セピア色の映画手帳 改め キネマ歌日乗

映画の短い感想に歌を添えて  令和3年より

「冬の華」

2014-11-17 22:48:22 | 邦画
 「冬の華」(1978年・日本)
   監督 降旗康男
   脚本 倉本聰
   撮影 仲沢半次郎
   音楽 クロード・チアリ
   使用曲 チャイコフスキー ピアノコンチェルト第1番
   出演 高倉健
       北大路欣也
       田中邦衛
       池上季実子  倍賞美津子
       藤田進    池部良
       夏八木勲   三浦洋一
       峰岸徹     小池朝雄
       大滝秀治   寺田農
       岡田眞澄   小林稔侍

 「そうするより、しょうがねぇと思ったんだ、
  何とか・・見逃しちゃくんねぇか、
  お前とは、長ぇ付き合いじゃねえか・・・・
  ガキがいるんでぇ、
  何とかなんねぇか」

 池部良と小池朝雄の同じ台詞が印象に残る映画。
 そんな泣き落しより義理が勝る、健さん主演の任侠映画。
 倉本聰 がヤクザ映画を書くと、こうなります。
 「足長おじさん~任侠編」(笑)

 親分を関西の組織に売ろうとした幹部、それを知った健さんが幹部を殺害。
 その幹部には3歳の娘がいて・・・。

 とにかく変わったヤクザ映画で、全編センチメンタリズムに溢れています。
 クロード・チアリ作曲の抒情的なギター曲、チャイコフスキーのピアノ協奏
曲第1番、シャガールの絵。
 どれもヤクザ映画とは異質なのですが、この映画では、それ程変でもない。
 それに健さん、この作品ではヤクザなのに「白いご飯」食べないんですよ。
 OPではトーストにジャム附けて美味そうに食べてるし、その後も中華、ステ
ーキとパンでナイフ&フォーク(健さん、食事用のナイフを持っても凶器にしか
見えん(笑))、クラッシック喫茶でチャイコフスキーを聞きながらコーヒー。
 ヤクザ映画ファンからはパフェかソフトクリームみたいな任侠映画とイマイ
チの評判も有ったけど、映画雑誌の年間ベスト10にも入った作品で僕は好
きでした、と言うか、僕が見られる唯一と言ってもいい任侠映画。
 (最近は江波杏子の「女賭博師」も見たりしますけど)

 観たのは公開の年だから、もう36年経ったんですね。(汗)
 30年以上経って、細かい事は殆ど忘れていましたが、幾つか強い印象を
残してたものが有りました。
 ・冒頭に書き出した台詞
 ・話より役者の印象が強い
  具体的に言うと、
  1に小池朝雄、2に親分役の藤田進、3に当時まだ売れてなかった小林
稔侍(初見の時、まだ余り知らなかったせいか印象的だった、今観るとまだ
まだ青い感じ~台詞は一言も無い)。
 主役は勿論健さんで、健さん中心に話が進んでいくのですが、何故か、こ
の作品では主役より脇の人達の印象が強くて、長い時間が経つと脇役しか
浮かんでこなくなっていました。
 以前、この作品のレビューを幾つか読んだ事があるのですが、僕とよく似
た印象を持ってる方が多かったです、特に冒頭に書き出した台詞は殆どの
方が言及してました。
 池部良も同じ台詞を言ってるのですが、池部さんの立派な雰囲気より小池
さんの小市民的な哀れさの方がより合っていて印象に残る、年月が経つと
池部さんが言ってた事さえ忘れていました。
 前から再見しようと思ってた作品、今回の企画が「藤田進」と聞いて即決
でした。

 この作品の藤田進は横浜を本拠にする関東方のヤクザの大親分。
 既に老境に達し、斬った張ったに飽き飽きして絵画の趣味に没頭、子分
達を困らせている。
 特にシャガールがお気に入り。
 横浜港の岸壁にキャンパスを置き油絵を描きながら、傍らの健さんに、
 「斬った張ったは、もう御免だよ。絵でも見てるのが一番いいや・・・。
  秀(健さん)、シャガールってのはいいぜ、特に油絵はよ、
  俺りゃ、あれだけは惚れてたんだ本気で(喧嘩のカタに取られた)、
  見たろう家に有ったのはシャガールよ。
  銭、カネじゃねえよ俺は、シャガールはいいんだァ」
 これ、ヤクザ映画?(笑)
 でも、この健さんに後生を託すシーン、藤田進、後期・晩年一番の名シー
ンだと僕は思っています。

 藤田進さん。
 この人を一言で言えば「剛毅」だと思います。
 繊細な感情表現を出来る人じゃないけど、太く真っ直ぐな感じ、顔と声、
雰囲気がいいんですよね。
 僕は好きです。
 前期は「ハワイ・マレー沖海戦」のような戦意高揚映画で、「ニッコリ笑
ってパッと散る」を得意とした軍国俳優。
「ハワイ~」は、本物の軍艦や戦闘機・爆撃機が見られる興奮、円谷さん
の特撮等見る所は有るのですが、戦後生まれの僕には生理的な拒絶感が
有って好きではない。
 「姿三四郎」を代表作とする黒澤前期の大黒柱。(「姿三四郎」は訳有って、
まだ見ていません)
 中期の代表作は、やはり黒澤の「隠し砦の三悪人」の田所兵衛。
 最初、先代・中村吉衛門が演る予定だったのですが、僕は藤田進さんで正
解だったと思っています。
 この作品最大のカタルシスは兵衛の「ニコッ」で、こういう邪気を全く感じさ
せない笑顔は藤田進さんならではの独断場でしょう。
 東宝の軍人役も「お手のもの」、三船さん不在バージョンでは、司令官・藤
田進、現場指揮官・田崎潤、先陣・佐藤允が東宝軍最強編成だったと思い
ます。
 そして後期を代表するのが、本作。
 僕は、そう認識しています。

※この映画のお陰でチャイコフスキーの曲を聞くと(ピアノ協奏曲1番に限ら
 ず全て)、名前を見ると、瞬時にこの作品を思い出し、ついでにヤクザも連
 想してしまう。どうしてくれる!(笑)
※男が出来て家を出て行った母親の末路、残された通帳一つで表現したの
 は上手いと思いました。
  
(追記)
記事をUPした翌日に高倉健さんの突然の訃報。
心よりご冥福をお祈り致します。
記事には書きませんでしたが、この作品は倉本聡さんが健さんの為にアテ書きで創ったもの。
だから健さんの魅力が一杯詰まっています。
追悼作で迷ってらしたら、この作品も候補の一つになると思います。
 
コメント (7)
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