ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

【読書】がん放置療法のすすめ―患者150人の証言 / 近藤誠

2013年08月11日 | 読書
乳がんの「乳房温存治療」の提唱者にして、「がん放置療法」を提唱する近藤誠氏の著書。何とも衝撃的なタイトル。個人的には非常に共感できるところも多々あるものの、同時に1つの大きな疑問が。

「結局、がん治療に携わる医者の役割とは何なのか」

がん放置療法のすすめ―患者150人の証言 (文春新書) / 近藤誠



近藤先生の考えを整理すると、

「癌」は「老化現象」である。年齢を重ねる中で遺伝子変調の積み重なった結果が「癌」である。

「癌」が人を死に至らしめるには、重要臓器の機能を妨げる必要がある。例えば肺がん(腫瘍)が気管支を押し潰して呼吸を妨げるとか、肝がんが肝臓の多くを占めることで肝不全にさせるといったように。逆に言えば、硬い腫瘍ができたからといっても、周囲組織に浸潤していく力がなければ、多臓器に転移する力がなければ、それは死に至らしめるわけではない。

「癌」には転移する「本物の癌」と転移しない「がんもどき」がある。「本物」の癌は初発癌発見のはるか以前に(発見できない大きさで)転移しており、「がんもどき」は放置しても転移は生じない。

「がんもどき」では転移をしないので、患者の身体への負荷が高い外科的治療も化学的療法(抗がん剤)も必ずしも必要ない。「苦痛」や「QOL」を落としている症状が現れた場合に初めて「治療」をすればよい。

現代医学では「本物の癌」を治す手立てを持っていないので、この場合も、症状が出たときに「苦痛」や「QOL」を緩和する最低限の処置をすることが長生きの秘訣となる。癌細胞を叩くような治療(手術や抗がん剤、放射線)は返って「宿命効果」をもたらすことが多い。

つまり、「本物」だろうが「がんもどき」だろうが、定期健診や診断で癌が発見されたからといって、すぐに手術や抗がん剤治療を行うのではなく、様子をみるために「放置」することが望ましいということだ。

もちろん全てについてそういっているわけではない。前提としては「無症状」の人が対象であり、QOLを落とす症状があれば回復させるために治療は行うし、不安など精神症状緩和のために手術を行うこともある。

ここでいう「がんもどき」なのに「癌」と診断された人にとっては、この選択肢は魅力的だ。癌の大きさがどのように増えていくかはある程度、想定できるようだし、そもそも取り除く必要がないなら、体にメスを入れたくないと考えるだろう。

しかし転移のある「本物」の癌の場合はどうか。

ここで求められるのは「死への覚悟」だ。仮にその通りだとしても、近藤先生の「がん放置療法」がそういった患者に求めることは、もう治らないのだし、諦めたうえで、残りの人生をどう過ごすか考えなさいということだろう。切除なり、抗がん剤なりで治療をするのであれば、患者の側にとっても「癌と闘っている」「生きようとしている」感があるだろう。「がん放置療法」ではそうではない。QOLを維持・回復するための治療、痛みとるための緩和ケアなどは実施したとしても、そこに「癌と闘う」感はない。患者にとってはある種の諦念と「死の受容」の覚悟が必要となる。

もちろん積極的治療を望む人にしたって、「癌と闘う」こと自体が人生の意義や目的ではないだろう。

問われているのは「どう生きるのか」なのだろう。

としても、ここで僕らはもう一度、考えねばならない。「がん放置療法」が最適な治療法なのだとした場合に、「医師」の役割とは何なのか。

骨折をすればそれをつなぎ合わせる(回復す)ための処置をしてくれるだろう、盲腸になれば薬をくれるか切除をしてくれるだろう。外科だけでなく、内科だろうが、歯科だろうが、具合が悪いところがあれば、それへの対処をしてくれる。そういった意味での治療を「がん放置療法」の医師は行わない。彼らの果たす役割とは何なのか。

医師として「癌」と対峙・克服しようというスタンスはそこにはない。

もちろんドン・キホーテのようにかなわぬ相手に闇雲に挑むことが望ましいとは思わないし、一昔前のそうした態度がが患者のQOLを無視した手術や抗がん剤治療を推し進めてきたのも事実だろう。それにしても、何もしてくれない医師をどのように信じればいいのか。そうした態度の内に潜む適切な判断を、どの医師であれば下してくれると見抜けばいいのか。

この「がん放置治療」が最適かどうかはわからないが、共感できる部分も多々あり、がん治療に対して考える上で一度は検討してみる価値があるのではないだろうか。



がん放置療法のすすめ―患者150人の証言 (文春新書) / 近藤誠

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