やはり日本では楽曲配信は流行らないのか。パソコン向け音楽配信サイト「MUSICO」が2011年3月でサービスを終了するという。
NTTコミュニケーションズ:音楽配信サイト「MUSICO」を来年3月で終了 - 毎日jp(毎日新聞)
音楽配信サービス「MUSICO」が2011年3月に終了 -AV Watch
「OCN MUSIC STORE」「goo Music Store」時代を含めるとWMA系の楽曲配信サイトとしては、かなりの古株。320kbpsのmp3配信を始めたり、CMタイアップを展開するなど積極的に楽曲配信事業に取り組んできた。
とはいえ日本のPC向け楽曲配信はiTunes Storeの1人勝ち。そのiTunes Storeにしても、あれだけiPhone/iPodが売れているにも関わらず、着うた/着うたフルに比べればDL量は1/10。ちなみに2010年4月~6月のPC向けDL実績は10,897,000DL、着うた/うたフルなど携帯向けには99,094,000DL、ともに前年比マイナスだ。
これまでも何度か書いてきたが、改めて、何故、PC向けの楽曲配信が日本で上手く行っていないのか整理しておこう。
その理由は大きく5つ。
1)携帯向け音楽配信(着うた/着うたフル)の存在
海外でiTunes Music Storeが注目されたのは、もちろんP2P対策という意味合いもあったわけだけれど、iPodとそこで利用するための楽曲配信がセットとなった点だ。こうした垂直統合モデルを日本でもっと完成した形で実現したのが、「着うた」「着うたフル」のようなケータイ向け音楽配信サービスだ。
ケータイから直接サイトにアクセスし、決済~DLまでをワンストップで提供される。常に持ち歩くデバイスに音楽を閉じ込め、しかも、着信設定や目覚まし音に設定できる。
こうしたサービスがケータイ世代を中心に普及し、PCを使ったサービスはその煩わしさから敬遠される。
2)レンタルCDの存在
ある意味、これがもっとも大きいのではないかとも思えるのが「レンタルCD」の存在。
それまでアルバムの中で聴きたい曲かあった場合、アルバムを購入するのに10曲で3,000円前後かかっていた。それがiTunes Storeの登場で、聴きたい曲だけを手軽に購入できる時代となった。1曲あたり150円前後。欲しい曲だけを購入すればいいから、アルバムを買うよりも安上がる。これが海外の論理。
しかし日本には「レンタルCD」がある。アルバム1枚借りても1週間で200円~400円。まぁ、著作権違反になるかもしれないが、多くの人はこれをリッピングするだろう。
しかも売れ筋のメジャーのアルバムなら、Sonyだろうがavexだろうが何でもある。iTunesでさえもSONYの曲がないことを考えるとこの差は大きい。
3)DRMなど使い勝手の問題
多くの楽曲配信のファイルはDRMがかかっている。DRMがかかっているということは、せっかく楽曲を購入したとしてもPCやDAPを買い換えたりすると使えなくなる可能性があるということだ。これは実際の使い勝手以上に心理的にマイナスだ。
しかも今回のMUSICOのように、サービスが終了してしまうと、その後のライセンス再発行が保証されない場合がある。CDだって壊れることがあるでしょうと言われればそうなんだけれど、それは自分の責任。でも事業者がサービスを終了するのは他者の責任。これは全く違う問題。
4)レーベル優位の状況
配信事業者とCDショップ。同じく「音楽」を売るわけだけれど、この立ち位置は全く違う。CDショップは自ら仕入れて販売をする。レコード会社はできるだけ多くショップに卸したいと考える。多くの場合、CDショップはどのレコード会社の商品でも扱うことができる。しかし楽曲配信事業者だとするとこんな風にはいかない。
配信事業者が楽曲を配信する場合、「原盤権」を持つレコード会社から「配信許諾」を受けることになる。しかしここが曲者だ。CDショップの場合のようにどこの配信事業者にも「許諾」してくれるとは限らないからだ。
もちろんコンテンツホルダーとしてのレコード会社は、その楽曲を売り出すために多額の投資をするわけで、いかに効果的に「回収」するかというのは大きな問題だ。そこで配信事業者に対し、様々な条件を付与し、収益の最大化を目指そうとする。その1つが、テレビCMとのタイアップだ。
