goo blog サービス終了のお知らせ 

ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

インドの衝撃/NHKスペシャル取材班・編

2009年12月13日 | 読書
「坂の上の雲」の時代というのは日本もこういう感じだったのだろうか――。この本を読んでいると、日本の衰退とインドの台頭というのは避けがたいことなのだろうと感じてしまう。「頭脳立国」でありそのパワーを国家の発展のために活かしたいという「志」、そして様々な問題も抱えつつも広がりつつある巨大市場。それは「草食系」などと呼ばれる日本の学生や人口縮小社会へと突入する日本とは真逆だ。2007年に放送されたNHKスペシャル「インドの衝撃」の文庫版。その後も書籍や放送では続いているようなので、再放送などあれば、1度、見てみたいと思う。


インドの衝撃/NHKスペシャル取材班

【放送版】

NHKスペシャル「インドの衝撃」 第1回:わき上がる頭脳パワー

【内容】

1 わき上がる頭脳パワー

2005年のインドのGDPは約94兆円。ここ20年間で約3倍に成長している。この成長を支えているのがIT産業である。すでにインドはシリコンバレーを抜いてソフトウェア・エンジニアの多い国であり、中でもバンガロールでは約20万人のエンジニアがいるという。

インドの理工系大学の最高峰がインド工科大学(IIT)である。IITは競争率60倍という難関の上に、入学試験の順位によって希望学部を選択するため、受験生は必死に勉強に取り組んでいる。またIITでは特別な事情がない限り全員が寮で過ごし、学内だけでなく寮内でも「新しい解法」や「独創性に富んだ解決策」などを競い合っている。IITの生徒たちは「IITでは誰もが国に貢献する責務があると考え、そのことを常に肝に銘じて」いる。

IITは200年にわたるイギリスによる植民地支配から独立を果たした「インド建国の父」・ネルーが、資金も資源もなく疲弊しきったインドで唯一残された「頭脳」という資源に「頭脳立国」を目指し設立した。IITでは当初から世界一を目指し、多数の優秀な人材を排出してきた。1960~70年代には卒業生の約80%がアメリカをはじめとした海外に渡りその才能を開花させた。しかしここ数年は海外企業から高額な初任給を提示されても数年でインドに戻り起業したいという学生や、最初からインド企業に就職する学生が増えている。「頭脳流出」から「頭脳還流」へと転じている。

「頭脳還流」のパイオニア的存在が「インフォシス」だ。インフォシスの収益の98%は海外企業との取引である。その取引先にはマイクロソフトやAPPLE、エアバス、ボーイングといった具合に競合する企業も存在する。マイクロソフトとは専用回線で接続されており、アメリカとの時差を利用して、アメリカが夜の間に開発を進めるなど24時間体制での開発環境を提供している。またインフォシスでは、単にアウトソーシング先にとどまらず問題を解決するための技術力を提供している。

IITの学生や卒業生たち、IITを目指す子供たちの話を聞いていると「自分のためではなく、家族や地域、そしてインドのために勉強する」「インドの発展のために貢献したい」といった声が聞かれる。彼らと向き合っていると本当の「愛国心」というものはこういうものではないかと感じる。

2 十一億の消費パワー

古来、カースト制による身分・職業が固定化されたインドにおいては大多数の貧しい人々は子々孫々、貧しいままだった。近年、インファシスやウィプロといったIT企業の台頭とともに「中間層」があらわれ、消費の担い手となった。インドでは毎年、マレーシアの人口に匹敵する2500万人の「中間層」が増えている。そうした中間層の住む街では、デリー市内とは違い、大きな格子状の道路が整備され、20~30階建ての巨大マンションが立ち並び、巨大なショッピングセンター(モール)が隣接する。インド的なものから切り離された近代的な都市が存在する。

そうした中間層は各部屋にエアコンを完備し、液晶テレビがあり5.1chサラウンドで楽しめる。キッチンをのぞけば冷蔵庫に電子レンジが用意されている。彼らは夫婦で働き、株に投資する。

