昼飯を食べ終わり、じゃあ本格的に飲むかと思うのだが、この豊島園近辺ではそれも見込めない。以前、練馬駅で途中下車して飲んだが、それだと電車賃がもったいなくて、乗り換え駅の池袋で飲もうと思った。
ハリーポッターのラッピングされた電車に乗って池袋に。
なんとなく「ふくろ」に行こうと思っていた。一カ月くらい前に「ふくろ」の前を通り過ぎて、なんとなく頭の隅にその思いがあったのだろう。
「ふくろ」は14年ぶりである。
あの頃はまだ若かった。ビビりながら、「ふくろ」で朝飲みした覚えがある。
14年ぶりの訪問は「居酒屋さすらひ」の最長ブランクを2年も更新した。これまでは「シンスケ」の12年。14年も行ってないというより、その間お店が続いていなければ行ける訳もなく、お店が存続していることに感謝しなければならない。
「ふくろ」に入店したのが14:30。平日の昼下がりでも、店は混んでいた。幾つか空いている椅子があったが、お店のお姉さんに促されるままに着席した。
そしてお姉さんの仕事が途切れるのを見計らい、「白ホッピー」をオーダーした。
お店のお姉さんは次々と繰り出されるオーダーをこなしながら、まずは自分の目の前にアイスペールを置いた。そしてまた少ししたら、「ホッピー」の外と焼酎の小瓶を置き、そしてまた時間を置いて、ジョッキを持ってきた。いっぺんに全てを揃えず、少しずつ支度を整える様子は何かの儀式のように見えた。恐らくオペレーション上、必然のことなのだろう。それは気品に満ちていて、何かイラッとするものではなかった。早速緑の小瓶を開けてジョッキに焼酎を注ぐ。そういや、ここでは焼酎は緑の小瓶だったなと懐かしい気分になった。
お客さんはいろんな人がいた。
常連さんらしきおっさん。初めて来たのか、ビビりながらオーダーするおっさん。親子なのか、パパ活なのか、若い女性と年配のおっさんのペア。様々な人が交錯する。
タイミングを見計らって、「もつ煮込み」をオーダーした。
お姉さんは「はい」とだけ答えた。
お姉さんの動きには一切無駄がなかった。動作はゆっくりだが、無駄がない分、仕事は早かった。最短距離で仕事をしている。その姿は本当に美しかった。この所作はどこで身につけたのか。「ふくろ」で働くうちに編み出したのか。それとも前職で身につけたことを「ふくろ」で応用したのか。もしそうだとしたら、前職は何だったのか。その動きはエレガントだった。気品があり、毅然としたものがあり、誇りすら感じられるものだった。それは感動的ですらあった。
途中、あまり慣れてない客が、お姉さんに料理のことで質問した。すると、お姉さんは表情を変えず、事務的に返答した。気楽に話しかけられないオーラがお姉さんからは出ている。そのタイミングを見計らって、「ウィンナー」を追加した。
そもそも、お姉さんは誰なのか。
お店のオーナー一族か。それとも一従業員のか。これだけ仕事が出来る人だから、その立場も気になる。
出てきた「ウィンナー」は赤くなかったが、しっかり4本おいしそうに並んでいた。「ウィンナー」があれば、自分はどうしてもついオーダーしてしまうんだ。
久しぶりに来た「ふくろ」は居心地が良かった。14年前は雰囲気にのまれ、リラックス出来なかったものだが。その居心地の良さを演出していたのが、お姉さんだった。ともするとだれてしまう空気にピリッとした厳しさを作っていたのが、お姉さんだった。朝から営っているお店にはその空気感は必要だ。赤羽の「まるます家」は中央にいらっしゃる、司令塔のお母さんがいるから、あの毅然とした空気が生まれている。
やはりいい酒場だった。これからは頻繁に来ようと思う。
お姉さんのこのエレガントな仕事ぶりに触れるだけでも、その価値は高い。
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