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居酒屋さすらい 1234 - 百年のぬか床 - 「花生食堂(はなしょうしょくどう)」(船橋市本町)

2017-10-15 19:52:47 | 居酒屋さすらい ◆地方版

ようやく、ようやく来ることができた。

いっぺいさんに教えてもらった「花生食堂」。

歴史を感じさせるたたずまいはものすごい存在感。それはもう異質なんてものではない。高齢のお母さんがきりもりしていて、早い時間に店じまいになるという。

あくまでも食堂。お酒も飲める。

いっぺいさんが言うお店だから間違いないはず。とにかく、すごい店だというのが伝わってくる。いつか必ずと思って頭の片隅に置いていたのだが、前述したように、早い時間に店じまいになるとのこと。会社を終えてからではもう間に合わない。そうやって、なかなか行けなかった。

 

そうした中、ようやく来訪する機会を得た。とある平日の正午。果たして店はやっているか。不安にかられながら店の前に着くと、果たして暖簾があがっていた。

けれど、店に入るのを躊躇した。もしかすると、常連さんでいっぱいとか。それも気難しい人ばっかりとか。お店のお母さんは怖い人なんじゃないかとか。余計な不安が頭をよぎる。

勇気を出して、戸を開けると店内は一人の女性客だけだった。

 

カウンターに、テーブル席が少し。店はそれほど広くもない。カウンターは少し斜めになっていて、変わった造りになっている。

カウンターに座ると、厨房の奥から、女性が顔を出した。女将というより、お母さんだ。思っていたよりも若い。柔和な顔が人柄を偲ばせる。

こんにちは、と会釈して、カウンターに座った。

 

時間が止まっているのではないか。つい、そんな錯覚に見舞われる。古い内装。けれど、極めて清潔である。瓶ビールをオーダーした。

小さなコップに注ぎ、くっとあける。うまい。

お通しには、ぬか漬け。

メニューは定食が中心だが、「冷奴」(200円)、「いか刺身」がある。いか刺は時価だ。

 

さて、何を頼もうかと思案していると、お母さんが、「ハムエッグ」でも作りましょうか、と言ってくれる。是非と、お言葉に甘えることにした。

 

先客の女性に話しかけた。

「よく来られるんですか」。

女性は、毎日この店の前を通って仕事場に行くからと答えた。たまに来るらしい。 

 

ハムエッグが出てきた。

昭和のたたずまいのハムエッグだった。素朴なハムエッグ。調理を終えたお母さんが話しに入ってくる。

お店はもう創業から80年になるという。戦前からの営業である。旦那さんがきりもりしていたが、亡くなられたとのこと。それからは一人でお店を守っていると、お母さんは笑顔で話す。旦那さんのお墓参りは今も欠かしていない。お店を守るのも大変ではないだろうに。

 

お母さんが、嫁いできてから半世紀以上経ったという。当時は旦那さんと一緒に食堂を営んでいた。高度経済成長の只中。船橋も埋め立てをして、激変を迎えているときである。

お母さん、今何歳なんだ?70歳くらいにしか見えない。

 

瓶ビールを空けて、「酎ハイ」に。

「酎ハイ」には、レモンスライス。

これが、またおいしかった。

つまみに「まぐろブツ」。

これもおいしい。

なにせ、お母さんの愛情入り。

 

「戦災を免れたんですか」と、ボクが尋ねると、「空襲のときは、大変だったみたい」。どうやら、ぬか漬けの樽を持ち出して避難されたとか。「だから、ぬか床はもう百年ものよ」という。

すごい。さっき、お通しで出てきた、ぬか漬けは、1世紀のもの。しかも、ずっとそれを守り続けてきた。

「樽もだいぶへたってきたし」。え?今も百年前の樽で漬けている!おみそれしやした。

女性客もただただ驚いている。

 

いい時間である。

こんな贅沢な時間、他の店では味わえない。

 

お母さん、また会いにいきます。

いつまでもお元気でいてください。

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5 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (ひざげり)
2017-10-16 07:11:34
ここは流石に入る勇気がなくて入ったこと有りません。
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Unknown (熊猫)
2017-10-16 18:00:33
わたしも入るのに、勇気がいりましたが、本文にも書いたように勇気は不要です。

できれば、もっと足しげく通いたいのですが、いかんせん船橋はなかなか行けません。
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すごいな (ふらいんぐふりーまん)
2017-10-16 22:40:43
100年物の糠床。継続がすこぶる苦手な俺にとっては、正に「継続は力なり。」を感じるエピソードだよ。

こういうお店は是非続いてほしいんだけど、鄙びた銭湯とかと一緒で、後継者がいなかったり、建物の修繕とかできなかったりで、難しいんだよねえ。

お母さんには是非、元気に永く頑張って欲しいもんだねえ。

とか書いてるけど、こういうお店に俺は中々入れないんだよなあ・・・。
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Unknown (ひざげり)
2017-10-17 08:48:57
行けるうちに行っておかないとってのもありますしね。

立ち仕事だから、皆さん足腰を傷めて止む無く引退されるんですよね。
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Unknown (熊猫)
2017-10-18 07:10:23
師よ。
古い店もいつかは閉店の時を迎える時がくるだろうね。店にばかり注目してしまうけど、目を向けるべきは、お母さんのライフスタイルだね。今時、ぬか床のある家がどれだけあるか。それを毎日、守ってきたこと。そして、店の暖簾も守ってきたことに、敬意を表したいよ。

ひざげりさん。
高度経済成長を経て、激変する船橋にあって、この店の存在はまさに奇跡です。
お母さんとは、かつて京成船橋駅前にあった、おでん種屋さんの話しで盛り上がりました。
「花生食堂」は、変わり続けていく街に咲く一輪の花のようです。
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