Aから連絡がないまま、デートや『なすび』コンサートや高円寺阿波踊りや母と援助交際寿司や仕事など忙しい日々が過ぎていた。
Aとの最後の電話については恋人と、決裂前に相談していた友人に報告していた。
無反応だった。
誰もが母と同じように「もう止めておけ」と思うのだろうか。
私も、心配ながら、Aを追い掛けて消耗するのは避けたいと思っていた。
私と会うのがBにバレて止められたとして、Aがそれに従っているなら、仕方ない。
助けてくれと言うなら何でもするが、試されているなら付き合わない。
朝、ケータイが鳴って、出たら「はっ」みたいな声がして切れた。
知らない番号からだった。
また同じ番号からかかって来て「桜井真理さん?」と言うので「どちら様ですか?」と聞いた。
「××です」
「××さん?」
思い当たらない名字だった。オバサンの声だった。
「Aが」
ゲッ!Bだ!ブチッ。Bとは話さない、一切関わらないと決めていた。
やはりバレたのか。Aの電話からではないのは何故か?
わからないけどBとは話したくない。
着信拒否登録したのに、何度も何度もかかって来る。
auに電話。着信拒否登録だけではダメで着信拒否設定をONにしなくちゃいけないんだと!判りにくいよ!au!
そうこうしている間に留守電メッセージを吹き込んでいるB。
どうせ私を罵倒しているのだろう。
「Aに近付くな」とかなんとか? そんなもの聞きたくない!
しっかり着信拒否設定ONにした後、留守電メッセージを聞くべきか、悩む。
躊躇したが、聞いてみた。なんだかよくわからなかった。
私に対する罵詈雑言であることはわかった。
母が言うような恐ろしい目に遭うかもしれないので、証拠を保存しなければと思った。
10:19の伝言。
「もしもし、どうして逃げるんですか。学校であなたとちょっとお会いしたいんです。
えー、Aにいろいろ聞きました。あなたのお手紙も見せて頂きました。今ワタクシ持っております。
とりあえずあなたがそういう逃げ回って人を誹謗中傷して逃げているんであれば、えー学校でお会いしたいと思います。
それと、あなた、いろいろな最後の事を聞いてみたいとか日記を見てみたいとか思わないのですか、女として。
それと、人を落とし込めるような事を人に言い振り回したりする事はやめて下さい。
ワタクシは商売を三十年、(略:都内有数の盛り場)でやっております。真面目にやって来たからこのように続いたんだと思います。
あなたがいろんな人に、Dさんやいろんな人にワタクシの悪口や誹謗や中傷をしていることはよーく知っております。
でもAちゃんの日記を読んで御覧なさい。毎日書いている日記を。もしあなたがそうやって逃げ回って人の悪口を言い、言い振り……とにかくAちゃんの最後の日記やいろいろ見てみたい気は無いの? 卑怯な人間だね。あなたは何様なのよ。人を中傷したりする権利があるんですか。恐ろしいです。
とりあえず、あなたの手紙は学校に持って行きたいと思っております。
それとAちゃんの日記帳も全部持って行きたいと思っております。
私はあなたのせいで、私とAちゃんは何度も喧嘩しました。全部あなたのせいです。恐ろしいです、あなた。」
以降沈黙。泣いているような息遣いのみ。
なんだこれは???!!! 「最後の日記」? お母様の「介護の日記」の聞き間違いか?
10:49の伝言。
「今、
あなたからの、Aに送ってきた春先の手紙を私が今所持しております。何度も読み返しました。あなたは本当に酷い人です。
それと、Aの大学ノート10冊分ぐらいの日記帳を持って学校へ行きたいと思っております。
特にあなたの強調した貪欲な部分、お金、物、そういう話の内容、冗談じゃないですよ、本当に。Dさんもみんな知ってます。これを持って、Aの日記を持って、自分の名誉のために、学校に行って、あなたの私を誹謗中傷して、私とAをここまで苦しめてたこの手紙を持って、今から行きます。
それとAママ、お父さん、Aの遺骨は、全部私が持ってます。(略:Bの家)の方のAの部屋に仏壇があります。
女であれば、成仏全然できないでいるAに対して、あなたも悪いところがあったと素直に謝ったらどうですか?
大人をここまで追い詰めるような手紙に、手紙は一生残るものだから、こういう事をしたら駄目ですよ。あなたは世界で一番偉い人ですか。何を知ってんですかあなたに!
とにかく学校で会いましょう。これからお寺に行って、えーいろいろちょっとやることがあるので今日明日中にはあなたの手紙を持って行きます。それで、Aの日記も全部持って行きます。
それから、あまりいい気にならないで下さい。あーた世界で一番偉い人じゃ、あーたが好きか嫌いか判断する、あーた、あーた、そういう事言うね、権利無いのよ。私あーたには最初から興味ありません。怖い人だと思っています。本当に。
それから、(略:Bがオーナーの店)に迷惑かける、かかるような事言わないで下さい。本当に警察に訴えますよ! ワタクシは30年間も真面目にこつこつ仕事をしてきてる人間ですよ。
それと、Aの事を全部あなたの思い込みで感じないで下さい。Aの何を知ってんですか! 本当に! 本当に酷い人間ね! ホント。
とにかく、卑怯に逃げ回ってないで、自分の書いたことに対する、責任? そういう事、あなたみんなに言い振り回してんだから、謝るとこ謝るべきよ!」
テープ切れる。
遺骨? 7月1日に亡くなったお母様とお父様だけではなく、Aの遺骨? どういうこと?
成仏できないA? A、死んじゃったのか? まさか! こんな訃報ってあるのか?
何度も留守電を聞いてみる。「介護の日記」じゃなくて「最後の日記」だった。
「死にたい」って言ってたA、本当に死んだのか? いや、これはBの誘い出し作戦か?
幾らなんでもそこまでするか? 確認するにはどうすればいい? 誰に聞けばいい?
気が動転して、母に電話。
「Aが死んじゃったみたい!」と言って泣く。
「えーーー?!いやあぁー!」と母が叫んで泣く。
ワーワー泣きながら「どうして? 誰に聞いたの?」と聞かれる。
「Bが電話かけてきて、Aの遺骨を持ってるって!」
「A、可哀想!あああああ」と泣く母。
「助けてあげられなかったよ!」と号泣する私。
「でも、死んじゃっちゃあどうにもならない。死んだものはしょうがない。あんた、しっかりね」
「はい」
泣きながら、恋人と、Aの共通の友人にメール。二人とも「腑に落ちない」と言う。
夕方、母からも電話がかかってきて「21日に連絡があって、もうお骨になっているのはおかしい。Bの電話も変よ。あんたがBと接触するのではなく、誰かに頼んで確認しなさい」と言われる。
Aを知る友人弁護士に電話。
「21日にAと会う約束してて、会えないまま今日『Aのお骨を持ってる』っていう電話がかかってきたんだけど」
って、突然訳のわからない話だよなあ。
冷静に「捜索願を出したらいいと思うけど、とりあえずメールで経緯を書いて送って」と言われる。
ああ、どうかBの大嘘小芝居でありますように!! A、生きていますように!!