こうした中間層は2001年から2005年でおよそ2.2億人(約20%)から3.7億人(約34%)と大きく伸びている。全体としてはまだまだ貧困層が多いが、その巨大な人口規模から生まれる「中間層」市場は既に日本の人口を上回っている。

もともとインドはガンジーに見られるような禁欲性が高いはずだった。インドの中間層は、経済的な条件をはじめ、心理的な側面、メディア情報環境などが劇的に変化している。これまでの禁欲主義が爆発し一気に消費に流れているような印象を与える。

小売業といえば、これまで地元の零細店舗が中心であったが、近年、全国チェーンの大型スーパーマーケットの進出が盛んになってきている。その代表である「ビックバザール」では、3~4階建て数万㎡以上の大きなフロアに、食料品から衣料品、生活雑貨、家電製品、家具、書籍までがそろっている。商品の並べ方などは、一見すると日本のGMSのやり方で、棚に大量の商品が並べられ、人々はかごやカートを手にして歩き、レジで清算する。バーコードとPOSシステムが導入されており、オンラインで販売情報は瞬時に集められる。

ビックバザールの本部では、MBA取得している20代から30代の高学歴者を中心に、最新の経営理論・マーケティングをもとにした中央集権的な経営戦略と組織化された店舗運営を行っている。これまでこうした近代的な商業施設はニューデリー、ムンバイ、コルタカ、バンガロール、チェンナイ、ハイデラバードなど「ビック6」と呼ばれる大都市にしかなかったが、これからはB級の地方都市にも広がっていくことになる。B級といっても、インドには100万人以上の都市が35もあり、数十万規模の都市は100はくだらない。こうした地方都市に拡大できれば、飛躍的な拡大がきたいできる。

インドでは「消費革命」が起きているが、日本企業は苦戦している。家電メーカーのシェア争いでは韓国メーカーが先行している。韓国メーカーが先行した理由としては、早い段階から圧倒的な投資を行ったこと、いち早く工場を作り、販売網を広げ、人気スポーツである「クリケット」の冠スポンサーになるなどプロモーションを行ったことなどが挙げられる。また日本企業が意思決定に時間がかかるのに対し、韓国企業は直ぐに対応していることも挙げられる。

大型量販店による流通。CMやイメージ戦略などの付加価値競争。いずれも日本や先進国で行われていることであり、インド市場もそうした「グローバル・スタンダード」に仲間入りしようとしている。他国と違うのはそれが「11億の市場」だということだ。

3 台頭する政治大国

こちらは省略。インドのプライドやアメリカなどとの外交力、そして「貧困層」というインドの不安定要素などについて書かれている。


【感想】

2050年のインドの人口は14億人にも達するようだ。その中で何割が中間層や富裕層、つまり「消費者」になっているかはわからないが尋常な数字ではないだろう。その頃の日本の人口は1億人を切っており(約9500万人)、しかもその4割が65歳以上といった具合だ。企業という立場から考えると、日本は「市場」としてはもう美味しくない市場であり、所謂、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)市場をどう押さえていくかということが大事なのだろう。

これはまた別の形でまとめたいのだけれど、こうしたこれから消費市場が拡大する「BRICs」市場への取り組み方というのは、欧米や日本など先進国市場へのアプローチではダメなのではないかと思う。現在、日本企業に求められている「差別化戦略」や「高付加価値戦略」というのは成熟市場には適しているのだろうが、拡大していく中間層~中間層予備軍を相手にする時、それは顧客の奪い合いではなく、拡大する市場のシェアを抑えることが必要なのであり、そのためには「質」より「価格」に重きを置かねばならないのだ。「それなりの品質を安く」提供することが必要なのだろう。

まぁ、いずれにしろ、日本で生活していくのであれば、人口減少社会の中でどのように成長戦略を描くかが求められるのだろう。そのことを再認識させられる一冊だ。


インドの衝撃/NHKスペシャル取材班



コメントを投稿