ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

NGNは「ガラパゴス」以前に「無人島」

2008年05月02日 | ビジネス
ちょうど「テレビ進化論」を読んでいるところで見つけた境真良さんのNGNと「ガラパゴス化現象」についての提言。総論については全くその通りなんだけれど、流行り言葉のような「ガラパゴス化」についてとらわれ過ぎて、実体を見ていないのではないか。NGNは「ガラパゴス化」以前の問題を抱えているのだ。

iモードの“ガラパゴス現象”の二の舞を演ずるな:ITpro

以前にも書いたとおり、「ガラパゴス化」というのは決して悪いことばかりではない。例えば「携帯電話」。確かに、今、日本の携帯電話メーカーの国際競争力は低いかもしれない。しかし最も携帯電話が発達している日本市場において、ではNOKIAの端末がどれだけ普及しているかといえば全く問題外だ。日本市場が飽和し、買い替え需要以上の成長が期待できない状態になったから「ガラパゴス」と言われているのであって、国内市場が拡大していた際には国内メーカーがおいしい果実を堪能していたのだ。

また「ガラパゴス化」は立場によっても異なる。例えメーカーにとっては国際競争力という点で問題であったとしても、例えば消費者からすると利便性の高いサービスが適正な価格で享受できるのであればメリットは大きいし、「着うた」「着うたフル」といったサービスは、CD売上額が低迷しているレコード会社にとっては数少ない有望な市場であったりもする。決してマイナス面だけではないのだ。

そうした前提は境さんも十分に理解されているだろう。それでもこの提言には違和感を抱かざろうえない。

NGNは、既存の通信キャリア(電話会社)がオールIP化することによってコスト削減が可能になるという点と、通信キャリアがNGNの網上に様々なサービスPF・アプリケーションPFを用意することで、ANI事業者が多様なサービスを簡易に提供できるようになる、という二段構成で考えることができる。

境さんはこのうちの後者について、「(ITU-TによるANIの)標準化のできあがりを待たずに(NTTは)サービスインしているわけだから,標準ANIと現行のNTT-NGNが備えたANIがずれることはほぼ確実」であり、そのことによってコンテンツやサービスの可搬性が低くなる=NGNにおける日本の「ガラパゴス化」につながる、と論じている。

しかし果たしてそうであろうか。NTTが検討しているNGNは、いいかどうかは別にして、SNI(サーバ・ネットワーク・インタフェース)までの話であり、アプリケーションレイヤーはSNI事業者が提供することになる。インターネットもそうであるが、通信サービスというのは物理層からアプリケーション層までいくつかのレイヤーに分かれて通信手順などを規定している(OSI7階層)。

例えば電話でのダイヤルアップ接続でも、メタル線を使ったADSLでも光を使ったBフレッツでもインターネットの世界に接続することが可能である。これはOSI7階層モデルでいうところの物層、物理ケーブルや第2階層(データリンク層)の手順が異なったとしても、ネットワーク層のIP層以上が共通だからだ。

また特にPCなどを前提とした場合、C/S型のサービスでは結局のところ通信回線がADSLだろうがBフレッツだろうが最終的には関係なく、クライアントとサーバでの手順が問題となる。

つまりNTTが設置したNGNは、回線認証などいくつかの独自のサービス・プロトコルはあるものの、基本的にはIPをベースとした通信網でしかないのであり、SNI事業者(コンテンツプロバイダーやサービスプロバイダー)が提供するサービス自体には影響を及ぼさないのだ。そうなるとNGNが独自仕様のガラパゴスになる可能性はあまり高くない。むしろ各SNI事業者がどのようにアプリケーションを作り上げるか、その際の通信プロトコルやハードウェアの設置をどのように設計するかが大事なのだ。

ではNGNに問題はないかというと、それ以前のレベルで問題がある。NTT東日本のNGN網とNTT西日本のNGN網との網間接続(NNI)が直接接続できないのだ。

これはどういうことか。

インターネットの世界であれば、サーバを1台立てれば世界中の人がそのサーバにアクセスすることが可能である。サーバの提供者からすると、世界中のお客さんを相手にするために1台のサーバを運用すればそれでいい。しかしNGNの場合、NTT東西のNGNが網間接続していないということは、NTT東西それぞれのNGNにサーバを設置・運用する必要があるのだ。同じ国のお客さんを相手にするのに、2台のサーバ代がかかり、2つのSNIの利用料がかかり、2倍の運用コストがかかる…これではあえてNGNを利用してサービスを提供する意義が薄いだろう。インターネット上で提供すればことたりるのだから。

例えば、東京から家の(固定)電話で大阪の友人の携帯電話にかけてみる。あるいは東京の自宅の電話からアメリカの友人に電話をかけてみる。つながるのが当たり前だろう。しかしこれは1つの会社が提供している電話網では決してない。NTT東日本の電話網につながったり、KDDIの携帯電話網につながったり、NTTコミュニケーションズの国際回線を経由したり、アメリカの電話会社の網につながったり…キャリアが異なっても通信手順や端末仕様が規定されているから「つながる」のである。インターネットの世界もこの「IP」プロトコルを通じて、「つながる」インフラになったからこそ誰もが理由しているのだ。

本来、NGNは他社のNGN(KDDIやソフトバンク)との接続も担保されているはずのもの。総務省や何かとNTTを目の敵にするKDDI、ソフトバンク、CATV会社の理不尽な言い分のために、NGNの網間接続に制約が出るのだとしたら、NGNのサービスPFは誰も使わないだろう。NGNもあくまで「通信」のサービスの延長である以上、より多くのユーザー「つながる」ことで初めて価値を提供できるようになるのだ。

このままでは「ガラパゴス」以前にただの「無人島」になってしまうだろう。

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