セピア色の映画手帳 改め キネマ歌日乗

映画の短い感想に歌を添えて  令和3年より

「まぼろしの市街戦」&広川太一郎

2010-11-05 21:20:22 | 外国映画
 広川太一郎>思えば罪な人でもあります。
 「お熱いのがお好き」(B・ワイルダー 1959年)
 「グレート・レース」(B・エドワーズ 1965年)
 「まぼろしの市街戦」
 「大陸横断超特急」 (A・ヒラー 1976年)
 他にも色々あるんだろけど、取敢えず記憶に残ってるのだけ挙げてみました。
 上記の作品に共通してる事が一つあります、TVの洋画劇場で見た後に映画
館で観た映画。
 そして、いずれも映画館で観た時に「あれ?何かもっと面白かったような・・・」
と感じた映画です。
 その原因は広川太一郎さん。
 僕達の世代だと、一番有名なのがトニー・カーティスの吹き替えだと思うんだけ
ど、「お熱いのがお好き」なんて、もう広川&愛川欣也版が決定版ですよね。(笑)
 その広川太一郎さん、ちょっと気が付いたのですが(思い込み?)、小原乃梨
子さんとのコンビがやたらと多い、「お熱いのがお好き」こそM・モンローは向井
真理子さんと決まってたから未成立だけど、「グレート・レース」のN・ウッド、「大
陸横断超特急」(※)のJ・クレイバーグもそうだし、先日、TVでやってた「サンタモ
ニカの週末」でも相手役のC・カルディナーレは小原さんだった。
 今回、記事にする「まぼろしの市街戦」では脇役同士なんだけど主役二人を支
える重要な役どころで共演してる、思うに広川さんのヤンチャ気味の甘い突っ込
み声には、小原さんの包み込むような母性的な甘い声がピッタリなんでしょうね。

 「まぼろしの市街戦」(1966年 仏)フィリップ・ド・ブロカ監督 アラン・ベイツ、
  ジュヌヴィエーヴ・ビジョルド、ジャン・クロード・ブリアリ 音楽 ジョルジュ・ドル
  リュー
 これ、原題は「ハートのキング」、トランプの王様の意味です。
 病院へ逃げ込んだ主役のプランピック通信兵が、追手に「お前は誰だ?」と問
われた時、手にしてたトランプを見て咄嗟に言った言葉がタイトル名になりました。
 そう名乗った事で起きる珍騒動を描いたのが、この映画。
 何故、それが珍騒動に?
 その病院が〇チガイ病院だったから。(笑)
 で、周りの〇チガイ患者達にヨッテタカッテ王様に仕立て上げられちゃう(この映
画では精神病患者とは言いたくない、〇チガイの方が可笑しい)。
 これがハリウッドだと思い込んじゃうんだろうけど、フランス映画だから仕立て上
げちゃうんです、その辺りが如何にもフランス。(笑)
 イギリスのユーモア、アメリカのジョーク、日本の川柳(いずれも下から上を笑い
飛ばす)と違う、フランス流エスプリ(上から目線で上も下も笑い飛ばす)に満ちた
ファンタジー、そして、そこに込められた強烈なアイロニーが特徴的な映画です。
 ゲラゲラ笑う映画とは少し違いますが、でも面白くて可笑しい。
 今回見直してみて、その面白さの重要なポイントがコメディ・リリーフ役の公爵に
あるのが良く解りました。
 公爵役のジャン・クロード・ブリアリは勿論フランスの名優ですが、日本人の僕に
は仏語の微妙なニュアンスも可笑しさも解らない、だから、映画館でフランス版観
た時に完全に乗り切れなかったんだと思います。
 その重要な役が吹き替え版では広川太一郎、もう、これは鬼に金棒!そして、コ
メディエンヌ的役どころの娼館のマダムが小原乃梨子。
 もし、この作品をDVDで観る機会が有りましたら、最初は吹き替え版から見る事
をお奨めします。
 僕、普段はコチコチの原語版派なんですけどね。

 あ、そうそう、この映画ラスト・シーンがフランス版とアメリカ版で違います、僕は
断然アメリカ版を支持します!フランス版は書きすぎ。

 え、何の映画か解らない?
 え~と、そうですね〇チガイ達が誰も居なくなった街を占領し、思い思いに大コス
プレ大会をやる映画です。冒頭のほうで伍長時代のアドルフ・ヒトラーがチョイ役で
出て来ます(役~これはコスプレではありません)。

付録1 どうしても、どんな映画か知りたい人だけ
   http://www.youtube.com/watch?v=5B4Wtdjt7mw&NR=1
 
付録2 ビジョルド ファンへ
    http://www.youtube.com/watch?v=yDxtITsID0w&NR=1

※「大陸横断超特急」>原版も大変面白い映画なんですが、途中ちょっと冗長な感
じがします、これ、民放の洋画劇場で放映した時、上手に短縮カットしたのでTV版
のほうがダレなくてピリッとしてる、そこに広川さんのハイ・テンションが加わります。
DVD版の吹き替えは完全版に声を乗っけてるから、しょっちゅう日本語から英語に
変わり集中できません、もう、あれは幻になっちゃたんですね。
 僕、民放の映画はカットするから嫌いなんですけど。(笑)

                                       H.22.11.5
コメント (5)
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「天国と地獄」(ネタバレ)