例えば「MUSICO」のような配信事業者が自らのサービスをテレビCMに流す場合に、楽曲のPVを流してもらう。こうすることでレコード会社としては、自らテレビCMに流すことなく、配信事業者の予算で楽曲の宣伝が可能となる。こうしたプロモーション協力をバーターに配信の許諾を行うのだ。
この手の手法は他にもコンサートへの協賛やイベントへの協力といった形になることもある。
またそうしたバーター的な手法をとらなくても、巨額のMG(ミニマム・ギャランティ)を設定することもある。
MGとは最低限の販売収入を担保させる方法。一般的に楽曲販売はR/S(レベニューシェア)方式を用いることが多く、収益は「販売単価×販売数量×R/S率」で求められることが多い。しかしこれだと販売数量見合いで収益が決まることになる。売れるときはそれでもいいが、それほど売れていなくても「販売サイト」側としてのリスクは小さい。
そうした「やる気の見られない」販売サイトへの牽制の意味もあって、MGが設定される。これは例えば最低でも1000わ曲分以上売ってくださいねということで、販売サイト側から販売数量に関わらず、10000曲分の収益を事前に払わせるというモデルだ。こうすることでレコード会社側でのリスクを減らすことが可能になる。
5)ビジネスモデルの難しさ(薄利多売)
と、楽曲配信事業者からすると、上述のようにレコード会社からのプロモーション協力やMGといった要望がある一方で、なかなか売っても「利益」が上がらないというジレンマがある。
一般的に楽曲配信のビジネスモデルはR/S方式だ。
仮に
1曲150円
R/S率 70:30=レコード会社:配信事業者(課金手数料込み)
だとすると、10,000曲を売った場合には、流通額は 10,000曲×150円=150万円 となる。
このうち、配信事業者の収益というのは、 150万円×30%=45万円 にしかならない。
しかもこのうち課金手数料がクレカなら3~6%程度。つまり40万円以下くらいなってしまう。
このような「薄利多売」モデルではコンテンツの量が求められる。しかし量が増えれば、運用稼動が増加し、またMGも増加する。こうした状況をさけるためには、一気に規模の拡大を進めなければならない。これが中途半端だとどうしても事業としては苦しくなる。悪循環だ。
しかもその一方でレコード会社同士で立ち上げた「mora」などのサイトでは、MGなども設定されず、SONYからavex、UNIVERALなどほとんどの楽曲が配信されている。配信事業者はそうしたサイトとも戦わねばならず、その意味でもはじめから足かせを背負っている。
楽曲配信がスタートした直後は、サイト上の分かりにくさや、デバイとの連携のしにくさなども問題だったのだけれど、そのあたりは運営者側がこなれてきたり、ユーザーの経験値が上がったりしたことで、今ではそこまでの問題ではないだろう。
ちょうどamazonの楽曲配信サービスが日本でも始まったところでもあるのだけど、「うり」となっているMP3配信はおそらくEMIの分くらいしかないのではないか。まだまだお寒い状況だ。(もっともEMI以外のメジャーレーベルがJPOPではMP3の配信を殆ど許諾していない。このあたりもレーベル優位の問題点でもある)
とはいえ、CDパッケージの生産数はどんどん減少しており、今後、パッケージを生産することが果してメリットかどうかも問われかねない時代になるのだろう。アーティストが自らのサイトで直販するような時代になるかもしれないし、サブスプリクションモデルへの移行ということも考えられる。
残念ながら、ほとんどの音楽は「消耗品」に過ぎなくなった。音楽配信がどこへたどり着こうとしているのかはまだ見えていない。
NTTコミュニケーションズ:音楽配信サイト「MUSICO」を来年3月で終了 - 毎日jp(毎日新聞)
音楽配信サービス「MUSICO」が2011年3月に終了 -AV Watch
