飾釦

飾釦(かざりぼたん)とは意匠を施されたお洒落な釦。生活に飾釦をと、もがきつつも綴るブログです。

漫画no乱歩#21⇒「江戸川乱歩 異人館」(山口譲司)を読む

2011-09-02 | 江戸川乱歩

ビジネスジャンプに連載中?(実際に確かめたわけではないので)の江戸川乱歩の小説を原作とする山口譲司による漫画「江戸川乱歩 異人館」(1、2巻)を読みました。昨日の記事に続き久しぶりの<乱歩>です。久しく乱歩について思い巡らすことはなかったのですが、この単行本化された漫画を続けて読んだことにより、あらためて江戸川乱歩の特異性、オリジナル性には関心させられました。大正の時代に探偵小説なる分野を確立し、明智小五郎(その他にも怪人二十面相や少年探偵団もある)というキャラクターを構築し、すっかり現代にまで定着させたその力量。まずもって作品が面白くなければそんな現象は起きることもありません。断トツに面白いというのが、江戸川乱歩なる稀有な作家が今日まで残っていて愛されている大きな理由の一つに違いありません。

 

そして面白いだけではなく、注目すべきは作品の底流に流れている性的な欲望によって怪物化された人の欲動であります。多くの乱歩の小説に登場する人物はそうした制御が不能な性的な欲動につき動かされ犯罪を犯していきます。大正時代に書かれた作品ですから露骨な表現は乱歩の小説にはありません。むしろ教科書的な読みやすく解りやすい丁寧な文章なのです。その殊更過激に走るでない平坦な文章の中に乱歩は、強烈な毒素を仕掛けているのです。例えば昨日アップした「陰獣」に出てくる<蚯蚓腫れ>という言葉、その程度なわけです。しかし、ほんの一言で表されるものの猟奇的な事件の展開とともに、小説の行間に想像しえるその登場人物の性的生活、それが浮かび上がってくるのです。そうした乱歩の毒こそが後々世代のクリエイターにも刺激を受け、映画化されたり漫画化されたりしているのでしょう。これまでいろいろなものを見てきましたが、何に反応しているかというと、やっぱり乱歩の毒に反応しているとしか言えません。

 

この山口譲司の漫画も例外ではありません。そうした登場人物の性的な欲動の部分が大きくクローズアップされ、それとともに猟奇的な事件が進行しています。タイトルにある異人とはまさしく怪物化した性的欲動を抱え込んだ人物を指しているのです。そして年月を経て大正期の江戸川乱歩が表現したエロ・グロ・ナンセンスの感性は、引き継ぐべきところは引き継ぎ、多少なりとも時代の変化によりテイストを変化させています。描かれている女性は<萌え>的な表現となっていますし、明智小五郎らは外観が男性的というよりは中性的な感じになっています。全体にはゴスロリ風な感覚に仕上がり狂気度も増しているようです。正直、中年の域の私の感性ではちょっと現実感が希薄すぎ違和感を感じてしまうテイストなのではあるのですが、今の時代の若い人達には、この漫画のような感じがしっくりくるんでしょうね、きっと。江戸川乱歩を再評価するにはいい案配に出来ている漫画であると思います。

 

江戸川乱歩異人館 1 (ヤングジャンプコミックス BJ)
江戸川 乱歩
集英社
江戸川乱歩異人館 2 (ヤングジャンプコミックス BJ)
江戸川 乱歩
集英社
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 偏在する乱歩・A‐L→グラビ... | トップ | 映画「サヴァイヴィング ラ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

江戸川乱歩」カテゴリの最新記事