豆豆先生の研究室

ぼくの気ままなnostalgic journeyです。

映画『返校--言葉が消えた日』

2023年12月05日 | 映画
 
 映画『返校--言葉が消えた日』(2019年、台湾。ツイン、DVD)を見た。

 蔣介石の国民党政権が台湾で恐怖政治を行っていた1962年(民国51年)、戒厳令下の台湾の高校を舞台にした映画である。ホラー映画の範疇に入るらしい。

 最初のシーンは古びた赤レンガの塀沿いに生徒たちが登校する風景から始まる。生徒たちに活気はない。むしろ陰欝な印象である。
 壁には「厳禁集党結社」という標語が大書されている。
 字幕では「共産党スパイの告発は国民の責務」「共産党の手先を隠せば同罪となる」「扇動する者を取り締り」「国家転覆を図る者は死刑に処す」というナレーションが流れる。

 この高校でタゴールの詩集を読む読書会グループの教師と生徒が、密告者の内通によって国家反逆の廉で憲兵の捜査を受け、逮捕され拷問されて、殺される。
 誰が密告者なのかは分からない。ホラー映画というものをほとんど見たことがないので(「エクソシスト」と「シャイニング」くらいしか記憶にない)、その「映画文法」がよく分からない。過去と現在の時空を行き来しているのか、そうではなく主人公たちの妄想の世界、心象風景を描いているのかも分からないのだが、恐怖感は十分に伝わってくる。ゲーム的な動きが感じられるシーンもあった。
 タゴールはインド出身の作家だが、植民地支配を批判した作家だったという。そんなタゴールすら読むことが許されない、読んだ高校生が死刑に処される時代だったのだ。
 ※下の写真は碓氷峠の見晴台に向かう山道の途中に建つタゴール座像の石標。日本女子大学の招きで軽井沢で講演を行ったという(三泉寮だろう。本女もミッションスクールだった)。生誕120年を記念して建立されたとある。
   

 この映画は、もともと「返校」というゲームが原作だという。
 ゲームが映画の原作になるというのも古い世代のぼくには理解しがたいが、メイキング・ビデオによると、ゲームの原作者(製作者?)3人も、この映画のジョン・スー監督も、1962年台湾の蒋介石政権の恐怖政治を実体験したことのない若い世代の人たちのようである。監督は、戒厳令下に弾圧を受けた人たちやその遺族に自ら面会して体験談を取材して映画製作に際して参考にしたという。
 その世代の人たちが、蔣介石国民党時代の戒厳令下の恐怖政治の体験を共有しようとしていることに感銘を受ける。
 わが国の若い世代に、戦後の「日本の黒い霧」や「真昼の暗黒」の記憶を共有する人たちがどれほどいるのだろうか。

 時あたかも、香港の民主化運動で逮捕された周庭さんが、カナダのトロントから声明を発したニュースが流れた。
 周庭さんはその後どうしているのだろうと思っていたが、香港国家安全法違反で有罪判決を受けて服役し、釈放された後も当局の監視を受けていたようだ。どのような経緯か分からないが、今年の9月からカナダに滞在しており、この度カナダへの「亡命」を宣言したという。
 香港には二度と戻ることはないと言っていた。香港が彼女が帰還できる自由な社会になることは、彼女の生涯のうちに訪れることはないと判断したのだろう。
 習近平政権の支配が及ぶ香港政府に対して周庭さんが抱いた恐怖こそ、映画「返校」に描かれた国民党戒厳令時代の台湾の人々が権力側の人間(憲兵や密告者)に抱いた恐怖、そして、その過去を共有する現在の台湾の人びとが、国家安全法の名の下に政権批判の言論が封じられている大陸に併合されることへの反発につながるのだろう。
 
 2023年12月4日 記

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