「OCN MUSIC STORE」「goo Music Store」時代を含めるとWMA系の楽曲配信サイトとしては、かなりの古株。320kbpsのmp3配信を始めたり、CMタイアップを展開するなど積極的に楽曲配信事業に取り組んできた。
とはいえ日本のPC向け楽曲配信はiTunes Storeの1人勝ち。そのiTunes Storeにしても、あれだけiPhone/iPodが売れているにも関わらず、着うた/着うたフルに比べればDL量は1/10。ちなみに2010年4月~6月のPC向けDL実績は10,897,000DL、着うた/うたフルなど携帯向けには99,094,000DL、ともに前年比マイナスだ。
これまでも何度か書いてきたが、改めて、何故、PC向けの楽曲配信が日本で上手く行っていないのか整理しておこう。
その理由は大きく5つ。
1)携帯向け音楽配信(着うた/着うたフル)の存在
海外でiTunes Music Storeが注目されたのは、もちろんP2P対策という意味合いもあったわけだけれど、iPodとそこで利用するための楽曲配信がセットとなった点だ。こうした垂直統合モデルを日本でもっと完成した形で実現したのが、「着うた」「着うたフル」のようなケータイ向け音楽配信サービスだ。
ケータイから直接サイトにアクセスし、決済~DLまでをワンストップで提供される。常に持ち歩くデバイスに音楽を閉じ込め、しかも、着信設定や目覚まし音に設定できる。
こうしたサービスがケータイ世代を中心に普及し、PCを使ったサービスはその煩わしさから敬遠される。
2)レンタルCDの存在
ある意味、これがもっとも大きいのではないかとも思えるのが「レンタルCD」の存在。
それまでアルバムの中で聴きたい曲かあった場合、アルバムを購入するのに10曲で3,000円前後かかっていた。それがiTunes Storeの登場で、聴きたい曲だけを手軽に購入できる時代となった。1曲あたり150円前後。欲しい曲だけを購入すればいいから、アルバムを買うよりも安上がる。これが海外の論理。
しかし日本には「レンタルCD」がある。アルバム1枚借りても1週間で200円~400円。まぁ、著作権違反になるかもしれないが、多くの人はこれをリッピングするだろう。
しかも売れ筋のメジャーのアルバムなら、Sonyだろうがavexだろうが何でもある。iTunesでさえもSONYの曲がないことを考えるとこの差は大きい。
3)DRMなど使い勝手の問題
多くの楽曲配信のファイルはDRMがかかっている。DRMがかかっているということは、せっかく楽曲を購入したとしてもPCやDAPを買い換えたりすると使えなくなる可能性があるということだ。これは実際の使い勝手以上に心理的にマイナスだ。
しかも今回のMUSICOのように、サービスが終了してしまうと、その後のライセンス再発行が保証されない場合がある。CDだって壊れることがあるでしょうと言われればそうなんだけれど、それは自分の責任。でも事業者がサービスを終了するのは他者の責任。これは全く違う問題。
4)レーベル優位の状況
配信事業者とCDショップ。同じく「音楽」を売るわけだけれど、この立ち位置は全く違う。CDショップは自ら仕入れて販売をする。レコード会社はできるだけ多くショップに卸したいと考える。多くの場合、CDショップはどのレコード会社の商品でも扱うことができる。しかし楽曲配信事業者だとするとこんな風にはいかない。
配信事業者が楽曲を配信する場合、「原盤権」を持つレコード会社から「配信許諾」を受けることになる。しかしここが曲者だ。CDショップの場合のようにどこの配信事業者にも「許諾」してくれるとは限らないからだ。
もちろんコンテンツホルダーとしてのレコード会社は、その楽曲を売り出すために多額の投資をするわけで、いかに効果的に「回収」するかというのは大きな問題だ。そこで配信事業者に対し、様々な条件を付与し、収益の最大化を目指そうとする。その1つが、テレビCMとのタイアップだ。
例えば「MUSICO」のような配信事業者が自らのサービスをテレビCMに流す場合に、楽曲のPVを流してもらう。こうすることでレコード会社としては、自らテレビCMに流すことなく、配信事業者の予算で楽曲の宣伝が可能となる。こうしたプロモーション協力をバーターに配信の許諾を行うのだ。
