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SPECULA #7「都市と芸術をめぐる現実(リアリティ)」川俣正vs桂英史
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春の戴冠 -『フィレンツェは秋』番外編-
書籍
/
2007-12-15
辻邦夫さんの『春の戴冠』をようやく読み終えました...
メディチ家の盛衰を通奏低音に、刻々と動いていく時代の中で、移
ろうもの、変わらないもの、聖と俗、善と悪...そんなせめぎ合うも
のたちが渾然と描かれています。
主人公はフィレンツェ...
社会人になって実家を出るときに、父親から『これは面白いから読
んどいた方がいいぞ』と持たされて十五年、一度もページを開くこ
とのなかった本です。夏休み(?)の旅行が決まってそういえばそん
な本があったなぁ...といくつものダンボールに詰まった蔵書の中か
ら発掘。でも、旅行を挟んだこのタイミングで本書を読むことがで
きたのは、とても幸運だと思います。
旅行前に読んだのは上巻の三分の二ほど。これから凄い坊さんが出
てくるんだよと親父の講釈を聴きながら、サンマルコ美術館で観た
サヴォナローラの意思の強いその横顔は、そのまま小説の中の修道
士に重なりました。
そして何よりもフィレンツェの春の盛りを駆け抜けた時代の寵児、
サンドロ・ボッティチェリという芸術家の、その描き方にとても興
味が惹かれました。
『ヴィーナスの統治(春)』の描写は圧巻...
旅行中にウフィツィ美術館でその作品の前に立った時に、目の前に
あるのが単なる絵画だとは思われませんでした。その画面から立ち
上ってくる空気、それはとても幸福な感覚で、その場から立ち去り
難く感じました。
これがサンドロの言ってた『神的なもの』なのだろうな...
結局、ボッティチェリの『春』が描かれた場面を読んだのは帰国後
なのですが、死の恐れさえ打ち消す『神的なもの』、あるいは万物
の源なる『一なるもの』、そうしたものを追い求め、手元にたぐり
よせ、つかみ、つかんだと思った端からそれをこぼしてしまい...
そんなことを繰り返す絵描きの姿からは業を感じます。そしてそこ
から派生した作品に費やされる言葉の量と描写の迫力。帰国してか
ら読むそれは旅行中の記憶を喚起するのに強い力を持っていました。
それが贅沢な夏休みを終え、再び世塵にまみれる通勤電車が束の間
の楽しみで...
私にはモノを創る才能はないのですが、そうした才能に恵まれた人
の思考のプロセスには興味があります。どういうことを考えながら
絵を描いているのだろう...時代と切り結ぶサンドロやレオナルドの
言葉を読むのはとてもスリリングな読書体験でした。
当然、そうした言葉を紡ぐのは辻邦夫なのですが...
時代に乗った作品を生み、そんな作品が物足りなく思え、自分が良
かれと思って行う工夫が、必ずしもその通りに世間に受け入れられ
る分けではなく...そしてそこに描かれる芸術家としての矜持...
そうしたジレンマは辻邦夫の告白なのかもしれません。
・
春の戴冠
(辻邦夫)
おまけ
・
画家の言葉
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