本の文化財や美術品を自国へ持ち帰ったことに重なります。
 一番印象深いのは、経済大国への道を進んでいた日本で、先見性のある豪商が、中国の王家から直接まとめて巨額な買い付けをしたことです。そして、中国の経済発展と富の集積によって、それがいつの間にか逆転し、日本の蒐集家や財閥などによって所蔵されていた中国の宝物が、数千万円から数億円でポンと買い戻されていることでした。残念ながらGDPをはじめ個人の平均所得に至るまで完全に立場が逆転しているのです。かたや世界でアメリカと肩を並べる超大国、片や先進国の中で最も経済低迷が続き、世帯収入が数十年よこばいであります。我が国は、国の財政(国債依存など)は最悪の弱小国に成り下がっています。

 さて、昨日に続いて田黄石もどきの篆刻印を具にみてまいりました。
背面は原石の皮の部分がそのまま残って、軽く磨いた程度。そこに「秋堂作」と彫られていますが、いささか弱めにひっかいた程度の側款に思えます。通常、篆刻家さんが側款を入れるとしたら、これだけの余白部分があるので、あいた所に、場所や依頼人名・彫った文字などを彫りたくなるはずなのです。

印面は、きちんと平らに揃っており、字画も金石文らしくやや曲線を用いた陽刻であります。よく観察すると、彫られた(浮き出た)文字の部分は磨きをかけていてほとんど同じ太さになっていて、漢の時代などの官印を模しているようです。彫った印の文字は 「曽経滄海 悟真禅」と読めます。

 しかし、ではそれが200年前に篆刻家として名を残す陳名人の手によるか、と見ると残念ながら芸術性が伴う熟達した「章法」によっているとは思えないのです。言ってみれば「一概に下手とも言えないが、一級の印材である田黄石を刻むような名人の彫りとは思えない」出来なのです。もっと言えば、ワタシの方がもっとうまく彫れる(笑)という印象なのです。

 最も楽観的に自分の都合のいい鑑定・解釈をすれば、次のようになります。
 「200年ちょっと前に、安い値段で持ち込まれた等級の低い田黄石に、秋堂さんが一応側款を入れたが、制作欲を起こすことなく印を彫る機会がないまま他界、未刻で人手に渡った。それがあちこち転々としていく過程で、篆刻の修行をしていた未熟な誰か、えいやとばかり彫ってみた」、というような妄想であります。
 
 一方、最悪な来歴は、中国には数百年前から大掛かりな文物偽造団が沢山跋扈していたのです。偽物をだまして金持ちや外国人に売りつけて儲けようと、田黄石にちょっと似た類似の石ころを集めたり精巧な人造石を作って、本物らしくみせかけたバッタ物です。本物と持ち掛けられて大枚払ったものの、鑑定を受けたら偽物ものとわかり、二束三文で手放したものかもしれません。

 概ね、こうした中国の美術工芸品には、1.骨董品などの時代的な背景がある芸術品、「文物」茶碗など 2.現代でも制作・流通する高級な置物や茶器など。美術品として一流の職人さんや専門家が作った書画・工芸品 3.一般的に普及する大量生産の工業製品 4.観光客目当ての粗悪なお土産 5.贋作を本物に見せかけて流通させた模造品 などに分類されます。

 この田黄石擬きの篆刻印は、上記のいずれかに該当するとしたら、2と5のどちらかかその中間ではなかろうかと考えます。数十年前の作で、その時代で田黄石に特徴がよく似ている石を持ってきて、出来るだけ、それらしく似せるよう手を加えます。紐は、一応石の紐や工芸品作りをマスターしている職人に、古い美術品(同様の彫があったはずです)を真似て彫らせた、と推理します。側款の名前も然りです。印の刻みがないと、時代を経てきたような信憑性に欠けるので、一応篆刻の覚えがある人間に彫らせた、というところでしょうか。

 結論は、最初から分かっておりました。この篆刻印を出品したのはヤフオクの「書道・篆刻・美術品」分野を専門に扱っている「天香楼」という輸入美術商です。ワタシは、ここが最も安定的に質のいい本物の書道関連の物品を仕入れては出品(ネット販売)している信頼性の高い業者さんと見ています。おそらく店主は相当な経験を備えた目利きであります。
 この印を値踏みするときも恐らく瞬時にその材質や時代・由来を見抜いていたのだろうと思います。そこで然るべき値段(恐らく1万円前後)で買い取ってヤフオクに出したのです。今はヤフオクも表示や真贋の決まりごとが厳しくチェックされているので正式鑑定や、一定レベルの品質保証(返品・補償)が無いと、「本物」との品物の説明書きが出来なくなっています。天香楼さんはそれなので「田黄石」「秋堂」をあえて表示しなかったのでしょう。

鑑定結果「2万円
 「40年ほど前に作られた新田黄石で、古い印の模倣でしょう。彫りの細工はそれなりに丁寧で、石も田黄石に似た美しさもあるので、気の利いた工芸品・置物として大事になさってください」
 
コメント
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