この手の手法は他にもコンサートへの協賛やイベントへの協力といった形になることもある。
またそうしたバーター的な手法をとらなくても、巨額のMG(ミニマム・ギャランティ)を設定することもある。
MGとは最低限の販売収入を担保させる方法。一般的に楽曲販売はR/S(レベニューシェア)方式を用いることが多く、収益は「販売単価×販売数量×R/S率」で求められることが多い。しかしこれだと販売数量見合いで収益が決まることになる。売れるときはそれでもいいが、それほど売れていなくても「販売サイト」側としてのリスクは小さい。
そうした「やる気の見られない」販売サイトへの牽制の意味もあって、MGが設定される。これは例えば最低でも1000わ曲分以上売ってくださいねということで、販売サイト側から販売数量に関わらず、10000曲分の収益を事前に払わせるというモデルだ。こうすることでレコード会社側でのリスクを減らすことが可能になる。
5)ビジネスモデルの難しさ(薄利多売)
と、楽曲配信事業者からすると、上述のようにレコード会社からのプロモーション協力やMGといった要望がある一方で、なかなか売っても「利益」が上がらないというジレンマがある。
一般的に楽曲配信のビジネスモデルはR/S方式だ。
仮に
1曲150円
R/S率 70:30=レコード会社:配信事業者(課金手数料込み)
だとすると、10,000曲を売った場合には、流通額は 10,000曲×150円=150万円 となる。
このうち、配信事業者の収益というのは、 150万円×30%=45万円 にしかならない。
しかもこのうち課金手数料がクレカなら3~6%程度。つまり40万円以下くらいなってしまう。
このような「薄利多売」モデルではコンテンツの量が求められる。しかし量が増えれば、運用稼動が増加し、またMGも増加する。こうした状況をさけるためには、一気に規模の拡大を進めなければならない。これが中途半端だとどうしても事業としては苦しくなる。悪循環だ。
しかもその一方でレコード会社同士で立ち上げた「mora」などのサイトでは、MGなども設定されず、SONYからavex、UNIVERALなどほとんどの楽曲が配信されている。配信事業者はそうしたサイトとも戦わねばならず、その意味でもはじめから足かせを背負っている。
楽曲配信がスタートした直後は、サイト上の分かりにくさや、デバイとの連携のしにくさなども問題だったのだけれど、そのあたりは運営者側がこなれてきたり、ユーザーの経験値が上がったりしたことで、今ではそこまでの問題ではないだろう。
ちょうどamazonの楽曲配信サービスが日本でも始まったところでもあるのだけど、「うり」となっているMP3配信はおそらくEMIの分くらいしかないのではないか。まだまだお寒い状況だ。(もっともEMI以外のメジャーレーベルがJPOPではMP3の配信を殆ど許諾していない。このあたりもレーベル優位の問題点でもある)
とはいえ、CDパッケージの生産数はどんどん減少しており、今後、パッケージを生産することが果してメリットかどうかも問われかねない時代になるのだろう。アーティストが自らのサイトで直販するような時代になるかもしれないし、サブスプリクションモデルへの移行ということも考えられる。
残念ながら、ほとんどの音楽は「消耗品」に過ぎなくなった。音楽配信がどこへたどり着こうとしているのかはまだ見えていない。
デジタルコンテンツのDL販売時にはJasracの場合7.7%の支払い義務がありますので、少ない取り分からさらに引かれることになります。また、携帯向けの着うたフルの場合キャリア課金が前提となりますが、この手数料はクレジットの手数料よりも高額です(9%程度)。
Seller側の取り分はせいぜい12%程度が現実的なところではないでしょうか。
課金手数料は事業者側負担なので、これが薄利多売に輪をかけていますね。
いずれにしろ、次のモデルがどうなるか、誰が勝者になるか、興味深いです。
傲慢なレーベルは配信事業者への負担が大きいですし、後発の配信事業者は損な契約になることが多いので。
と、配信許諾に限らず業務委託になることもあるでしょう。そうなると条件は更に不利になりますね。