ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

どのような製品コンセプトを生み出すか ― デジタル家電の行方

2005年01月15日 | ビジネス
森祐治さんが「越境」、「コンシューマー・インサイト」、「インフォーメーション・デバイド」の3つのキーワードから「いつの間にか融合が始まった」と記憶されるであろう2005年の放送・通信・家電のあり方について書かれていた。この中でとくに「越境」、「コンシューマー・インサイト」というのは特にこれから大きな意味を持つのではないか、と思う。振り返れば2004年、この年はおそらく家電メーカーがこのままの形態で製品を提供しつづけることはありえないのだろうなと実感させられた1年だったと思う。そしてそれを克服するためのキーワードが森さんの示した「越境」と「コンシューマー・インサイト」なのではないだろうか。

森祐治/放送・通信・家電融合のグランドデザインを求めて:2005年のキーワード

2004年、アテネオリンピックにも支えられたデジタル家電ブームは、しかし勝ち組のあり方を変えた一年だったのではないだろうか。つまりこれまでであれば、先行者メリットを得るために膨大な技術開発費用をかけ新しい商品を育て上げ、市場が立ち上がれば、その分、製品の直接販売やOEM、特許料など競合他社より多額のリターンを得るというのがメーカーの成功モデルとなっていたと思う。確かに、現在も液晶テレビについていえば「SHARP」の独り勝ちの様子があるが、現在もっともHOTな戦場といっていいハードディスクレコーダーの分野では、本来、先行者優位のはずのパイオニアが苦境にあえぎ、しかもまだ市場が立ち上がったばかりだと言うのに既に低価格競争となり、「共倒れ」の状況になりつつある。

何故、このような状況に陥ったのか。

デジタル化の波はこれまでの家電製品の中に存在していた「分野の壁」を恐ろしく低くしてしまった。HDDレコーダーという風にいえば全く新しい商品のようだが、これはまさにパソコンと変わらない。Windows上のアプリケーションとして行っているか専用のハードウェアとして行っているかの違いでしかない。これは確かに一方で、全くの新しい商品として作り出すことに比べ、技術面での飛躍のスピードや部品調達コストを低く抑えられるといったメリットがある一方、参入障壁が低いことに他ならない。

エンコードのやり方は標準的なMPEG2を採用し、各種部品は全てを内製化するのではなく世界中から安価で調達できるパーツを組み合わせる。その結果、ユーザーから見て魅力を感じる「差別化項目」は「価格」だけといった形になってしまう。しかもこのデジタル化の波は様々な製品に同時多発的に発生しており、ある意味、様々な分野のメーカーが自分の得意分野を超えて、容易に参入できるようになってしまった。大前研一氏の言う「READY&GO」状態がここにも出現しているのである。

これまでであれば、市場の立ち上げに積極的だった"リーダー"的な企業が先行者優位やブランド力を発揮して、「価格競争」に至るまでの間により多くの果実を得ることができた。しかしデジタル家電の分野ではしっかりとした「参入障壁」を作り上げない限り、あっという間に様々な分野から競合他社が参入し、先行者メリットを得る前にパイの奪い合い・価格競争へと突入してしまうのである。

実際、HDDレコーダーの価格破壊の原因となったのは、本来ゲーム機である「PSX」の登場だと言われているし、またデジカメ分野が高級一眼レフ系以外で利益が上がらないのは、それまでのカメラメーカーから家電メーカーまでが激しい競争を繰り広げていることと、「携帯電話」が競合になっていることにも表れている。「iPod」にしろAppleが音楽デバイスについて特に優れたノウハウがあったわけではないだろう。

そうした下手をすれば勝者不在の競争の下、それぞれの企業が新しい成功モデルを作り上げるためには「越境」、「コンシューマー・インサイト」という視座が必要になるのだろう。例えば「越境」といっても単にデジカメの技術があるのでデジタルビデオに参入しました、というように「分野」を越境しただけでは単なる価格競争の1プレイヤーでしかない。iTunes/iPodのモデルが示したのは、「分野」をまたがるような「越境」したビジネスモデルの構築のはずだ。それぞれの分野で頑張っている競合が単純には参入させないために、あるいはこれまでの分野という切り口では気が付かないうちに生じたズレをうめるために、「越境」したビジネスモデルが求められているのだ。

ではどのように「越境」すればいいのか。そこで必要になる視座が「コンシューマー・インサイト」なのだろう。これは森さんの例えが非常に面白かったので是非読んでもらえばいいと思うのだが、まさにこのくだりに尽きるのではないだろうか。森氏は言う、「『好きな音楽にいつも囲まれていたい』という本質的な欲望を発掘し、『持ち出せる僕の大好きな音楽』を実現したソニーのWalkmanや、『ずっとたくさんの音楽を手軽に』を可能にしたiTunes/iPodのような『欲望の再発見・再認識』を具現化した商品が大ヒットになる。そんな表面上忘れかけているように見えるけれど、絶対に忘れられない欲望を発見する視点をコンシューマー・インサイトという。これが、越境の方向性の指針となる絶対唯一の軸だ。」

しかしこれは決して簡単なことではない。誰だってこれまでの延長線上で物事を考えることの方が楽だし、新しいコンセプトを生み出せばそれを周囲の人間に説得する必要もある。新しいコンセプトが正しいか、支持されるかといったこともある。あくまで自分が1ユーザーとして「経験」した時にどうしたものであれば便利なのか、満足するのかといった「感性」の声をすくい上げる必要があるのだから。


オリンパスは「iモード」を目指す ― デジタル家電の行方


コメントを投稿