前編をupdateして日時が経過した。前編についてはココを御覧願いたい。
日本の経済成長鈍化、一向に向上しないGDP成長率、個人的に考えるその根本原因を述べる前に、手前味噌ながら(株)村田製作所について、当たり障りのない表現ながら、今少し眺めてみたい。(株)村田製作所の創業者で初代社長の村田昭氏は、創業間もない中小企業でありながら、分不相応な研究所を設立された。いつ倒産しても不思議ではない戦後のドサクサ期である。目的はセラミックコンデンサーの高誘電率を目指すセラミック原料の開発と電極材料の開発。手仕事からの品質不安定を脱却するための生産設備(生産機械)開発のためである。
創業者の卓越した将来を見越したうえでの分不相応投資である。どのように表現すればよいのであろうか、『武士道精神』とでもよぶべきであろうか。“武士は食わねど高楊枝”とでも云おうか。中小企業とも呼ぶべき分不相応さで、売り上げに匹敵するような投資を敢行されたのである。一歩間違えば倒産である。その精神は、筆者が在籍中はもとより、今日の村田製作所に引き継がれているように見受けられる。
研究開発で重要なことは、新たな機能を持つ新商品開発である。新商品を開発するには、基礎研究、原材料開発と工法開発が欠かせない。売上げの6.5%である年々1000億円以上を投資しても、新商品が誕生する保証は無く、また売れる代物になるか・・・との保証もない(従って世のサラリーマン経営者は危ない橋を避ける)。まさに博打である。博打ではあるが、それを根気よく継続したことは立派である。現代社会にどのように貢献したいのか、その貢献を果たすため、自社の強みと弱みはどうか。強みを更に強くするための課題と、弱みを克服する課題のロードマップ。社会貢献するための新機能商品開発のロードマップは不可欠である。
設備投資のあるべき姿は何だ。1990年代初頭のバブル崩壊前の高度成長期、必然的に労務単価は増大した。大手・中小企業問わず、労務コスト対策として海外逃避(この逃避がGDP鈍化の諸悪の根源)した。当初は韓国・台湾引き続いて東南アジア・中国へ。当然彼らの国々も労務単価は増大する、アフリカでも行こうとするのか・・・あまりにも安直である。
設備投資のあるべき姿は、生産性向上投資である。労務単価増大の吸収どころか、更に増分利益を生み出す合理化投資すべきところを、そうしなかったつけが今日のテイタラクである。幸い(株)村田製作所は生産性向上の合理化投資を年々実施し、海外売上高90%なるも国内生産比率65%強を維持している。つまり国内生産・海外輸出で、日本のGDP成長に幾ばくかの貢献をしている。
手前味噌の話ばかりで、御読みの方々には面白くもなんともないが、今しばらくお付き合い願いたい。設備投資には3種類ある。一つは増産投資、二つ目は合理化投資、三つめはそれらを合わせた、増産合理化投資である。村田製遺作所の内情をバラス訳にはいかないが、既に雑誌に発表されているのですこし詳しく記す。設備投資可否の判断基準は、投資案件の投資額が投資による増分利益の14カ月分で償却できることが、投資判断の基準である。14カ月という月数にも意味があるが、ここでは置いておく。これだけなら別に驚くものではないが、前提条件として年々の値下がり率7-8%、労務単価上昇率5-6%、原材料上昇率5-6%(率については定期的な見直しをしている)を見込んだ上での、増分利益14か月分で償却できる案件は、そう多くはない。従って増産投資は相当厳しく、増産するには生産性向上の合理化投資と抱き合わせをせざるを得ない。その為には不断の工法開発が欠かせない。
このような努力の積み重ねによって、年度により部品供給がタイトであれば、値下がりが少ない。それは増分利益として働く。その結果が部品屋でありながら、税前利益率17.7%に現れている。
さきに日本最強のトヨタ自動車、内部留保は22兆円なるも有利子負債は約26兆円と記した。村田製作所のそれは、内部留保1兆7866億円に対し、有利子負債は1107億円で無借金経営である。1107億円は銀行との顔つなぎだけの意味しかもたない。
