すっかり、「光栄軒」のファンになり、この日も来てしまった。うまい町中華は、うまい居酒屋のワクワク感とは別の楽しみがある。
まず、マスターが魅力的。
時々、「は~い」という声をマスターが出すが、優しさに満ちている。ひっきりなしにお客がきて、注文はひっきりなし。マスターの手が休まることはない。手が疲れないのか、腱鞘炎にならないか。いや、そもそもずっと立ちっぱなしだから、味が棒のようにならないか。とにかく、マスターの体力、モチベーションには恐れ入る。
いろんな客がいるだろうし、何か言いたくなる客も来るだろう。それでも、お客への眼差しは常に優しい。多分、これが人気店の理由なのだと思う。
「紹興酒」(400円)を常温で。
酒しか頼まなかったのは、ちょっと胸が傷んだ。お通しを文字通り、あてにしたからだ。
すると、これがきた。
完全に一人前のとんかつ。撮影ミスで、アングルが悪く、肝心のとんかつが見えないが、ものすごいボリュームだった。これをやりながら、「紹興酒」を一本、速攻で空けて、2本目に入ると、左隣のおじさんの元に、「はい、『きゅうり』」と届けられたのが、一品ものがあった。
「一体、これはなんだろうか」。
赤いつゆにきゅうりが浮かんでいる。急いで、メニューを眺め、それらしい料理を探す。
う~ん、どれだろうか。お店には、裏メニューが多いと聞くが、果たしてこれもそうなのか。その中で、きゅうりがつくメニューが一つだけあった。
「きゅうりの辛子炒め」。
もしや、これじゃないか。そう思って、オーダーすると、まさしくそれは隣のおじさんが頼んだのと同じものだった。
赤いつゆと一緒にきゅうりをフライパンで炒めた料理。まず、きゅうりを温野菜として、いただくというのが、なかなか珍しい。その赤いつゆを一口スプーンですくっていただく。辛いけど甘い。いわゆる甘辛。赤は唐辛子なのだろう。だが、ただ辛いだけじゃない。甜麺醤や酒醸などで甘さも引き出している。
この味、昔よく食べた。そう、北区十条のソウルフード、「からし焼き」に似ている。そういえば、辛子というキーワードに共通点がある。つゆの色が、「光栄軒」の方が赤いが恐らく、そのコンセプトは同じかも。労働者のためのスタミナフード。
そういえば、ひざげりさんが言っていた。
「南千住に近いから、ここは焼酎が濃いめ」。
十条、東十条、赤羽は、南千住ほどではないにせよ、旧国鉄や貨物の取り扱いで夜勤交代の労働者のために大衆酒場やスタミナフードが発達したという。
「からし焼き」や「辛子炒め」は、そうした名残ではないかと。
その「きゅうりの辛子炒め」は、抜群にうまかった。一見、ミスマッチかと思える、きゅうりの炒めものが、実に爽やかである。
思わず、ぐびぐびと「紹興酒」を飲んでしまい、ついつい、「緑茶ハイ」(400円)に移行してしまった。
すると、ママが来て、「違ってたらごめんなさい。こないだ、ひざげりさんと来た方?」
あぁ、覚えてくれていたのか。うれしいこと。多分、こうしたちょっとしたうれしいことが、また来たいと思わせるのだろう。
〆は「半チャーハン」。
「緑茶ハイ」をもう一杯いただき、仕上げ終了。
またもや、お腹いっぱい、満足度いっぱいで家路についた。
美味くて安いに越したことはないけど、ホスピタリティだけでも通うけど、美味いだけ、安いだけだと迷います。
某店の株は自分の中では下がり続けています。
「光栄軒」のマスターの、ご対応は本当に素晴らしく、頭が下がります。いっぺんに大ファンになりました。