ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

BYODはワークスタイル変革を実現できるのか

2012年10月08日 | ビジネス
成熟した資本主義では「必要」だから「欲しい」のではなく、「欲望」そのものを作り出さねばならない。これが次の潮流です、新しいムーブメントです、皆が手を出す前にいち早く手を出さないと…そんな状況はITの世界でも変わりはない。そして今、ITの世界で声高々に叫ばれているのが「BYOD(Bring YourOwn Device)」だ。

「BYOD」は「私的デバイスの活用」とも言われ、これまでであれば会社が社員に対して供与していた携帯電話やPC、タブレットといったIT機器を廃し、社員個人のものを「安全に」利用しようというもの。最近のスマートフォンやタブレット端末の普及と、企業自身のコスト削減圧力、更には社会構造の変化の中で「ワークスタイル変革」の必要性から、ここにきて急速に注目を集めだしている。

企業側からすると社員に供与していたIT機器費用はもちろん、通信費用(基本料+通信/通話費用)が不要になるのは大きい。1000人の社員に端末を供与していたとして、通信費用で一人当たり5,000円/月かかっていたとしたら、年間で1,000人×5,000円/月×12ヶ月=60,000,000円の削減が可能となる。

実際、これまでであれば会社の費用を社員に転嫁しているだけだとして批判されたかもしれないが、誰もがスマホを持ち、定額プランに入っていた場合、社員の直接的な追加負担が発生するわけではない。また社員にとっても携帯2台持ち、3台持ちのような負担もなくなることになる。

確かに「コスト削減」だけを目的とするのであれば、BYODへの切替は一定の効果をあげるだろう。もう1つのテーマ「ワークスタイル変革」についてはどうか。

実はこの成果が難しい。フリーランスやさほど規模が大きくない企業であれば、その成果は上がりやすいが、大企業では果たしてどうだろうか。

当然、BYODを実施しようとすると「セキュリティ」の問題が存在する。そしてこれまで多くの大企業は「閉鎖的」であることでセキュリティを担保使用としてきた。企業のイントラネットへの接続できる端末を規制し、必要であれば会社側が貸与する。インストールできるソフトを制限したり、アクセスできるサイトを規制する。個人として利用するのは個人端末で、業務で利用するのであれば、会社側の利用ポリシーに従って、会社の端末を利用する。その間には明確に線がひかれ、情報漏洩や個人情報の流出を物理的に遮断する。

これらは当然のこととも思えるが、実際に業務に当たっている個人そのものを分断することはできない。個人の携帯電話にお客さんから連絡がかかることもあるだろうし、休日に自宅で個人PCを使って作業をせざろうえないこともあるだろう。

それらは「してはいけないこと」ではなく、「せざろうえないこと」なのだ。

BYODを利用したワークスタイル変革が実行されれば、本来であれば、そうした問題も解消される。業務時間外での作業をどこまで「業務」として認定するかといった制度的な整理はあるけれど、BYODでは個人の端末を「安全に」利用できるようにするための仕組みも提供される以上、個人が個人の端末を使って効率的に作業が進められるようになるからだ。

ここでは個人が個人にとって利用しやすい環境、それぞれが効率的に作業をしやすい環境、「オープン」な姿勢を前提に「セキュリティ」の担保が求められる。

会社のグループウェアだけでなくGoogleカレンダーを利用して仕事と個人のスケジュールを一元的に管理したい人もいるだろうし、会社メールだけでなくGメールを併用したい人もいるだろう。スマホであれば名刺管理も容易だし、個人PCならフリーソフト/シェアウェアを利用して個々の作業を効率的に行いたいと考えている人も少なくないだろう。

しかし大企業の「閉鎖的な」セキュリティに対する姿勢・文化は容易に変わるわけではない。情報システム部門が自分たちの管理のしやすさ/トラブルの回避を求めるあまりに、利用環境を制限すればするほど「効率性」も低下することになる。

あるいは会社自身にはびこっている「古い」文化が障害となることもある。

情報を共有するという文化が少ない企業、業績評価制度が進み個人主義が蔓延している企業では、BYODを実施しても個人の中で情報が閉じてしまい組織としての効率化が一向に進まない場合がある。同じような資料をそれぞれが別々に作成する。同じお客さんを相手にしていながら情報共有がなされず二度手間三度手間が当たり前。

個人的には「名刺」の情報なんて会社全体で共有すればいいと思うのに、それぞれがそれぞれで情報が完結し、ひどいときには「どの役職の人の名刺をもっている」なんてのを自慢する者もいる。名刺なんて常にアップグレードされるわけだし、それぞれがアドレス帳なんかに個別に登録したりするわけだから、全く無駄だと思うのだが…

個人や中堅中小企業であればそれぞれの業務領域が大きい分、全員が「効率的」に仕事をすることのモチベーションが高く、BYODという新しい環境に対しても「適応」しやすい。しかし大企業の場合、それぞれの部門が「変化」を嫌うあまり、ワークスタイル変革というテーマに対しての障壁となるのだ。



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