🔶1171『自然と人間の歴史・世界篇』中国の住宅事情と住宅政策(~2022)

2022-02-15 10:10:27 | Weblog
1171『自然と人間の歴史・世界篇』中国の住宅事情と住宅政策(~2022)

❮はじめに❭
 中国では、2021年に不動産大手企業の経営問題が大きく浮上し、様々な「膿」が顕在化している。それらを受けて、この年の1~11月では、全国31省・自治区・直轄市のうち13地域が前年同期に比べ値下がりした(注)。

(注)参考までに、過去10年位を振り返ると、住宅価格(前年同月比)は2012年と2014年にはマイナスに振れ、それからも2017、2020年にも上昇から横ばいに転じたことがあり、一辺倒の上昇基調ということではない。特に2014年の下落場面では、景気への下押し効果が心配されたことがある。

 経済情報サイトの中新経緯が伝える、不動産プラットフォーム事業を手掛ける易居企業集団傘下の易居研究院シンクタンクセンターがまとめたリポートによると、住宅価格が下落したのは黒竜江(10%)がトップ、次いで青海省(7%)、吉林省(同)、甘粛省(同)、広西チワン族自治区(同)、雲南省(5%)、山西省(同)、チベット自治区(3%)、河北省(2%)、内モンゴル自治区(同)、新疆ウイグル自治区(同)、江西省(1%)、貴州省(同)。そのほか、四川省、陝西省、遼寧省、河南省は横ばいだったという。
 一方で、浙江省の住宅価格は13%、海南省と重慶市は各8%、広東省は6%上昇したという。
 これを受けて、件数住宅取引額は、10省区市が前年同期に比べ減少した。減少幅は青海省が25%で最大。雲南省が21%減、黒竜江省が18%減、遼寧省、広西及び内モンゴルが10%減となっているとのこと。
 これらの背景には、冒頭でのべた市場の激変(こちらが主な要因)とともに、政府が、2022年の経済運営方針を決める中央経済工作会議で、都市ごとに適切な不動産政策を打ち出すなど、引き締めをしていることがあろう。

❮経緯❭

 中国での住宅取得が本格的に始まったのは、1990年代の後半であった。1990年代半ば以降、土地の所有権と使用権(定期借地権:宅地の場合、最長70年間)が分離され、土地の使用権が払い下げされるようになったのが、住宅ブームの後押しとなる。特に、胡錦涛(フージンダオ)政権(2003~2013年)になってからは、土地使用権払下げによる売上げは各々の地方政府の財源にしてよいことになった。

 今世紀に入ってからは、2005年頃から急激に増加している。これに関連して、中国の住宅ローンについては、1996年に、国有商業銀行が個人住宅ローンが解禁する。そうしたローンの解禁とともに多くの国民が一斉に住宅取得に向かっていく、その動きが他の要因に加わっていく中、家計債務を押し上げていく。
 これで勢いづいたこが住宅開発業者である、彼らは、債務を膨張させて不動産バブルを作り出していくのだが、不動産からの収入に大きく依存する地方政府がこれを後押ししていく。これに「暗黙の承認」を与えることが、結果的には住宅市場において「暗黙の保証」の役割を果たしていく。
 なぜなら、開発業者による住宅地の確保のためには、地方政府から土地の使用権を得なければならず、そのコストは住宅取得者の購入する住宅価格に組み入れられ、ひいては地方政府の重要な収入源となっていく。その流れにて、地方政府の収入に占めるウエイトは、2021年1~10月には、土地の使用権を与えることでの譲渡収入(土地所有権は、憲法で国のものであり、譲渡できない)は地方一般公共予算収入比で約61%という、「持ちつ持たれつ」の関係へと発展していく。
 ところが、2020年頃からは、恒大集団などという個別企業(開発業者)の経営問題が浮上してくる。2021年7月末になると、中国共産党中央政治局は、下半期の経済運営をめぐる会議で「不動産価格を安定させる」と方針に盛り込み、地方政府は、中古マンションの「参考価格」を作って価格を事実上統制し、マンション購入を許可制にするなど、様々な規制を始めている。
 それらの経済に対するインパクトを考える上では、顧みるに、日本の資産バブル崩壊を思い浮かべればよい。当時は、金融政策の転換や外圧などもあったのだろう、しかし、不動産バブルそのものがかなり積み上がっていたことがあろう。そこで当時の日本政府は、土地の高騰を抑制するための施策を行った。それには、土地取引価格の上限を事実上国が管理する「国土利用計画法(通称国土法)」と、金融機関の不動産関連融資を制限する「総量規制」が含まれていた。これらの結果として、住宅を売る側とそれを買う側の双方においてブレーキがかかることで不動産流通・取引は急激に減り、市場価格を押し下げることになった。ちなみに、1980年の市街地における地価を50とした場合の1991年の同価格は110にまで高騰していたのが、その後は下がり基調に推移して2004年3月には60程度に落ち着いた。また、同じ期間でみた都市部の地価変動はさらに激しく、同3月にはピーク時の約5分の1と言われている(増澤俊彦「経済学の世界」八千代出版、2004など)。

