豆豆先生の研究室

ぼくの気ままなnostalgic journeyです。

M・J・サンデル「リベラリズムと正義の限界」

2024年06月17日 | 本と雑誌
 
 読書断念シリーズ第2弾!
 本の断捨離がなかなか進まないので、「未読書整理コーナー」を設けることにした。一定期間(1年間くらいか)このコーナーにおかれたまま放置された本は処分する(つもりである)。断捨離の執行猶予のようなものである。
 ルイス・ナイザー「私の法廷生活」に続く第2弾は、マイケル・J・サンデル/菊池理夫訳「リベラリズムと正義の限界(原書第2版)」(勁草書房、2009年)である。
 気になりつづけていたので、1か月ほど前に読み始めたが、残念ながら40頁ほどで挫折した。悪戦苦闘したのだが、時間の無駄と覚ったので、この先を読むのはやめる(諦める)ことにした。

 ローデル「正義論」「公正としての正義」に示されたリベラリズム論への反論の書である。かと言ってコミュニタリアニズムに同意するものでもないらしい。
 黒人の公民権を求めるキング牧師らのデモ行進は表現の自由の行使として認めるが、ホロコーストの生存者が多く住む町の中をネオ・ナチがデモ行進することは(そういう事件があったようだ)認めないという結論は、表現内容に対して中立の立場をとるリベラル派にとっても、コミュニティに優勢な価値にしたがって権利を定義するコミュニタリアンにとっても、原理的に不可能であるとサンデルはいう。
 前者(キング牧師の行進)を肯定し、後者(ネオナチの行進)を否定するという結論(それが常識にかなっている)はどのような原理によって可能か、というのがサンデルの出発点のようである(ⅻ頁)。この結論をリベラル派は支持するだろうが、その正当化はリベラル派がいう「正」「正義」論では不可能であるとサンデルはいう。

 ぼくは、キング牧師らのデモと、人種差別主義者のデモが等値関係にあるとは思えない。キング牧師のデモは整然としてシュプレヒコールすらなしに行われるのに対して(先日NHKテレビ「映像の世紀」でキング牧師の公民権デモ行進の映像を見た)、ネオナチのデモはユダヤ系の多く住む街で行われたという一事をとっただけでもキング牧師らのデモとは違いがある。仮定の事例としても、キング牧師のデモとネオナチのデモを等置して、前者は認め後者は否定する正当な論理は何かと問うこと自体に違和感を覚える。
 どうしても両者を等置したうえで、キング牧師らのデモを正当化し、ネオナチのデモを否定しろというなら、表現内容に踏み込んで、人種間の平等を目ざして黒人への公民権付与を唱えるデモは民主主義国家の理念に合致しているのに対して、人種間の差別や少数人種への憎悪や排除を唱えるデモは民主主義国家の理念に反するからと答えるだろう。こういう結論はコミュニタリアン的態度というのだろうか。
 それならそれでもぼくは構わない。リベラルかコミュニタリアンかが問題の本質とは思わない。

 しかし、法哲学の世界ではそんな簡単に結論づけることはできず、この結論に到達するには1冊の本が必要なようだ。
 法哲学の世界では、「正・正義(right)」対「善(good)」という対立項が根本にあるらしい。「正義」派の代表はカントで、現代におけるその主唱者がロールズらしい。したがって、ロールズの「無知のヴェール」(+無関心の傍観者)を論ずるためには、その前にカントを検討しなければならないらしい。
 しかし、カントも苦手だ。数十年前に天野貞祐訳「純粋理性批判」(講談社学術文庫、1979年。全5巻だったか?、いつの間にか手元からなくなってしまった)を買ったが、1巻の10ページも読まずに断念した。ぼくには縁のない本だった。
 学生の頃ゼミの飲み会で夜遅くなり、その一人を湘南電車の下り終電で平塚まで送って行ったところ、彼女のお父さんが泊っていきなさいと言ってくれたので、彼女の家に泊めてもらったことがあった。彼女の部屋の本棚に、カントの「純粋理性批判」(岩波文庫だった)が並んでいたので、手に取って見ると、最初の10数頁のところにしおりが挟んであって、その後は読んだ気配がなかった。カントに挑戦はしたものの、読み通すことはできなかった彼女をますます好きになった(またしても・・・)。

 それから50年が経って、今回はサンデルに挫折した。
 「正義の限界」に到達するはるか手前で、ぼく自身の「能力の限界」が来てしまった。
 20年前に、川本隆史「現代倫理学の冒険」(創文社、1995年、手元の本は2003年5刷)を読んで、納得した記憶がある。内容はほとんど忘れてしまったが、リベラリズムはあの本(の記憶)で良しとしよう。 

 2024年6月17日 記
この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ルイス・ナイザー「私の法廷... | トップ | サリンジャー「フラニーとズ... »

本と雑誌」カテゴリの最新記事