有楽町のガード下、「車屋」という酒場のカウンターで立って飲んでいると、急に不思議な気分に襲われた。
銀座方面を見やりながら、歩道に点々とする「車屋」のテーブル席が、バンコクの街角にある屋台を彷彿としたのだ。
すぐそこに銀座数寄屋橋があるというのに、このガード下は人通りが皆無で真夏の熱風に吹かれながら生ビール(スーパードライ=400円)を飲んでいると、わたしは急にバンコクへ瞬間移動してしまったのではないかと錯覚してしまった。
だが、通りを走るクルマはピックアップトラックなど走っているわけでもなく、時折頭上から電車が走り抜ける轟音が聞こえるなど、決してバンコクの街角と瓜二つではないのだが、歩道に置かれたチープなテーブルに数組のサラリーマンが背を丸めて飲み食いする様を見て、ついバンコクの街を思い出してしまったのだ。
「京に田舎あり、と言うけれど、こうやって勝手に見立ててみれば、東京のような複雑怪奇なる都市には、世界中の風景がリトル・ベニスふうに隠れている」と言ったのはリンボウ先生こと林望氏だ(「私の好きな日本」JAF MATE社より)。
リンボー先生はロンドンの西の外れ、メイダ・ヴェイルというところの近所に「リトル・ベニス」というロンドンっ子がベニスに見立てた地があることを引き合いにして、自身の新宿アムステルダム説を肯定しているのである。
リンボウ先生の新宿アムステルダムとは、青梅街道が淀橋を渡る地点の南側にかつて「存在した」という。
だが、リンボウ先生はこうも言う。
「私が眼前に眺めている風景は、普通にはどこから見ても『新宿淀橋』であって、たぶんアムステルダムと思う人は限りなくゼロに近いと思うのだが、しかし、新宿という大都会のすぐそばに、ひっそりと隠れている運河と白い橋という組み合せのなかに、私はそこはかとなくアムステルダムを思ったのである」。
わたしの場合も全く同じであった。
恐らく、同じ風景を見ていても、その有楽町のガード下をバンコクになぞられる人物はほとんどいないかもしれない。だが、わたしにはそう見えたのであり、そうした心の旅は楽しかったあの旅の思い出として心地よくオーバーラップされるのである。
さて、そうした寂寥感溢れる有楽町の場末でわたしはひとり、立ちながら生ビールを飲んでいる。
先述したように、この路地には椅子とテーブルが置かれ、店内の2階にも客席が用意されているようなので、立ち飲み屋なんかではない。だが、1階の厨房の目の前にはちょっとしたカウンターがあり、そこは立ち飲みカウンターに見えなくもない。わたしは、堺屋太一氏に似た店の主人に、立って飲んでもいいかと了解を取り、勝手に立ち飲みしているのだ。
堺屋氏の調理の腕は鮮やかだった。
わたしが飲むポジションの目の前がすぐに調理場だったせいか、わたしは彼の手つきに見とれた。僅か3坪くらいだろうか。その調理場で繰り広げられる早業は実に見事なものだった。
わたしが頼んだ「レバーにんにく炒め」はみるみるうちに出来上がっていく。
そして、その味もまた確かだった。
生ビールを飲み干し、わたしは酎ハイを頼んだ。
これが僅か260円。
レモンスライスを浮かべた酎ハイはすっきりした飲み口で「レバーにんにく炒め」で脂っこくなった口の中を爽やかにしてくれる。
しかし、信じられない値段だ。
生ビールが400円で、酎ハイが260円である。
数百メートル西に行けば帝国ホテルにペニンシュラホテル東京があり、東に行けば銀座の街だ。
その狭間にあるこの地でこんなに安くてうまい酒が飲めるとはまさに驚きである。
そうこうしていると20代前半と思しき一団が店に入ってきた。それも4~5人という大人数で。ラフな服装から彼らは学生に見える。彼らは2階に通されると、何も臆することなく、店の乱雑な階段を上がっていった。
その学生達の立ち居振る舞いにも驚いたが、もっと面を食らったのが、一階の大部分が厨房になっているこの店で、二階に客室が用意されている点である。
僅か3坪ほどしかないお店の二階はどのようになっているのか?想像もつかないのである。
機会があれば、是非2階にも足を運んでみたいと思う。
ともあれ、夜風に吹かれながらバンコクを思わせる地で酒を飲むのは悪くない。銀座広しといえども屋台のように、野天で酒を飲めるのは、ここしかないのではないだろうか?
