植物園「 槐松亭 」

バラと蘭とその他もろもろの植物に囲まれ、メダカと野鳥と甲斐犬すみれと暮らす

今回の鑑定は「秋堂」さんの田黄石 (前編)

2022年03月05日 | 篆刻
 ネット(ヤフオク)で、これは!と思えるような印(印材・篆刻印)をボチボチと落札しては、その良し悪し・真贋・価値などを自分なりに推理し「鑑定する」のが、それ自体ある種の楽しみとなっております。
 
 その品物と言えば、海千山千のコレクターや美術商、愛好家さんなどがチェックした挙句に、ワタシ程度の素人で、しかも1万円程度しか投資しないしみったれの人間が落札するのです。それにはさほどの値打ちもの・掘り出し物のお宝が入手できる確率は極めて低いとみて間違いありません。

 ずっと欲しくて物色しているのは中国三宝の印材「田黄石・芙蓉石・鶏血石」のうちの田黄であります。3種の内、芙蓉石はピンキリで特徴が捉えにくく非常にバリエーションが広いため、どれが真正の芙蓉石で、価値が高いのかは判別しづらいのです。恐らくワタシの所蔵品(笑)のなかで10本以上は芙蓉石だと思いますが、悲しいかな、どれが芙蓉で、どの程度のお値打ちものかは未だにわかりません。

 また鶏血石は、20本ほどの安物は持っておりますが「全紅」と言われる石全体が真っ赤なものは数十万円します。印材としては印刀を撥ね返すほど固いので不向きとも言われます。偽物も多いので、値打ちものの鶏血石は最初から入手をあきらめております。

 肝心の田黄石は、時代のある旧石(100年以上前に出土したようなもの)として間違いない田黄石で、見た目が美しい逸品となると数十万円から100万円以上の値段が付きます。数百年の歴史の中で、産地である寿山の麓の田黄坂あたりの田んぼや山坂が掘りつくされ、新規の出土がすでに途絶えており、今ではパリン石や昌化石で似たような新田黄というものが安く出回る程度なのです。それなので、いまだに高価で誰が見ても田黄石というものには、ワタシごときにはとうてい縁が無いのです。詳しくはブログに載せてあります。田黄石はやはり格別でありますな - 植物園「 槐松亭 」
 
 そんなわけで、安いのに本物という田黄石を入手するのは土台無理なのですが、一つのヒントを見つけました。いくつかの刻印ありの田黄石の中に「秋堂作」の側款があることを発見したのです。この秋堂は中国の篆刻家「陳豫鍾(1762-1806) 」の号であります。金石文字に優れ、清の時代の西泠印派八家に称されたとのこと。この人の名前や号でヤフオクを検索してヒットする「印材」は、ほぼ全てが10万円以上の田黄石だったのです。

 つまり、陳豫鍾さんは、彫りやすく見た目も美しい一級品の田黄石を好んで彫った。秋堂の側款がある時代物の篆刻印は、本物ならばその印材は200年以上前の田黄石である確率が高いと推測したのです。そこでヤフオクに出品されている古そうな薄意や紐がある田黄石ぽいもののうち、側款に秋堂さんの刻字を丹念に探したのです。そして、遂に「田黄石」と説明・表示されていない印材を見つけました。「時代物 1980年代 寿山石花鳥刻印材」とありました。

 説明に秋堂・田黄石と表記されていないので、程度の低い安物でも全く文句が言えない代物であります。もし製作が1980年代という意味ならば、すでにこの時点で仿古品か偽物です。仿古品という言葉は、昔の品物のようなという曖昧な意味 で使いますが、まねるという意味もあるので古い品物を真似て作ったものです、と考えられます。そもそも由緒ある博物館級ならば1千万円もの値段が付くという宝石並みの貴重品なので、偽物文化の本場本家中国では、模造品まがい物・粗悪品が無数に作られていて、本物の田黄石に巡り合えるほうが稀なのです。
 それで、蒐集家さんや美術商はこれを田黄石ではない贋作・仿古(倣古)品 と見て高い入札をしなかったのでしょう(多分)

ところで、ワタシ独自の(田黄)鑑定チェック項目はおよそ次の通りです。
1.石が天然石か(人造石は論外)、自然の形を保った石か
2.石の材質が田黄石の特徴に合致するか
3.側款は本人の作風・墨拓に合致するか 他に刻まれた文字の巧拙
4.薄意(側面の薄いレリーフ)・紐(持ち手側の飾り彫り)の出来栄えがどうか、緻密さ美術性はあるか
5.石が美しいか、透明感があり艶やしっとり感があるか
6.台座や作成時の印箱があるか。
7.後世に名を残すような人の作と見える印面の彫か
8.客観的な事実との整合性
9.古いものか最近のものか 保存状態がどうであるか

これらを総合的に勘案しA(落札額よりかなり価値が高い掘り出し物)、B(値段相応、まぁそんなものでしょう)、C(一杯食ってひどいものを落札した)の判定を行うので、「本物かどうか」に拘るわけではありません。むしろ贋作・類似品だということが前提です笑。

 そして、ワタシは、それが当然田黄石でもなく200年前の篆刻家陳豫鍾の印に模したものだろう、という品物を18千円という微妙な価格で落札しました。これが先日手元に届きました。
 続きは、また後編にて 乞うご期待<m(__)m>
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