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飾釦(かざりぼたん)とは意匠を施されたお洒落な釦。生活に飾釦をと、もがきつつも綴るブログです。

偏在する乱歩・A‐M→演劇ユニットてがみ座公演「乱歩の恋文」(シアタートラム)を見た

2012-01-30 | 江戸川乱歩

■日時:2012年1月28日(土)、19:00~

■劇場:シアタートラム

■脚本:長田育恵

■演出:扇田拓也

■出演:尾崎宇内、福田温子、西田夏奈子、稲葉能敬、他

 

「演劇ユニットてがみ座」による公演「乱歩の恋文」をシアタートラムで見ました。このblogを書きはじめるきっかけとなった江戸川乱歩(食わず嫌いでいた江戸川乱歩を40歳代の後半に初めて乱歩を読んで、こんなに面白い小説とは知らなかったとblogを書きはじめるにあたりテーマに選んだ)、その彼を登場させる演劇であります。観劇の印象は一言、面白かった!正直言ってここまで完成された、よくできたものとは予想していなかったので、劇場を出た後はなんか得したなって感じになりました。脚本を書いた長田育恵という作家はなかなか細かいところまで乱歩を調べていて、そうした真摯さにも好感が持てました。乱歩夫婦の馴れ初めが乱歩の恋文がきっかけでというのも初めて知りましたし、兄弟で開いた古本屋「三人書房」に妻の隆子が来るわけだからなるほど狭い空間で寝泊まりするというのも合点がいくという案配で、劇的な構造とともにそうした細かい所までに目を配っている作者の視点に関心させられたわけです。

 

乱歩の妻・隆子の今では考えられないような馴れ初めとその後の献身的な支え、最後の夫婦愛に満ちた彼女のラストの長台詞には思わずウルウルとしてしまいました。きっかけはどうであれ長く連れ添ってきた男と女のくされ縁、それも愛の一つの姿というかそんなものを感じさせてくれるのです。そうしたところは女性ならではのきめ細かい機微が表されていたんじゃないかと。隆子の乱歩への励ましの言葉、エール。スランプを克服したその後の江戸川乱歩は隆子の台詞にあったように「怪人二十面相」「少年探偵団」を発表し復活する。それらは当時の少年少女の夢となり、路地裏の探偵ごっこに結実するのである。さらにはそれのみにとどまらずのちの仮面ライダーなどの子供向けアクション番組の原型にもなっていく。乱歩の影響は計り知れないほど大きいのであります。

 

お芝居は劇中劇として心的な世界を描きながらそこに描かれていたところは、好きこそものの上手なれ、仕事は直ぐに辞めてしまって続かないものの天性の才能はやがて大乱歩として華を咲かせることになる乱歩人生の部分を。そして、エンディングからその後は、プレッシャーを克服したからこそ成し得たさらなる大仕事を想像させる劇の構造体をなしています。さらに具体的な舞台空間も、隆子や乱歩の、舞台を覆う幕の前と舞台最後方以外は幻想世界という形になっていて自在に時空間を飛び越え、役者らはそれを具現化します。つまり観客から見た舞台は幻の世界という二重世界をリアルにも構築しているという……。

 

ところで、私が思うにはお芝居はとても映像的な感じがしました。うまくいえないのですが私自身は、まるで朝ドラを見ているような感覚に陥ったのであります。なんでなのでしょうか?よくはわかりません。デジャヴュとしての朝ドラ?印象としても15分ごとのドラマが展開していくという感じで。もしかしたら作者は朝ドラのファンなのかも?なんて勝手に想像をしてしまいました。映像的であり、テレビドラマ的、そして乱歩の知識などなくともわかりやすい展開、純粋に楽しめる大衆性、そんな言葉を見ている最中に駆け巡りました。

 

江戸川乱歩の連載を放棄しての失踪。世間の期待、他者の視線、プレッシャー、偉大故の苦悩は作家の興味を呼ぶのでしょう。あの久世光彦も失踪した乱歩を小説として書いていたのを思い出しました。

 

 

江戸川乱歩傑作選 (新潮文庫)
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人間椅子 江戸川乱歩ベストセレクション(1) (角川ホラー文庫)
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芋虫 江戸川乱歩ベストセレクション2 (角川ホラー文庫)
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怪人二十面相 (少年探偵)
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