2010-11-05 15:29:33 | 邦画
 黒澤映画を書くのは苦手なんです、一寸のめり込み過ぎてる所もあるし、
手が付けられない気がして。

  「天国と地獄」1963年 出演 三船敏郎、仲代達也、山崎努
 エド・マクべインの「87分署」シリーズから「キングの身代金」を原作にし
て舞台をニューヨークから横浜に置き換えた作品、ただ、原作を大きく改
変しています。
 黒澤の現代物で超1級のサスペンス映画、1949年に作った刑事物の
原型「野良犬」の発展型。
 新人だった山崎努の出世作で三船&仲代の最終作。
 丘の上に豪奢な邸宅を構える大手製靴会社の重役・権藤(三船)、その
子供を誘拐して身代金奪取を企てる犯人・竹内(山崎)、しかし誘拐した子
供は権藤の子供ではなく、お抱え運転手の子供だった、それでも権藤に身
代金を要求する犯人、誘拐犯を追う刑事チームのリーダー戸倉警部(仲代)。
 前半1時間は殆ど権藤邸の室内が舞台で、緊迫した状況をギリギリまで
高めていきます、そして身代金の受け渡し、当時、日本で最速だった電車
特急「こだま」)を捉えたアングルと轟音で映画は静から動へと一変します、
そして後半は一つ一つ手がかりを摑んで犯人を追い詰めていく刑事達が主
役になります。

 この映画を観た人達の多くが疑問を感じるみたいです。
 犯人は貧しいインターンで、冬は寒く夏は耐えられない暑さの木造アパー
トの小さな部屋に住んでいる、毎日、毎日、その部屋から眺める丘の上の
豪邸が妬ましくてしょうがない、それが恨みとなり犯罪に走る。
 でも、犯人はインターン、今は貧しくても将来は「お医者様、先生」になる
身分じゃないか(当時のインターン制度は、確かに薄給)、そこまで妬むの
はオカシイんじゃないかって。
 以下、誰かが昔、雑誌に書いてた事の受け売りなんですが(これ、探し捲
ったんですが、何処に載ってた記事か今では不明)、それが解答だと思うの
で書いてみます。
 黒澤映画の作り方の多くは、困難を乗り越え人間としてマトモな道を進ん
だ人間と困難に負けて道を誤った人間が出会い対立する、この二人は昔、
同じような境遇、立ち位置にいて、分身同士がぶつかり合う、という形式を
とります。
 黒澤は言います「人生って、どこかに危険な別れ道があるんだよね、そ
こで、どちらに進むかでその人の価値が決まると思うんだよ」
 デビュー作の姿三四郎と桧垣源之助、「野良犬」の新米刑事と犯人・遊佐、
七人の侍と野武士、「椿三十朗」の三十朗と室戸半兵衛、或いは直接対決
しないけど対比して描かれる「酔いどれ天使」のヤクザ松永と女子高生、
「赤ひげ」の医学生二人等々。
 具体的に言えば「野良犬」の新米刑事・村上(三船)と犯人・遊佐は、どち
らも復員直後に全財産を盗まれます、村上は、どうにもならないドス黒い気
分に包まれますが「ここが、危ない別れ道だ」と刑事の道を選びます、対し
て遊佐は、その気持ちに負けて強盗・殺人犯になってしまいます。
 「椿三十朗」では最後に三船が死んでる仲代を見て若侍達に言います、
「こいつは俺とそっくりだ、どちらも鞘に入ってない抜き身だ~」
 さて、「天国と地獄」ですが。(笑)
 本作では権藤=竹内は明快に解るんですよね、同じ不幸な境遇から這い
上がった人間と挫折し負けた人間、最後に権藤と竹内がガラス越しに対面
するのですが、喋ってる竹内の姿とガラスに映る権藤の姿が映像の中で重
なっていきます。
 でも竹内=戸倉でも有るんです。どうも、ここが気付きにくい。
 悪を代表してる竹内と善を代表してる戸倉警部も根っこで共通点が有る
んです。
 戸倉警部、東大法学部あたりを出て、頭が切れ年上の刑事たちを自在に
使い捲る若い刑事課長、つまり、犯人・竹内と刑事・戸倉はエリートという共
通項で結ばれているんです。
 そのエリートが持つ鼻持ちならない独善性に於いて、二人は権藤、竹内と
同じ程、そっくりなんです。
 竹内はエリートなのに今の自分の境遇に負け、「金持ちから金を奪って、
何が悪い」とドストエフスキーの「罪と罰」で質屋を殺すラスコリーニコフと同
じ独善に陥る。
 一方、戸倉は刑事であるにもかかわらず、犯人が解った後も、「誘拐だけ
じゃ死刑にできん、奴は間接的にせよ二人殺してるんだ」と新たな殺人を起
こすまで犯人を泳がし続ける、そこにあるのは正義に名を借りた恐ろしい
エリートの独善なんです。
 権藤=竹内=戸倉≠権藤
 この構図でドラマを展開させる為に竹内の職業はプータローではなくイン
ターンである必要があったんです。
 と、評論家が昔、書いてました。(自爆)
 エリートを犯罪者とした事で本作の竹内は邦画史上、初の本格的知能犯
として記憶されました、電話から響く怜悧で嘲笑うような竹内(山崎努)の声
は逸品です。

※「野良犬」1949年の黒澤作品。
 戦後間もない東京を活写した作品としても有名。
 日本初の本格的刑事物、現在の刑事ドラマの原点にして傑作に数えられ
る作品。
 出番は少ないけど、ピストル密売の手先を演じた千石規子の蓮っ葉ぶり
が秀逸。
 その千石をベテラン刑事・佐藤(志村喬)が取り調べるシーンと、その佐
藤が撃たれる前後のシーンが大好き。

                           H.22.10.28
コメント (4)
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