ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

BOY A:アンドリュー・ガーフィールドが演じた更生の可能性とそれを許さない社会

2010年02月21日 | 映画♪
写真でもみているかのような美しいカット割りが、その残酷さと対をなす。スタイリッシュでありながら、キリキリとしめ付けられるような痛み。1度罪を犯したものはどこまでも許されることはないのか、あるいは罪を犯していない人々の悪意は許されるのか。アンドリュー・ガーフィールド主演、ジョン・クローリー監督の考えさせられる秀作。

【予告編】
Boy A - Trailer



【あらすじ】
24歳のジャック(アンドリュー・ガーフィールド)は、子供の頃に犯した犯罪により少年院に入れられ、14年間の刑期を終え再び外の世界へ出ようとしている。ソーシャルワーカーのテリー(ピーター・ミュラン)から仕事とアパートが与えられ、彼は過去を隠し、名前も変え新しい生活を始める。運送業の会社に就職した彼は、同世代の青年クリスとコンビを組むことになる。職場にはミシェルという気になる女性もいた。ある日ジャックは、クリスに後押しされてミシェルを誘う…。(「goo 映画」より)

【レビュー】
僕は死刑廃止論者だ。基本的に「人の更生の可能性」を信じていたいと思う。それでも最近の理不尽な事件などを見ていると、「立ち直るかもしれない以上、チャンスを与えるべきだ」という言葉が絵空事なのかとも思ってしまうことも少なくない。「量刑は更生の可能性ではなく、われわれの安全のために!」という言葉は、今の日本を支配している意識でもあるだろう。しかしこの映画をみた以上、僕らはもう一度問い直さねばならない。果たして罪とは何か、何が悪意なのか、更生の可能性は無いのか。

ジャックの犯した罪とは何だろう。

確かに少年時代に少年Aは残虐な行為をしたかもしれない。それは彼を理解してくれる友人との関係を守るために。友人は何故、罪を犯したのか。それは被害者の少女の、あきらかに彼らを馬鹿にした態度や暴言に対しての怒り。あるいは、友人をそうしたものに仕立てたのは彼自身がDVの被害者であったためかもしれない。

もちろん罪を犯したことの全てを生活環境のせいにする気はない。ただ彼らをただの「犯罪者」だとして「排除」するだけでは何も見えてこない。そこにはそうなる理由もあったのだ。

そして少年Aはジャックとして生まれ変わった。その様子はソーシャルワーカーのテリーから見ても立派なものだった。まじめに働き、相棒とともに少女の命を救いもした。恋人もできた。しかしそれでも不安や孤独は尽きない。自身が新しい人生だと思っていたとしても、過去の自分のことを誰にも話すことができず、人との付き合い方にも細心の注意がいる。彼女のことを愛し全てを理解して欲しいと思ったとしても、それは許されないことなのだ。裏切り続ける罪悪感。孤独。

そんなジャックを追い込んでいったのはテリーの息子の孤独だった。父親に愛されていないという、それがただの勝手な「思い込み」だったとしても、彼にとってはそれが真実であり、自らを孤独と嫉妬に追いやり、その矛先をジャックへと向けたのだ。

彼の行為をただの「悪意」として僕らは裁けるだろうか。

そしてジャックは追い詰められていく。懸賞金がかけられ、マスコミたちが追い回す。

ジャックの本当の姿あるいは生まれ変わった姿を知らないままに残虐な殺人者が野に放たれたとセンセーショナルな言葉で人々の好奇心を煽りたてる。仮にそこに(自己満足・自己欺瞞的な)正義感があったのだとしても、それはただ読者が喜びそうなネタを追いかけているだけしかない。

少年Aはジャックへと変貌した。そこには意識の上では「断絶」があったかもしれないが、連続した年月があり、変化していったはずだ。これに対して人々の側にあったのは事件の時点で止まってしまった「偏見」だ。ジャックへの「変化」「連続性」を無視し、過去の物語に枠をはめようとする。彼は残忍な犯罪者であり、我々の生活を脅かすものであり、もっと制裁を加えられるべきなのだ、と。

彼らは現実を直視し理解することなく、自分たちが神にでもなったかのように、独断で裁くのだ…。

このことは他人事ではないだろう。僕らも同じように断片的な情報だけで、ものごとの真の姿も知らずに裁こうとする。数多くの冤罪事件があり、さらに数多くの冤罪かもしれない事件がある。それらもその当時は一方的な市民とマスコミとの共犯関係の中で裁かれていったのだ。

マスコミに過去を報じられたジャック。相棒は去り、そして彼女も…

逃亡中(escape!)だとしても彼を彼だと知らなければ、人々は優しくしてくれる。しかしこうした人がちょっとしたきっかけで彼を追い詰めていくのだ。

もしこの映画にわずかばかりの希望を見出すのなら、ミシェルやテリーのジャックへの想いだろう。ミシェルやテリーはジャックの真の姿を見つめていた。彼らのように偏見や思い込みでなく真実を見ることができるのであれば…。

【評価】
全体:★★★★☆
ジャックとテリーの演技力:★★★★★
日本では受け入れられるのか?:★★★☆☆

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