植物園「 槐松亭 」

バラと蘭とその他もろもろの植物に囲まれ、メダカと野鳥と甲斐犬すみれと暮らす

今回の鑑定は「秋堂」さんの田黄石 の倣古品?(中編)

2022年03月06日 | 篆刻
 印材の王様、田黄石と一口で言っても、実は多様な種類に分類されています。中には緑田黄石といって、緑色石もあります。田緑石だろうと突っ込みたくなります。そもそも産出した時は、土中に数万年も眠っていた丸石なのです。寿山周辺がまだ活発な火山活動があった時代に溶岩状に流れ出したり噴石となったものが地表にたまり、川に流されたり転がって丸くなり、さらに数万年の間に、砂や土がそれを覆って地中で圧力や高熱、水分などにさらされるうちに石の表面が変質していったものなのです。それなので、どんなに大きくても一抱えほど、小さいものは小砂利程度までの丸い石で「皮」と呼ぶ変質層の表面と、中の黄色を基調とした半透明のヨウロウ石で出来ているのです。これを発見した農民たちが耕作そっちのけで石探しに没頭したのです。

 今ある元祖田黄石にも形状によるランクがあります。最上は、黄金色・琥珀色で非常に透明感があり、明るいのに深みもある美しい石であります。これは、掘り出された田黄石の中でも雑味の無い均質・透明度のあるものを選び、外皮を全部取り除いて印材として角形に整形しているので非常に値打ちがあり珍重されます。お米で言えば大吟醸用に精米されているのです。(普通、田黄石は重さで売買されるので、うっかり余分に削ったりはいたしません)

 殆どの場合は、丸石の形をそのまま生かし、細くなった端の部分を切り落として「印面」にいたします。勿論、切り落とした片方の小片も印材として大事にされます。長細いスティック状の原石ならば、4,5個に切り分けて活用したでしょう。実際それと思しき小さな田黄石のような古印が数個ワタシのコレクションにもあります。

 丸石の皮を全部落として温潤で艶ややかな石に磨きをかけるか、あるいは烏鴉皮といって、わざと皮の一部を残してレリーフのような黒と黄色の模様を浮きだたせているものもあります。いずれも手間がかかって技術も求められるのです。こうした石を専門の職人さんや彫刻家が、更に石の色・形を生かした浅い浮き彫りを施すのです。中には、手の込んだ彫刻をして「置物」として仕立てるのもありますが、印材として説明を続けます。

 これを、この4,5百年もの間、田黄石蒐集家や、投資家、富豪、中国の政治家や役人さんが先を争って買い求め、また、著名な篆刻家・書家がこれに、印として刻んで印として現在まで骨董価値の高い文物の一つとされてきたのです。
 それから、田黄石にはもう一つの系統があります。それは黄色というより黄土色に近い色で、緻密な石質ながら透明度が低いものです。磨けば勿論「玉」のように輝きますし、古色然とした趣もあります。この種の印は、前述の飴色の印と違って、橙色・黄色に加えて白色から朱色・あずき色などの模様が層をなすという特徴もあります。田黄石には「紅筋」という赤みがかった筋や蘿蔔紋という大根を輪切りにしたときの模様が入るといいます。これらの特徴的な要素が備わっているのが価値を判断する要素となるのです。

 さて前置きはこの位にして、届いた「時代物 寿山石花鳥刻」を見てみましょう。共箱・印箱は無く、石が包装材で幾重にもくるまれているだけのものです。
これが、全体像です。印面だけで5×7センチ幅があり、重さが415gと堂々とした大きさの石であります。第一ハードルは自然石か否か、これはクリアです。さすがに数千個の印材を在庫で持っていますので、人造石かどうかの区別はつきます。表裏の状態から、自然石の大半をそのまま生かし、表側に薄意ではなく、紐という彫刻を施しております。実物の真正・一流品の田黄石を手にしたことが無いのでこの時点では田黄石かどうかは判別できませんが。

田黄石の基本的条件である、黄色っぽい皮がある、切り出した角材ではない、半透明で稠密な肌触り、温潤な肌理というのは満たしているようです。鳥が二羽、牡丹のような花に葉っぱと蕾が配されております。よくご婦人が洋服の胸あたりに止めるブローチのように見えなくもありません。かなり手馴れた彫師が丁寧に彫っているようには思えます。

 表面の皮を削った後に彫刻して出る石の地の色は、暗い黄土色と赤味が混じっております。紅筋というより、なにかにかぶれて斑に赤くなった顔の皮膚のようにも思えます(笑)。擦過傷のような傷やぶつかって出来る欠けもほとんどなく保管状態は良好と見えます。これは、元でのかかった貴重品としてずっと大事にしまわれてきたか、最近作られたので傷が無いかのいずれかでありましょう。

 さて、これから子細に調べていくのですが、予定稿となりましたので、続編にて鑑定結果をお伝えすることにしましょう。
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