日本経済のテイタラクぶりを長々と嘆いているが、この失われた30年の間に、中進国は着々と実力をつけて来た。日本の危機は速ければ10年後、遅くとも20年後には着実に訪れる。何となれば年率6-7%で成長を続ける中進国、先に記したが日本はこの30年で6.7%の成長しかできなかった。つまり10年以内に一人当たりGDPで、日本は中進国にキャッチアップされ追い越されるであろう。その結果どうなるか。中進国のGDP成長には、彼らの収入増が伴う。それは間違いなくインフレを呼び起こす。インフレにより物価は上昇する。彼らの物価の上昇は、我が国の輸入価格の上昇につながる。
最近では、日銀の長期に渡るゼロ金利政策から、ジワジワと円安に傾いている。この金融政策が続くかぎり(続けざるを得ない弱みをもつ)泥沼に陥る。食糧の大半を輸入している日本、円安の進展と輸入相手である中進国での物価の上昇は、輸入物価の上昇につながる。日本では給料の上昇が停止している中で、生活するには生活レベルを引き下げざるを得なくなる。
その時になって日本人は、生活レベルを引き下げる屈辱を味わうことになる。果たして耐えられるか? その時になって日本人のヤル気マインドが着火されることになる。
日本は第二次大戦の敗戦後、奇跡の復活を遂げたが、今後は経済戦争で敗戦を経験することになる。その敗戦は屈辱以外の何物でもないが、この失われた30年の無策ぶりでは致し方なかろう。それにより忘れていたヤル気マインドが再点火されることになる。
その屈辱を味わいたくなければ、大胆な経済対策が必要である。先ずは大幅な投資減税と投資補助。特に生産性向上の合理化投資には、無税も思い切って実施すべきであろう。今後、20年30年先の産業構造の行方、先端産業として何が有望か、思い切った政府の投資援助が必要であろう。半導体は韓国・台湾勢にしてやられた。半導体といっても分野は広い。パワー半導体については、方策次第でトップグループを日本勢で独占できる可能性がある。
Infineon Tech(独)は頭一つ飛びぬけているが、三菱電機などは技術開発投資と設備合理化投資の集中で肉薄するのは可能であろう。今後の自動車産業はパワー半導体なくして成立しない。幸いに日本の自動車産業は世界で冠たるものがある。今の内だ、今を逃せばメモリー同様に諸外国企業の後塵を配すことになる。パワー半導体を事例に、つたない拙論を述べた。今後目が出る産業・企業の掘り起こし、既に世界に冠たる業界の助成策を推進すべきであろう。
次に海外進出企業の日本回帰に政府は手をかすべきだ。日本回帰には生産性向上が不可欠である。政府は、生産性向上投資には非課税はもとより補助金を出す覚悟も必要であろう。生産性を向上させると云っても、無人稼働は難度が高いであろうが、200%程度の向上は可能であろう。生産性向上による余剰人員は、増産や新商品生産に回す。場合によっては新規雇用が発生する・・・再びの成長軌道に戻れるはずだ。
(MLCC/積層セラミックコンデンサー生産量 世界1・2位を競う生産拠点は設備投資に余念がない)
くどいが、過去の歴史を思い起こして欲しい。バブル崩壊後の1994年(平成6年)に再開された赤字国債、もはや国債発行残高は1000兆円を超える規模となった。バブル崩壊後GDPは一向に増加せず、結果として税収も増加しない。相次ぐ自然災害に東電の事故等々、赤字国債増額の糊塗が続く、誰が考えても返済は不可能にちかいであろう。歴史は繰り返す、借金(国債)の踏み倒ししかなかろう。第二次世界大戦の敗戦と同様に経済戦争での敗戦、そのようなショックでしか日本全体の眼は覚めないであろう。
思うに、各企業から創業の精神は失われ、上場企業の経営幹部はサラリーマン化した。任期中当たり障りがなければ良いのである。高邁な精神により高い目標を掲げ、失敗の笑いものになりたくない。このヤル気モードの失墜が今日のダメ日本にした。くどいが企業の存続と成長は、生産性の向上と不断の新機能商品開発の繰り返しだ。武士道精神を喚起したい。今、食えなくても辛抱しろ。新商品の開発と生産性の向上に休みはない。立ち止まりも許されないこと銘記してほしいものである。最後は江戸時代でもあるまいに、武士道精神になってしまった。今日欠けているのは、創業者の高邁な思想と求め続ける姿=武士道精神である・・・世の経営者諸氏よ目を覚ませ。
<了>
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