♦️1167『自然と人間の歴史・世界篇』米中の国力比較(2020~2022)

2022-02-09 20:58:46 | Weblog
1167『自然と人間の歴史・世界篇』米中の国力比較(2020~2022)

 まずは、2021.2.28の中国側国家統計局発表として、中国の名目国内総生産(GDP)は、同統計局が同日発表した公式為替レートをもとに計算したドル建てのGDPは、前年比3.0%増の14兆7300億ドル(約1550兆円)となった。この換算にあっては、2020年平均でみた人民元の対ドル相場は1ドル=6.8974元と、前年の平均より0.02%のわずかな上昇となった由。人民元建てのGDPは101兆5986億元で、初めて100兆元を突破した。
 中国での新型コロナの状況を振り返ると、年初に新型コロナウイルスがまん延し、早期に抑えこんだ。春以降は生産の回復を急ぎ、不動産開発などをてこに経済が持ち直した形だ。一方、外需も成長を押し上げ、20年は主要国で唯一のプラス成長となった。
 これとは対照的なのがアメリカで、新型コロナ対応の初動でつまずき、経済の足を引っ張った。米商務省によると、米国の名目GDPは20兆9349億ドルと、19年より2.3%減少した。この結果から、2020年、米GDPの7割を超えたことが分かったとされている。


 ついでながら、購買力でみた中国のGDP(それぞれの国内で人々が各国共通の財・サービスをどのくらいで買うことができるかについての、いわば仮定付きの指標)は、アメリカのそれを2014年に抜いており、そのことから、追々市場ベースでのGDP比較でも前者が後者を上回るであろうことは概ね予想されている(注)。

(注)これは、20世紀の初めにスウェーデンの経済学者カール・グスタフ・カッセルが提唱した外国為替レートの決定に関する理論である。具体的には、(Perchasing Power Parity Rate:PPP )レート=(自国の通貨建て物価/外国通貨建て物価)で求められるとしている。
 つまり、様々な財やサービスをそれぞの国の通貨でどれだけ購入できるかという購買力の比でもって当該の為替レートが決まるというもの。この説によると、大多数の人が裁定(異なる市場の間の価格差を利用して利益を得る経済行為)をとるとその財・サービスの価格は同じになっていく、その結果として一物一価の法則が働くと考える訳だ。
 とはいえ、このレートはあくまでも理論値であって、外国為替市場での実際のレート(日々のニュースで伝わる市場為替レート)とは異なっていて、当該の財・サービスでの両市場での価格差が追々縮小し、両国間で一物一価の法則が成立するようになるスパン(中・長期)に至れば、購買力平価説が成立すると考えられる。
 
 したがって、これまでの世界経済での両国の全般的すう勢が大きな変化を来さないかぎり、騒ぎ立てる程のことではあるまい。また、特に日本の保守的政治家などの中には、「今こそ米中のデカップリング」を強調する意見が散見されるものの、大方は経済合理性を無視して主張しているように見受けられ、有益であるとは思えない。

 (参考)「名目GDPについては、アメリカが20.8兆米国ドルなのに対し、中国は14.9兆米ドル。GDPの世界シェア(購買力平価換算)については、アメリカが16%なのに対し、中国は19%。GDP成長率の世界シェア(購買力平価換算)については、アメリカが14%なのに対し、中国は30%。人口については、アメリカが3億3000万人なのに対し、中国は14億400万人。軍事費の対GDP比については、アメリカが3.4%なのに対し、中国は1.9%。研究開発支出の年平均伸び率(2013~2018年)については、アメリカが5%なのに対し、中国は10.6%。ユニコーン企業数(時価10億米ドル超)については、アメリカが233社なのに対し、中国は227社。産業用ロボットの保有台数については、アメリカが29万3000台なのに対し、中国は78万3000台。スーパーコンピューターの保有台数については、アメリカが113台なのに対し、中国は214台。」(国際通貨基金、世界銀行、国際連合、Hurun Global List Report 2020,TOP500,UBS,2021年2月現在、これらを援用しているUBS「中国市場への投資ーグローバル投資家への投資機会」2021年3月から引用)

(続く)

