翌朝、11時に差し掛かる直前にゲストハウスの大きな門扉をくぐると、紫のスカーフを首にまいたリキシャーワーラーは、既にサイクルリキシャーに乗って、わたしの到着を待っている風だった。
「モーニング」。
と、わたしが声をかけると、彼はかぶりを振って、後部座席に乗れという合図をした。
座席に乗り込むとシートがかなり熱い。座席には、日除けなどなく、日差しが直接降り注ぐ。今日も暑くなりそうだ。
4月の中旬。インド北部は暑気である。5月を迎えるにあたり、インドはこれからどんどん暑くなっていく。
「さて、行こうか」。
紫スカーフのリキシャーワーラーは、威勢よく、わたしに言った。
サイクルリキシャーに乗ったのは、初めてのことだった。ヴェトナムでシクロに乗ったし、マレーシアで、トライショーには乗ったが、インドのリキシャーは別物である。
走りだしに、力が必要であり、リキシャーワーラーは、ペダルに全体重をかけ、やがてゆっくりとリキシャーが走り出すと、少しずつスピードに乗っていった。
「腹減ってないか」。
リキシャーワーラーは、前を向きながら、わたしに聞いた。
「いや、減ってない」。
わたしが、答えると、彼は何も言わず、運転を続けた。
しばらくすると、彼はまた同じことを聞いた。
「腹減ってないか」。
「いや、減ってない」。
すると、今度は、「俺は腹ペコだ」といい始めた。
おいおい。腹ごしらえくらい事前にしてくれよ。
「食堂に行くけど、お前も食うか?」
わたしは、この朝も、例の食堂で、13ルピーのターリーをたらふく食べていた。2枚もチャパティをおかわりしたくらいだ。
しかし、そろそろ昼時だ。今、食べておかなければ、次にいつ食べられるか分からない。
「食べるよ」。
わたしが、そう答えると、リキシャーワーラーは急にご機嫌になり、心なしかペダルも軽やかになった。
着いた食堂は、おんぼろの店だった。
だが、店はかなり繁盛していた。
ぎゅうぎゅうになったテーブルを彼は強引につめさせ、なんとか2人座れるスペースを確保してくれた。そして、彼は大声を出し、ヒンドゥー語で何かを言った。すると、すぐさま我々の目の前に、銀のお盆に載せられた、ターリーが置かれた。
チャパティが3枚。サブジにダル、ダヒィにアチャール。それはそれは立派なターリーだった。
彼はテーブルに置かれたポットから水を出し、指を洗うと、すぐさまチャパティを掴んではちぎり、サブジに浸して食べ始めた。その手つきが、実に見事だった。
わたしも、彼に倣い、ポットの水で手を洗って、チャパティをとった。そして、覚束ない手つきで食べた。
ターリーは、見事な味だった。毎朝食べに行く、食堂に比べると、味付けが違う。
「うまいだろ。ここは人気店だ」。
そうするうちに、彼は3枚ものチャパティを追加した。わたしは、最初の3枚で、お腹がいっぱいになった。
客はひっきりなしに入れ替わり、肩をぶつけ合いながら、食べている。わたしの横に巨大なおやじが座り、わたしは弾かれてしまった。
まだ少し、ターリーのおかずが残っていたが、「もういいかな」と思い、我々は立ち上がった。
すると、紫スカーフのリキシャーワーラーは、「俺の分も払っててくれないか」と言った。
「冗談じゃねぇよ」。
わたしが、返すと、「後で返すよ」という。
目の前で、店のおやじが支払いを待っているのを見て、わたしはしぶしぶ払った。
30ルピーを出すと、釣りは18ルピーもかえってきた。一皿、僅か6ルピーだったのである。毎朝、食べているターリーの半値である。
「さて、行くか」。
リキシャーワーラーは、そう言って、再びペダルをこぎ始めた。
さぁ次こそ、いよいよピンクシティだろう。
そう思っていると、リキシャーが停車したのは、小さなテーラーの店だった。
VSリキシャーワーラー。
これで、インドの好き嫌いが別れるんじゃないしら。
さて、この後、どこまでかまされるか。
師の期待を裏切りたくないな。
今後の展開が楽しみだなあ・・・。(笑)
ターリー6ルピー。今ならチップ代わりと思うこともできる金額だな。でも、金額より、確信犯的にたかってきてる感じなのが払いたくない理由だからねぇ。