美術と本と映画好き...
徒然と(美術と本と映画好き...)




これはいかにも庭園美術館らしい名前の展覧会、案内に『日本にお
ける植物表現に焦点を絞り』とあるように、ちょっと古くさい植物
の図像を想像してしまう。しかし、ロビーにはいきなり真っ赤な中
川幸夫の作品がただならない雰囲気だ。花坊主と題されたその作品
は、伝統的な生け花に決別するための作品だという...

これは古い人から新しい人まで楽しめる展覧会ではないだろうか。

展示自体は写生や写真創世記の作品を紹介した一階から、現代写真
家の作品を中心とした二階の展示へと続きます。

一階の作品では杉浦非水の写生帖と牧野富太郎の挿絵が印象に残っ
た。私は植物の名前に疎い。野山を散策することがあって、そのた
びに残念に思うことが多々ある。小さな植物図鑑などを携帯したこ
ともあるが、写真と本物を結びつけるのが難しく、結局、名前は分
からなかったりする。杉浦非水の写生帖は、植物の特徴をよく捉え
ており、しかも色彩が美しい。手許に置いておきたくなる図像だ。
一方、植物学者の牧野富太郎の描画はとても精密だ。さすがは植物
分類学の父と呼ばれるだけある。学者魂にあふれた作品だ。

二階にあがると様相は一変する。

まずは現代生け花で勅使河原蒼風の作品を土門拳が撮ったもの。お
もに『私の花』『茶花』から選ばれた作品群。勅使河原蒼風には以
前から興味があったので、これだけの作品が一度に観られるだけで
も嬉しいのに、プリントが、皆、美しい。蒼風の作品集には古い出
版が多く、いつも躊躇っていたのだが、これだけ美しい色で印刷し
てくれたら、即、買ってしまうだろう。

そこから現代写真家が続く。

まずは石元泰博の端正な写真、白黒で無駄のないシャープな作風に
ロバート・メイプルソープの作品を思い起こした(年齢はメイプルソ
ープの方が全然若いけれど...)。二人は植物の形に関心を持ってい
るのだろう。無駄な部分をそぎ落としながらそぎ落としながら、い
きついたところに自然の作った美しい曲線が残ったのだと思う。

一方、生き物としての植物を、過剰なまでの探究心でフレーミング
したのがアラーキーこと荒木経惟だ。以前、銀座の西村画廊でアラ
ーキーの作品展を観たことがある。花をモチーフにしたその展覧会
で、壁いっぱいに荒木の花が埋め尽くしていた。初めての画廊にど
ぎまぎしていた私に受付嬢が『荒木さんはこの写真の発色がとても
気に入っているのですよ』と教えてくれたことを覚えている...

その荒木の花が、再び、西村画廊以上の高密度で私の目の前にある。
生命力あふれる色と花びらの形、もっと色っぽく、もっと過剰に、
そんな気迫が感じられる大判の花々だった...

また、チラシの表にもなっている東松照明の『ゴールデンマッシュ
ルーム』は凄い。薄い青を背景に、黄色い花、赤い花、白い花...
人の手では作れないであろう天然の素材の美しさと、かといって自
然そのままでは出せない、どこかに毒を隠しているかのような危う
さ...その絶妙なバランスが私の視線を釘付けにする。

そして屋根裏のウィンターガーデンに行くと、蜷川実花の作品...

ウィンターガーデンは植物を育てるために作られた温室、台風が通
り過ぎたあとの光、その光が幻惑的な色彩のポジを明るく照らして
いる。この『acid bloom』の作品は昨年末に代々木上原のギャラリ
ーで観た(これ)。蜷川実花さんの作品を観ていると、まだまだ意識
した事のない色ってあるものだな、と思う。そして、そんな色を観
ている私は新しい色に気づいた私...

例によって新館でコーヒーを飲んだ。雲の切れ間から青空がみえた。
ミュージアム・ショップで『ゴールデンマッシュルーム』の絵葉書
と蜷川実花のステッカー(どこに貼るんだ!?)を買った。

外に出ると青い空、気持ちのよい風が吹き抜けていった...

庭園植物記展(東京都庭園美術館) 11/6 まで...


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コメント
 
 
 
TBさせていただきました (モリゾー)
2005-09-28 23:24:17
こんばんは、以前田原桂一展の時にTBしていただきましたモリゾーです。TBさせていただいてもよろしいですか?

相変わらず細かい描写、学ばせていただきます・・・。
 
 
 
Re: TBさせていただきました (lysander)
2005-09-29 00:41:14
モリゾーさん

TBとコメントをありがとうございます。



この展覧会の展示作品はバラエティに富んで

いて、とても充実していますよね。

私は庭園美術館の友の会の会員なので、また、

行ってやろうと思っています。

 
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