盲人書簡・上海篇/寺山修司
寺山修司の戯曲6/思潮社
「天井桟敷」という劇団を引っさげて時代を疾走した寺山修司。ボクはリアルタイムで寺山氏が生きて活躍していた様子はよくは知らないが、彼の死後、妙に気になって寺山の遺産である劇団「万有引力」の芝居を何本か観たりしたことがある。寺山修司の劇作による芝居は、生みの親である主人がそこに居なくても舞台は新鮮で過激、その熱意は間違いなく観客席に届いてきました。
そして先日、図書館で寺山修司の戯曲集を借りて読んでいたら、江戸川乱歩作品の“明智小五郎”“小林少年”“黒蜥蜴”の3キャラクターが登場する寺山の作品に出くわしたのです。
『盲人書簡・上海篇』―この作品は「見えない演劇」とされ、役者が観客の入場が終わると扉をふさいでしまい、非常灯なども消し、全くの暗によって状態を作り出す。なんと上映時間の半分は暗黒状態、観客は「見えない演劇」を想像力で自分だけの演劇を作り出すという、寺山らしい作品であったという。
その戯曲の中で、小林少年とその母による会話がくだらないというか意表をついて面白かった。(小林少年は目が見えないという設定になっています)
●母:芳雄、おまえまだ、あの明智さんという人とおつきあいしているのかい?
○小林:どうして?
●母:お母さん、あの人をあまり好きじゃないんだよ。
○小林:(ややムキになって)そんなこと言うもんじゃないよ、お母さん。明智先生には、ずい分お世話になってるじゃないか、お母さんだって。
●母:でもね、芳雄。あの明智さんという人を世間じゃ何て言ってるか知ってるかい?
○小林:・・・・・
●母:あの人は、ホモだって噂だよ。かわいい男の子ばかり集めて、「少年探偵団」だのって言うけど、おフロにばかり入ってるというじゃないか。
○小林:(たしなめて)お母さん!
●母:あの人が変態だってわかってから、皆、離れていったけど、おまえだけが、いつまでもくっついている。母さん、心配なんだよ。
○小林:思いすごしだよ。明智先生は、そんな人じゃない。
●母:おまえは何も知らないのさ。
○小林:お母さん!
●母:おまえはお人好しで、世間知らず、その上盲目なんだから。
○小林:・・・・・
●(思いついたように)芳雄、おまえ、包茎の手術したらどうだい?
○小林:エッ!何だって?
●母:健康保険がきくそうだよ。
○小林:何てこと言うんだ、母さん。
●母:早く治さないと、マサ子ちゃんが大きくなっても嫁にきてくれないよ。それじゃなくたって、おまえのは小さいんだから。
フラッシュ一閃!
まっくら闇で、母、裸で目をギラつかせている。
小林、まるで気づかず、天井を見ている。
○小林:そんなことないよ、母さん。ぼくのとても形がいいんだって。
●母:(キッとなって)誰がそんなことを言ったの、芳雄!
○小林:明智先生がそう言ってた。
●母:おまえ、あの男にそんな大切なもの、見せたのかえ?
○小林:べつに、見せた訳じゃないけど、たまたま銭湯で、くらべっこしたんだ。先生のは、とても立派だった。
●母:だから母さんは言うんだよ。早く手術した方がいいって。こないだ、「家の光」の家庭医学の欄見てたら、包茎は、不潔で発育をさまたげるだけじゃなく、人間としての成長もさまたげるって書いてあった。
どこか遠くから「少年探偵団」のメロディが低く幻聴のように流れている。
会話の内容が途中から変になっていく。訳がわからない親子の会話、戯曲のほうも何故乱歩なのか?と考えてもよくわからない。でも詳細を見るとブラックで面白い。実際の芝居はどうであったのだろうか・・・
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近頃、乱歩ねたのイベントがたくさん行われています。
子供の頃、図書館に乱歩の本があってよく読みましたが、実際は耽美で怪しいですよね。
今、改めて読み返すとゾクッとします。
シュッとマッチを擦ってはいいですね。天井桟敷の芝居は観た事がないですが、万有引力の芝居は何本か観た事があります。そのときも役者達はマッチを擦っていました。
名張には今年足を運びました。生誕の碑を見て市立図書館の乱歩コーナーへ行きました。
三重の山の中、意外と遠かった記憶があります。
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