セピア色の映画手帳 改め キネマ歌日乗

映画の短い感想に歌を添えて  令和3年より

「愛の嵐」

2013-06-27 00:07:06 | 外国映画
 僕が勝手に名付けたナチス三部作「地獄に堕ちた勇者ども」、「愛の嵐」、
「キャバレー」の一編。
 男と女の、どうにもならない哀しい性(さが)を描いた名作。

 「愛の嵐」(「The Night Porter」1973年・伊)
   監督 リリアーナ・カヴァーニ
   脚本 リリアーナ・カヴァーニ
       イタロ・モスカーティ
   原作 リリアーナ・カヴァーニ  バルバラ・アルベルティ  アメディオ・パガーニ
   撮影 アルフィーオ・コンティーニ
   音楽 ダニエレ・パリス
   出演 ダーク・ボガード
       シャーロット・ランプリング
       フィリップ・ルロワ

 男(マックス)はユダヤ人収容所に配属されていた親衛隊(SS)の元将校、
女(ルチア)は、そこへ送り込まれたユダヤ人、偶々、マックスに気に入られ
オモチャとなって生き延びた過去を持っている。
 1957年のウィーン、運命の悪戯のように出会ってしまった二人。

 普通に考えれば、ルチアがマックスをユダヤ人組織に告発して男が逃亡
する、で終わりなのですが、この映画は別の道を辿っていきます。
 逢ってしまったその瞬間、二人の歪んだ情念に火が点いてしまうのです。
 その世界は、憎しみと愛と身体が混ざり合い、背徳、淫靡、倒錯にまみれ、
理性の及ばぬ場所。
 儚い束の間の出来事であり、破滅を約束された愛。
 徐々に纏わり付いていく死の予感、二人を焼き尽くすように燃え盛る冷た
く熱い炎。
 この哀れな情念の世界を描いていくL・カヴァーニ監督の手腕は冷酷なま
でに冴え、寸分の狂いもありません。
(只、DVDの画質が悪い為、暗いシーンが見難いのが非常に悔やまれます)

 テーマは、大島渚監督の「愛のコリーダ」、渡辺淳一の小説「失楽園」、「愛
の流刑地」にも共通するものがあるのですが、取り巻く状況がシビアな為、こ
の映画のほうが「男と女の愛の形」の輪郭がクッキリしてると思います。

 演技陣で特筆すべきは、何と言ってもS・ランプリング。
 クールビューティそのものの美貌から生まれる落差、それを見事なコントラ
ストとして際立たせ、運命に弄ばれた哀れな一人の女を演じきっています。
(落差に関しては「昼顔」のC・ドヌーブと似ていますが、暗い情念を感じさせる
ランプリングに軍配を上げたいと思います)
 D・ボガードも十八番とは言え、アンモラルな性癖を仮面の下に隠しつつ崖
っぷちを歩いてる男を好演。
 この作品は、ランプリング&ボガード二人だけの映画なので、他はどうでも
いいのですが(失礼!)、落剥した貴族夫人を演じたイザ・ミランダもケバイ化
粧と相まって印象に残りました。

 自傷感溢れるラスト・シーンも秀逸で、‘70年代を代表する愛の物語の一つ
だと思います。
 正真正銘の「堕ちてゆく愛」

※DVDパッケージに書いてある「ノーカット版」
 多分、公開当時カットされてたのは「男色シーン」だと思うので、変な期待は
 しないように。(笑)
コメント (4)
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