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♦️1156『自然と人間の歴史・世界篇』中国の国有企業(「社会主義市場経済」における、その位置付け、2021~)

2022-02-09 09:04:11 | Weblog
1156『自然と人間の歴史・世界篇』中国の国有企業(「社会主義市場経済」における、その位置付け、2021~)

 2021年10月16日からの報道によれば、中国では国有企業があげる利益と、民間・民営企業(内国)があげる利益(注)が、2021年の1~8月についての比較で逆転したという。


(注)会計上の収益というのは、売上高に利子収入などを含めた全体をいい、これから費用を差し引いたものが利益だとされる。
 なお、国有企業の中での最近の分類については、さしあたり、当局編集の「2020年版財政年鑑」を中心に参照したい。
 また、「社会主義市場経済」というのは、中国独特の経済体制をいうのに中国政府により使われていて、市場を活用することでそれまでの社会主義が不得手であったところを克服しようとの取り組みの一つ(いわば拡張型)であり、そのことは、現代における社会主義を考える上では有益だと考えられる。なぜそうなるかについては、社会主義社会像についての捉え直しを含め、別項で探りたい。
 私見では、今日考えられうる社会主義経済というのは、その複雑系からいって市場抜きには上手くいかない、もっと言えば管理・運営できにくいものとなっているのではないか。もっというなら、そのシステムが分権的であれ集権的であれ、もはや何から何まで計画ですれば上手く事が運ぶというのは幻想だと言って差し支えないのではないか。そうした意味合いでは、ロシア革命からほどなくのネップ(新経済政策)において、食糧徴発にかえて食糧税を設けた時のレーニンの柔軟な発想に多くを学ぶことができるのではないだろうか。

 具体的には、2021年1~8月期の利益総額は、国有企業が民間企業を8%上回ったとされる。この時点で、13年ぶりに通年で国有が民間をしのぐ可能性もあるというから、従来とは異なる展開なのであろう。
 そして、これをもって「政府による国有企業への優遇・強化策のひずみが鮮明」で、なおかつ「資金調達の格差埋まらず」という論調が、日本などで多く見受けられる。さらには、これらをもって、「「国進民退」(注)と呼ばれる習近平(シー・ジンピン)指導部の国有強化のひずみが表面化してきた」と断定しているものもある。

(参考)中国で営業している企業の所有形態別の国民経済に占めるシェア(%)
 都市部就業者数は、1997年に国有企業が53.1%、非国有企業(民営企業)が44.1%、外資企業が2.8%だったのが、2010年には国有企業が18.8%、非国有企業(民営企業)が76.0%、外資企業が5.3%となる。
 工業総生産は、1999年に国有企業が34.9%、非国有企業(民営企業)が39.0%、外資企業が26.1%だったのが、2010年には国有企業が12.1%、非国有企業(民営企業)が60.7%、外資企業が27.2%となる。
 輸出額は、1997年に国有企業が56.2%、非国有企業(民営企業)が2.8%、外資企業が41.0%だったのが、2010年には国有企業が14.9%、非国有企業(民営企業)が30.5%、外資企業が54.7%となる。
(注1)国有企業には国有独資企業を含む。
(注2)非国有企業に外資企業は含まない。
(注3)外資企業には、香港・マカオ・台湾を含む。
出所は、CEICデータベース、「国家統計年鑑」、「中国商務年鑑」をもとに曽根康雄氏が作成されたものを、曽根康雄「「央企」と「国進民退」:高井潔司、藤野彰、曽根康雄「中国を知るための40章(第4版)」、明石書店、2012から引用した。

 そういえば、2020~2021年にかけては、「ゼロコロナ」の新型コロナ対策もあって、当局による中国民間大手企業に対しての規制が矢継ぎ早であった感を拭えない。しかし、この措置については、市場の独占を防ぐ意味合いもあったのではないかと推察されよう。こちらについては、民間企業の多くが、新型コロナ禍で「川下」とされる消費財、サービス関連に多いため原材料価格の高騰や人手不足などで打撃を受けているのは、間違いあるない。また、中国政府がどのような支援措置をとっているのかを具体的に伝えてもらいたい。



(続く)

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