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KORAILの新型特急車両「itx-セマウル」~既存セマウル号より座席は劣るものの…

2014-07-10 | 鉄道[大韓民国・KORAIL列車]

先月MAKIKYUが韓国へ足を運んだ際には、KORAIL(韓国鉄道公社)が5月に運行開始したばかりの新型電動車を使用した新列車「itx-セマウル」にも、初めて乗車する機会がありました。

「itx-セマウル」は、機関車牽引の客車列車で運行している既存セマウル号(一部は両端に動力車を配した動力集中方式のディーゼル動車だった編成の付随車部分のみを抜き取り、機関車牽引の客車列車として運行)の老朽取替えを目的として導入された新型車両で、KORAILの列車線を走る動力分散方式の営業用電動車としては、ヌリロ・itx-青春に続く第3弾となります。
(1980年代に東海岸方面へ向かう路線向けに9両2編成だけ導入され、現在は退役→先頭車1両が(韓国京畿道・旺王市の)鉄道博物館に保存されている車両も含めれば第4弾となり、高速列車KTXは初代車両と後に導入されたKTX-山川の双方共に動力集中方式です)

ヌリロやitx-青春は、首都圏の限られた地域を運行する比較的足の短い列車に充当され、運行本数や導入本数も限られていますので、KORAILの列車線では異端的な車両と言っても過言ではありません。

しかしながらitx-セマウルは、既存セマウル号の代替用という事もあってか、ソウル~釜山(Busan)や龍山(Yongsan)~光州(Gwangju)・木浦(Mokpo)などの幹線を走る足の長い列車で多数運用され、登場からまだまもない状況にもかかわらず、既に20編成以上が活躍しているなど、KORAIL列車線においては非常にありふれた存在と言える列車の一つになっています。

そのため特に狙い撃ちしなくても、韓国の主要都市間で列車を利用する際に、たまたま丁度良い時間を走る列車の乗車券を購入したら、itx-セマウルだった…という事もあり得るほどの状況になっています。

KTX開業前の韓国鉄道庁(当時)は主要幹線ですら大半が非電化、列車の殆どが動力集中方式のディーゼル車だった一昔前を知る身としては、itx-セマウルが多数運行されている様を見ると、KORAILも随分変わったと感じずにはいられない状況です。


itxセマウルの流線型となっている先頭車は、如何にも優等列車ならではの雰囲気があり、韓国の鉄道事情に疎い人間に写真を見せれば、高速列車と錯覚させる事もできるのでは…と感じる程です。

低床ホームに発着する姿に加え、独特な形状のライトなども、如何にも異国の列車と言う雰囲気を感じる一方、色合いなどはやや異なるものの、赤とグレーの濃淡、そしてグレー部分には細いラインが何本も入る装いは、何となく一昔前の小田急ロマンスカーをリメイクした雰囲気も…と感じたものでした。

編成は3M3Tの6両固定、列車によっては2編成を併結した12両編成での運行も行われる様ですが、MAKIKYUが乗車した列車は、6両1編成のみでの運行で、この編成での運行が大半となっています。


車内に足を踏み入れると、設備的には近年登場したヌリロなど他の電動車とよく似た雰囲気で、座席のピッチやリクライニング角度などもヌリロやムグンファ号などと同レベル、残念ながら非常に豪華な設備を誇る事で有名な既存セマウル号には及びません。

とはいえヌリロやitx-セマウルの座席は、シートピッチなどは日本のJR在来線特急普通車と同等レベルながら、リクライニング角度は意外と大きくなっていますので、夜行はともかく昼行利用であれば、個人的にはソウル市内から釜山や光州まで乗り通しても…と感じたものでした。
(ちなみにMAKIKYUがitx-セマウルに乗車したのは、井邑(Jeongup)→龍山の3時間強でした)


座席グレードは既存セマウル号より見劣りが否めない反面、車両自体が新しい事もあってか、比較的高速で走行している際の居住性などには分があり、一部座席(各車両の前後3列程度)には充電用コンセント(韓国国内用のCタイプのみ対応:日本の電化製品を使用する場合には要変換プラグ)も設けられている辺りも、既存セマウル号にはないウリと言え、LEDを用いた車内照明やLCDモニターによる到着駅案内装置なども、最新型車ならではの装備と言えます。


全体的に豪華な雰囲気の列車と言える既存セマウル号に比べると、車内の雰囲気も比較的シンプルで、客室も全車一般室のモノクラス、既存セマウル号やムグンファ号の大半に設けられているカフェ車もなく、物販は自動販売機設置のみとなっていますので、機能性重視のビジネス向け列車の色彩が強く感じられたものです。
(それでも自動販売機すら使用中止→撤去、そして列車によっては車内販売もナシとなっている某島国の高速列車などに比べれば、状況は遥かに良好で、運行距離や時間などを考慮す売ると、過剰設備の適正化を図ったと言って良いと思います)

動力分散方式の電車という事もあってか、何となく日本のJR在来線特急に乗車している様な錯覚を感じてしまう面もあり、座席2列分の大窓中央にブラインドレールを設け、各席毎にブラインドを任意の位置で下ろす事ができる構造も、ヌリロなどと同様です。


これに加えて背もたれ上部の特徴的な枕形状や、車内側が真っ赤に塗られた客ドア、などを見ると、何となくJR東日本の一部優等車両に類似した雰囲気を感じたものでした。

また速達運行による利便性こそ評価されているものの、居住性の悪さや運賃の割高さなどで、時間的余裕があれば個人的には余り…と感じる高速列車・KTX(特に初代KTX一般室の逆向き座席)に比べれば、所要時間以外はitx-セマウルの方が遥かに優れていると感じ、今後韓国一の基幹軸とも言える京釜間(ソウル~釜山間)を移動する際にも、選択肢の一つとしてitx-セマウルは悪くないと感じたものでした。

とはいえitx-セマウルで既存セマウル号と同じ運賃体系が適用されるのであれば、JRグリーン車並みの座席が自慢の既存セマウル号に乗車した方が…と感じる向きもあるかもしれませんし、豪華な設備が自慢の既存セマウル号に乗り慣れた方からは、物足りなさを感じる声も出るかと思います。

KORAILの駅設備などはかなり余裕があり、増結による長編成化もさほど困難ではない気もしますので、仮に今後itx-セマウルの車両増結を行う事があるならば、特室(グリーン車相当)を設け、ここに既存セマウル号並みかそれ以上の座席を設置する事で、多少割高な運賃・料金を支払ってでも、より上質なサービスを望む客層にも応えられれば…とも感じたもので、今後現行と同様の6両編成で増備するとしても、座席下ヒーター形状の変更による足元空間の拡大化程度は期待したいものです。

また韓国の鉄道をはじめとする公共交通機関の運賃は、他の諸物価に比べて安過ぎる位で、400km強を走るソウル~釜山間のムグンファ号一般室(JR在来線特急普通車に相当)の片道運賃が日本円相当額で3000円弱、100km程度のソウル~天安間広域電鉄(JRや大手私鉄の通勤電車と同レベルのロングシート車)で日本円相当額300円程度ですので、物価の上昇や安全で快適なサービスを確保するために必要な経費を確保する事も考慮すると、個人的には既存セマウル号が設備の割に運賃設定が安過ぎ、itx-セマウルで適正なレベルかと感じています。

itx-セマウルは今後も暫く現状のまま推移するのか、編成替えや用途変更などが出てくるのかも気になる所で、KORAILではKTX開業以降、一般列車では主流となっている客車の新造も殆ど見受けられない状況ですが、今後は動力分散方式へ本格移行していくのか否かも気になる所です。