居酒屋さすらい 0592 - 酒肴で勝負。「八」を超えられるか？ - 「肴家 鼓火 KOBI」（千代田区外神田）

社長が「飲みに行こう」と言ったので、また「村役場」かと思い、うんざりしていると、「今日はあそこに行こう」という。事情を知っているらしいT根は「あそこですね」などと返答した。「どこなの？」とわたしが聞くと、その店の道順を説明してくれるが、どうも要領を得ない。だが、なんとなくその近辺のイメージは掴んだ。
あの辺なら、「がむしゃら」か、それとも焼き鳥の「大吉」か。でも、T根が店の名前を忘れるなんて珍しい。などと思って店を目指すとやはりその界隈に出た。だが、その目指した店は意外だった。
そこは、かつて「末広町 八」があった場所だった。
店が変わっている。あの一枚板で豪快に記された看板はすでになく、冷たい印象のフォントで「鼓火」という店名が掲げられている。
わたしは、一瞬、言葉をなくした。
「末広町 八」は2008年の居酒屋アワードである。この店の存在は、この界隈では群を抜いており、酒肴、酒、サービス、ともに素晴らしい店であった。ランチにも行列ができるほどであり、それはそれは順風満帆な経営であったと推測できた。
だが、ちょっと見ないうちに、店が変わっていたなんて。

店に入ってみた。
薄暗い雰囲気は変わらないが、テーブルの配置が変わり、ガラスを採用したことで、外からも店内がよく見渡せるようになった。
やはり、どうしても「八」と比較してしまう。

何故、社長がこの店をチョイスしたか。
それは期間限定サービスである「ビール190円」に誘われたからであろう。
「鼓火」は本格居酒屋を目指す店であろうことはその外観からもよく伝わってくるが、いくらサービスとはいえ、ドリンクの価格をここまで安価に設定してしまうと、ブランドイメージを傷つけかねない。

ちなみにビールはモルツだった。
それも少し、がっかりした点である。

酒肴は悪くはなかった。
かぼちゃとサーモンのポテトサラダ（490円）
金目鯛とキノコのガーリックバター焼（690円）
ブリ大根煮（690円）
あさりの酒蒸し 和風ビアンコ（590円）

素材がしっかりしていて、それは全ておいしかった。

だが、と敢えて言いたい。
「八」はテーブルに酒肴を置く際、その料理の説明をしたものである。居酒屋さすらいは今回で592回目となるが、酒肴を説明してくれた店はほかにない。
医者にインフォームドコンセントがあるように、アカウンタビリティは今の居酒屋には不可欠であると考える。確かに安価なものが好まれている。だが、素材をないがしろにする居酒屋は消えてなくなってしまえばいい。
「鼓火」は恐らく、素材もしっかりしているのだろう。
だからこそ、惜しい。
ドリンクの値段ではなく、素材と料理で勝負してほしい。
近所なので、応援したい店だ。
そして、「末広町 八」がそうであったように、何回か行って、その店の良さを認識し、いずれ居酒屋アワードを獲得してほしい！