ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

コンテンツ流通のためのツールを求めて

2005年03月16日 | コンテンツビジネス
個人的には、クラリスを助けるために塔の屋根を駆け下りるルパンの姿を見て育ってきた世代なので、宮崎駿のありえない動きでありながら、モーションキャプチャを使った「アップルシード」よりよほど質感を感じるような絵柄というものへの愛着が強い。ニモなんかの3Dアニメの動きに驚きはするけれど、もう1つ愛情をもてないのも事実。まぁ、どこかでアナクロ人間なのだろう。とはいえ、「コンテンツ立国を阻むITツールの不在」にも書かれている通り、日本でツールが不足していることは全くその通りだと思う。

コンテンツ立国を阻むITツールの不在

手塚治虫のアニメ製作以来、日本のアニメはセル画を一筆一筆書くという「職人芸」として発展。しかもそれは、手塚治虫の「とにかくアニメをやりたい」という願望のため、とにかく好きな人間が収入や儲けというものをかえりみずにやる、という超労働集約型の産業として長らく続いてきた。まぁ、それに甘えていたテレビ局というのもあったのだろうが。

そうしたある種、「アニメへの献身的な愛情」が日本のアニメを世界トップクラスに押し上げてきたことは間違いないのだろうが、同時にそれが産業としての成熟を阻んできた一因でもあったのだろう。それがここに来て、急速に「コンテンツ」が産業の主役となり、「ジャパニメーション」への注目が集まり始める。

資本主義という荒波の中では「献身的な愛情」というのは産業を成立させるための一要素ではあっても、必ずしも主要な要因ではない。投下された資本にたいしてはそれに見合ったリターンが求められるのであり、そのための作業の効率化や適切な管理法が求められる。もはやアニメはアートではなく、1つの産業として在ることが求められるのだ。

森さんの記事では、製作過程に国産ツールが使えない、あるいはツールを使うことを拒む雰囲気・文化があることが指摘されているが、これは何も製作過程だけではない。産業である限り製作から流通・消費過程まで効率的なことが求められる。あらゆる分野で効率化を実現するための「ツール」が求められるのだ。

デジタルビデオカメラなどハードの分野については、SONYや松下などが製作過程から放送機材の分野でも活躍している。これがソフト系になると製作過程だけでなく、あらゆる側面で日本勢は後塵を拝しているのではないか。

インターネット上でデジタルコンテンツを流通させようとすると、圧倒的にアメリカ勢にプラットフォームを押さえられている。例えばOS、WINDOWSにしろMacOSにしろいずれもアメリカ製だ。例えばWindowsMediaPlayer、著作権保護の仕組を含めてPC向け映像・音楽配信の仕組もアメリカ勢なら、iTuneのような音楽ダウンロードの仕組もアメリカ勢だ。(もちろん森さんが言うように編集ソフトもだ)

これは、しかし、日本がこうした技術に弱いということを意味していない。DVDの標準フォーマットに採用されている「MPEG2」には日本企業の技術がかなり含まれている。音楽配信の分野でも「TwinVQ」といった国産エンコーダのような、当時としては評価の高い技術もあった。

しかし印象としては、日本のこうしたプラットフォームとなる技術の場合、ソフトウェアというよりハードと結びついたイメージがある。SONYの音声圧縮技術であるATRAC3はOpenMGという著作権保護技術と結びつくことで、NetMDやメモリースティクで採用されているし、SDメモリーカード(IBM、インテル、東芝、松下ら「4C」)は携帯電話やデジカメ向けのメディアとして、あるいはDVD-RAM/R/RWなどのCPRMとしてDVDレコーダーに採用されている。技術力というよりも、それをビジネスとして成り立たせる部分で、日本は「ハードウェア」で儲けるというやり方が得意ということだろう。

これまでも何度か書いたが、差別化が難しい、あるいは競争優位を維持することが難しいデジタル家電分野は、常にコモディティ化の圧力にさらされることになる。となると、本来、「特許」や「ビジネスモデル」というハードそのものではなく、それを生み出すための「ノウハウ」「仕組」が重要にならざろう得ない。いつまでもマイクロソフトの独壇場にしておくわけにはいかないのだ。

どのような製品コンセプトを生み出すか ― デジタル家電の行方
消耗戦をどう乗り切るのか ― デジタル家電の行方


もうそろそろ、日本でも独自の配信プラットフォームを作り出してもいいのではないだろうか。

幸い日本はデジタル家電先進国だ。映像コンテンツへのニーズというのは、圧倒的にTVをベースとしている以上、PCのソフトベンダーであるマイクロソフトのプラットフォームを前提とする必要はない。TV向けの映像フォーマットをそのままPCやインターネットでも利用できるようにする「仕組」、TV・PC・HDDレコーダー・DVDで共通利用可能な著作権保護の「仕組」を用意すればいいのだ。

確かに現状、HDDレコーダーなどで利用されているCPRMはPC向けには利用が制限されている。とはいえ、東芝とTEPCOが共同で実験している「ひかり de DVD」などの動きもあり、IPダウンロード配信そのものは許容されているようである。であれば、PC向けのインターネット配信というのも、PC上での著作権保護の検証と再生プレイヤーの開発、配信事業者側の対応が揃えばそう遠くないうちに可能になるのではないか。

パワードコムと東芝、東電がDVD-RAM保存可能な映像配信をFTTHで試験運用


個人的には、いずれCD-R、DVDやSDメモリーといったメディアというのはいずれ衰退しネットワークを通じたコンテンツ流通が主流になると思うが、とはいえ現状TVで見ようとするとどうしてもDVDなどのメディアが必要になる。しかし「ひかり de DVD」のように光回線とHDDレコーダーが繋がるにはまだまだ障壁が高く、それであればむしろ、インターネットを通じてPC側で映像コンテンツをダウンロードし、それをDVD-RWなどに「ムーブ」し、それをHDDプレイヤーで再生・テレビで視聴するといったほうが現実味があるような気がする。

あるいはそういう使い方を創造していくことで、マイロクソフトの呪縛から逃れられるのかもしれない。

課題も多いがもうそろそろ、PC・TV・DVD(・携帯)を視野にしれたクロスプラットフォームについてまじめに考えてもいいのかもしれない。



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