そう言えば、銀座はタイ料理の名店が多い街である。有楽町バンコクというのもあながち的外れではないのかもしれない。
銀座方面を見やりながら、歩道に点々とする「車屋」のテーブル席が、バンコクの街角にある屋台を彷彿としたのだ。
すぐそこに銀座数寄屋橋があるというのに、このガード下は人通りが皆無で真夏の熱風に吹かれながら生ビール(スーパードライ=400円)を飲んでいると、わたしは急にバンコクへ瞬間移動してしまったのではないかと錯覚してしまった。
だが、通りを走るクルマはピックアップトラックなど走っているわけでもなく、時折頭上から電車が走り抜ける轟音が聞こえるなど、決してバンコクの街角と瓜二つではないのだが、歩道に置かれたチープなテーブルに数組のサラリーマンが背を丸めて飲み食いする様を見て、ついバンコクの街を思い出してしまったのだ。
「京に田舎あり、と言うけれど、こうやって勝手に見立ててみれば、東京のような複雑怪奇なる都市には、世界中の風景がリトル・ベニスふうに隠れている」と言ったのはリンボウ先生こと林望氏だ(「私の好きな日本」JAF MATE社より)。
リンボー先生はロンドンの西の外れ、メイダ・ヴェイルというところの近所に「リトル・ベニス」というロンドンっ子がベニスに見立てた地があることを引き合いにして、自身の新宿アムステルダム説を肯定しているのである。
リンボウ先生の新宿アムステルダムとは、青梅街道が淀橋を渡る地点の南側にかつて「存在した」という。
だが、リンボウ先生はこうも言う。
「私が眼前に眺めている風景は、普通にはどこから見ても『新宿淀橋』であって、たぶんアムステルダムと思う人は限りなくゼロに近いと思うのだが、しかし、新宿という大都会のすぐそばに、ひっそりと隠れている運河と白い橋という組み合せのなかに、私はそこはかとなくアムステルダムを思ったのである」。
わたしの場合も全く同じであった。
恐らく、同じ風景を見ていても、その有楽町のガード下をバンコクになぞられる人物はほとんどいないかもしれない。だが、わたしにはそう見えたのであり、そうした心の旅は楽しかったあの旅の思い出として心地よくオーバーラップされるのである。
さて、そうした寂寥感溢れる有楽町の場末でわたしはひとり、立ちながら生ビールを飲んでいる。
先述したように、この路地には椅子とテーブルが置かれ、店内の2階にも客席が用意されているようなので、立ち飲み屋なんかではない。だが、1階の厨房の目の前にはちょっとしたカウンターがあり、そこは立ち飲みカウンターに見えなくもない。わたしは、堺屋太一氏に似た店の主人に、立って飲んでもいいかと了解を取り、勝手に立ち飲みしているのだ。
堺屋氏の調理の腕は鮮やかだった。
わたしが飲むポジションの目の前がすぐに調理場だったせいか、わたしは彼の手つきに見とれた。僅か3坪くらいだろうか。その調理場で繰り広げられる早業は実に見事なものだった。
わたしが頼んだ「レバーにんにく炒め」はみるみるうちに出来上がっていく。
そして、その味もまた確かだった。
生ビールを飲み干し、わたしは酎ハイを頼んだ。
これが僅か260円。
レモンスライスを浮かべた酎ハイはすっきりした飲み口で「レバーにんにく炒め」で脂っこくなった口の中を爽やかにしてくれる。
しかし、信じられない値段だ。
生ビールが400円で、酎ハイが260円である。
数百メートル西に行けば帝国ホテルにペニンシュラホテル東京があり、東に行けば銀座の街だ。
その狭間にあるこの地でこんなに安くてうまい酒が飲めるとはまさに驚きである。
そうこうしていると20代前半と思しき一団が店に入ってきた。それも4~5人という大人数で。ラフな服装から彼らは学生に見える。彼らは2階に通されると、何も臆することなく、店の乱雑な階段を上がっていった。
その学生達の立ち居振る舞いにも驚いたが、もっと面を食らったのが、一階の大部分が厨房になっているこの店で、二階に客室が用意されている点である。
僅か3坪ほどしかないお店の二階はどのようになっているのか?想像もつかないのである。
機会があれば、是非2階にも足を運んでみたいと思う。
ともあれ、夜風に吹かれながらバンコクを思わせる地で酒を飲むのは悪くない。銀座広しといえども屋台のように、野天で酒を飲めるのは、ここしかないのではないだろうか?
そう言えば、銀座はタイ料理の名店が多い街である。有楽町バンコクというのもあながち的外れではないのかもしれない。
ありがとうございます。
電車の迫力は相当なものでしょうね。
建物の壁、ベニヤっぽい感じですもんね。
タイ在住のご友人はどんな感想を話されるか、非常に興味深いです。
「Tom-Dのブログ」に掲載されるでしょうか。
楽しみにしております。
ちなみにわたしの本名のイニシャル(Given nameですけど)もDです。
これも偶然ですね。