植物園「 槐松亭 」

バラと蘭とその他もろもろの植物に囲まれ、メダカと野鳥と甲斐犬すみれと暮らす

むやみに押し付けるもんじゃあありません

2021年02月05日 | 書道
落語で、「寝床」という噺がありますな。大家・大店のご主人、店のことは番頭や若いものに任せて楽隠居、暇を持て余して始めたのが「義太夫」、これがあまりにも下手で、聞くに堪えない声を出すため、店の出入りの人や、店子などに声をかけても尻込み、食い物飲み物で釣り、挙句に来ないなら長屋を出て行けと脅したために、みんないやいや命がけで集まる、という噺であります。割合、これをやる噺家さんは多いので大体のかたはご存じでしょうが。

 へぼなりに書道を続けどうやら格好がついてくると、どうも人に見てもらいたいと思うようになります。書いたものを見せて、「いいですねー、欲しいなぁ」などとお世辞を言おうものなら、すぐさま落款を書いて押し付ける、なんてことになります。篆刻も然りで、最近では白文(陰刻)が手馴れてきてどんどん彫れるようになったものだから、身内や友人に彫っては差し上げる、それでは不満だろうとご丁寧に印泥までつけております。(笑)

 これでは「寝床」の大家と大して変わりませんね。
それでも、作品を保存するために、ネットで、書の表装をどうしたら安上がりにできるのか探しておりました。今年は作品作りを主眼にしているとはいえ、きちんと仕上げて落款を入れるだけでは終わらないのです。つまり、せっかく、作品に仕立てても、薄い書道紙一枚を畳んでしまう以外に手が無い、という状況に陥りかねないのです。これだと飾るわけもいかず、いつの間にか破れたり汚損したりということになります。

  おそらく他人様も、貰ったら迷惑なのです。掛け軸なら丸めてしまえば場所も取りません。飾る気になれば、釘一本打てば吊り下げられます。しかし、書いたまんまの薄紙一枚押し付けられても何のお構いも出来ません。画鋲で止めてもすぐに破れるでしょうし、焚き付けにも便所紙にもなりません。何しろ、条幅のお軸になれば、安くても1万円、いいものだと2万円以上の表装代がかかります。
 価値のある書道家の作品ならば、表装代は惜しくないでしょうが、ワタシレベルの素人の手になる書など、ワタシ本人ですらお断りでありますな。

 そこで、ネットで皆さんどうしているか調べてみました。最も一般的なのは、自分で裏打ちして、仮表装するのです。裏打ちは、作品の書道紙を補強して額や掛軸に張る前の必須作業です。通常「ふのり」を薄め和紙を張り合わせるのですが、ちょっとしたコツがいるので、アイロンをかけて圧着する簡易方法もあります。これを、数百円で売っている紙製の「仮巻」に張り付けるのが手っ取り早いのです。そういえば昔、露店・骨董屋さんでよく見かけました。ペラペラの紙でできたまとめてナンボの掛軸、素人が作った書画をとりあえず安上がりな仮表装にしていたんですね。

 ワタシは、額縁がいいのではないかと考えていました。裏打ちさえしておけば、いつでも中身を交換できるし。しかし、案外廉価の額縁は売られていません。いくつか額装のお店を見ましたが、基本的には日本画・洋画などの絵画は額縁、書道・水墨画・花鳥画などの書画は掛軸と相場が決まっていて、半切サイズ以上の大きな額は注文生産になるようです。幸便にして、ヤフオクで見つけたアルミ製のフレームの額縁を格安で3個入手いたしました。

 さて、もう一つの解決策を見出したのです。それが「白抜き掛軸」であります。これは、白地の書道紙が中央にすでに張られている(つまり裏打ちした白紙を表装済み)もので、多少品質や外観は劣るものの、布地で表装された本格的な掛軸に見えます。安いものは1巻千円程度ですが、概ね5千円から1万円近くいたします。作品を表装に出すのに比べると半分ほどの費用で間に合うのです。
 最大の問題は、一発勝負、何度も書いて一番いいのを作品に仕上げるということが出来ません。失敗したらパァになりますな。書き直しはききません。その場合は、失敗した作品部分(白抜き部分)だけを切り取って、別の裏打ち済みの作品をはめ込み、裏から厚手の和紙で張り付けるという、まさに裏技を使えばいいのではなかろうか、と思います。

 すでに、一本だけ「白抜き」掛け軸は入手しております。ちゃんとした布地が張られているものですが、相当古い品で、点々と茶色の小さな粒上のシミ(カビ?)が浮いております。これで十分、最近得意にしている百寿(福)図を書くことにしました。

 これは、半切にびっしりと100字を根気よく書き込むという作業で、もとより失敗は出来ません。途中で書き損じたら、それまでの苦労が水泡に帰すので、真剣勝負なんです。滲んだり字の太さにバラつきが出ない様、細心の注意・集中力で書いていくものですが、小さな字なので、何字かは、ちょっとくらい間違えたり線が歪んでも、気にならないとも言えます。白抜き掛軸にもってこいです。

 これで、うまくいったらたくさん書いて、誰それにあげよう、などとよからぬ事を考えております。落語では、自分の寝る場所を酔客に取られて泣く丁稚を見て旦那さんが、自分の義太夫に感激したものと勘違いするのが「オチ」でありました。人に泣かれない様、くれぐれも用心いたしましょう。

コメント
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