植物園「 槐松亭 」

バラと蘭とその他もろもろの植物に囲まれ、メダカと野鳥と甲斐犬すみれと暮らす

一日千秋の思いで待ったオーダーメイド筆

2021年02月18日 | 書道
ようやく、昨年末から依頼していた書道筆が出来上がりました。

 豊橋筆メーカーとして、有名どころの筆庵さんに、無理を言って筆を特注いたしたのです。ここに至った経緯を簡単に説明すると、豊橋筆が、専門家書道家向けの高級筆のシェアが一番ということを知り、ネットで書きやすいと評判の「相生」という兼毫筆を買い求めたことが起こりであります。

 謳い文句にたがわず、非常に書きやすく字が上手になったと錯覚するほどでした。これが、半紙の4,6文字程度には適しているのですが、もう少し大きな文字や半切サイズに書くには若干穂先が短くボリュームが足りないと感じたのです。
 作品作りには、いろいろと決まりごとがあるのですが、その一つが半切の場合は、墨継ぎが三度というのが理想なのです。この「相生」は若干小さいがゆえに、墨を持たせるのが難しくかすれてしまうの何度も墨継ぎが必要になるのです。通常書道家さんは、やや大きめの毛の量もたっぷりとした羊毛筆を用いるのが基本になります。

 羊毛筆も、先端が揃った平筆で毛の長い高級な長鋒筆を使えれば、味わいのある書を書くことも出来ますが、これは上級者高段者向けでして、ワタシレベルの中級車にとっては、なかなかうまく使いこなせず、ちょっとハードルが高いのです。

 それに引き換え前述の「相生」は中鋒で、羊毛(細光鋒)・鼬毛・天尾(馬の尾脇毛) を混ぜて作った兼毫筆なので、穂先がばらつかず、きれいな線質を出せるのです。ところが、この筆の毛の配合・作り方でワンサイズ大きいものを探したのですが見当たりませんでした。筆庵さんに問い合わせましたが、同様の組成の筆は無いとのこと。似たような筆を取り寄せたのですが、これが、いまいち違いました。
 
 理由は、一つには細光鋒とか細微光鋒 という貴重で高価な毛を、兼毫筆に用いるのはもったいないからなのですね。また、一緒に使う鼬毛は、そもそも短毛なので相生より穂先を長くするには足りない、ということのようでした。

 そこで思いついたのが、不要な筆の再利用でありました。手持ちの中古筆はネットオークションで集めて、売るほどあります。特に細微光鋒クラスの高級羊毛(山羊)の毛を使った長鋒筆は、狙って集めたせいで数十本あるのです。相談したところ、職人さんの人件費(手間賃)が2万5千円で、羊毛さえあれば、ほかの材料は2,3千円で出来るということでありました。鼬は長毛種のコリンスキーの毛を使います。もし、すべての材料を新たに揃えて、高級な羊毛筆を注文したらおそらくその倍の値段になるでしょう。

 数本、毛質の良さそうな長鋒筆を筆庵さんに送って制作依頼したのが昨年暮れでした。古いけれど最も良質な羊毛(細微光鋒・山羊)と高級コリンスキーの鼬毛などを用いた兼毫筆で、中鋒と長鋒筆の中間の穂の先をなだらかな円錐形で揃えるといった注文です。鋭い起筆(書き始めに紙面に筆の穂が 最初に触れる)と滑らかな線質、そして、とめ、はね、はらい などがまとまりがよく柔らかな終筆となる。墨もちがよく、かすれも出しやすい、といった欲張りな筆作りをお願いしたのです。

 何度かメールや手紙で連絡を取りつつ10日ほど前に、仮止めをした試作品が届き、水書きで感触を確かめました。文句があろうわけもなく、送り返して仕上げていただきました。軸(筆管)はえんじ色にいたしました。数ある筆の中で一目で分かるようにほかにない色にしました。

 そうして、先日、ついに出来上がりました💖♬♪。ひと月半、3万円の製作費でありました。これです。

(奥から3本までは、同じ筆庵さんから買い求めたものであります。)
 毛の質から長さ形状、軸に至るまでこだわってお願いした世界に一本だけのオリジナル筆です。毛だけで何万円といわれるような山羊の希少部位の毛をふんだんに使い、自分の要望で理想的な筆を作ってもらうということは、何たる贅沢、何たるシアワセでありましょう。

 高段者や書道家でなければ、なかなか特注筆などを作ることは無いのです。ワタシのような中級者には勿体ない、分不相応とも言えます。
 若ければ、そう急ぐこともなくじっくりとやればいいのでしょう。しかし、ワタシはすでに65歳で、そうそうのんびりしてられないのであります。出来るだけ短期間に字がうまくなりたい、いい書を書きたい、その一心で、そのためには時間も手間も惜しまず、考えうる限りの手立てを講じる、という熱意でもあります。

 不満があるとしたら、せっかく作ったのだから、命名・作筆者・「私用」などの刻字をしてもらい損ねました。   うーん残念
コメント
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