 経済統計で中国の住宅市況の減速が鮮明になったのは、2021年7~9月期の報告位からであって、前年同期比でみた1~9月期の不動産開発投資は8.8%の増加。また、インフラなどの固定資産投資は前年同期比で7.3%であり、いずれも1~6月期に比べて低い伸び率にとどまった。

 そして、これが広がっていくうちに、地方政府発の成長モデルは、そのうちに破綻していくのではないかと、国内外で取り沙汰されるようになっていく。そうした流れにおいて、中央政府としても、旺盛な不動産投資でマクロ成長を牽引(2021年1~9月での不動産投資対GDP比14%))という成長モデルからの転換を模索していかねばならぬ、という認識になり変わっていく。つまり、事ここに至ると、個別企業の問題に止まらず、中国経済全体の安定成長を続けなければならぬという観点からも、マクロの経済での急激な成長率の落ち込みを回避しつつ、住宅問題を克服していくことが求められるようになったと考えられる。

❮地方政府債務の抑制策に動く政権❭

 そして迎えた2021年4月には、政府が「地方融资平台和政府的关系该如何理顺」を発布して、かかる動きに歯止めをかけようと動く。その紹介記事には、こうある。

  「4月13日,国务院印发《关于进一步深化预算管理制度改革的意见》(以下简称《意见》)。《意见》指出,要清理规范地方融资平台公司,剥离其政府融资职能,对失去清偿能力的要依法实施破产重整或清算。(中略)
此次发布的《意见》对地方融资平台与政府的关系问题提出要求,进一步强调要清理规范地方融资平台公司,剥离其政府融资职能,就是针对个别地方没有真正理顺好政府与融资平台关系这一问题。这既是规范地方债务和融资平台运行的关系,也是对地方融资平台可能出现风险的警示。尤其是要求“对失去清偿能力的要依法实施破产重整或清算”,就是责令地方政府必须理顺与融资平台的关系,不能让地方融资平台成为拖垮政府的“灰犀牛”。」(2021年4月15日付け北京青年报の電子版)
 これにある、地方融资平台公司(LGFV)というのは、地方政府傘下の投資会社であって、それが放漫経営で溜め込んだ債務に対し地方政府は関わりをもってはならないと通知した。平たくいうと、「LGFVの債務不履行には政府が責任を持つ」という、法で明文化されていない約束に対する市場の期待を黙認すること(「暗黙の政府保証」)を改めて(2010年通知に続き)禁止するというもの。また、「尤其是要求“对失去清偿能力的要依法实施破产重整或清算”と引用されているように、支払能力のないLGFVに対しては、救済ではなく法律にのっとり破産もしくは清算を進めるように要求している。

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 マクロ経済ベースでは、2021年7~9月期の実質GDP減速を受ける形で、住宅ローンの制限や土地の入札規則を緩和するとともに、デベロッパーが債務を返済しやすくするための措置を打ち出した。あわせて、金融政策として、市中銀行に義務付ける現金保有比率を引き下げることを通じて、企業の資金調達コスト低下を期待することで、景気の底割れを防ごうとしているのであろう。
 また、住宅関連の個別資本のレベルにおいても、債務縮減などへ向けての動きもみられる。例えば、2022年2月25日、経営難に陥っている中国の不動産大手、中国恒大集団は、同グループで開発を進めていたマンションやテーマパークに関連する住宅関連プロジェクト合計4件について一部権利を売却するとは発表した。売却先は国有資源大手、中国五鉱集団傘下の五鉱国際信託、そして中国光大集団股傘下の信託会社の、つごう2社だという。
 現地の報道によると、信託2社は建設を引き継ぎ、住宅の受け渡しを保証するとしている。 これにより、70.1億元(約1300億円)の債務を解決でき、当該プロジェクトへの初期投資の一部である19.5億元を回収できるという。
 恒大グループはこれまで、債務弁済期限の度に苦しいやりくりを露呈してきたところ、物件引き渡しの遅れや、工事に関わる代金の支払い遅延をも引き起こしている。ついては、建設中の物件を購入者へ引き渡すことで、経営問題の改善を図る方針だと伝わる。

(続く)

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