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居酒屋放浪記 0355 - 彼女らの生き方 - 「PINOY」(前橋市千代田町)

2010-07-16 22:42:02 | 居酒屋さすらい ◆地方版
N刊自のF崎さんは元群馬支局長で群馬県内は大変詳しい。
高崎では「居酒場 ゆう太」という店で一献を共にしたこともあった。11月の中旬、前橋で仕事を終えたボクらはキャバクラに行こういう話しになり、前橋の町へ繰り出した。

彼曰く前橋は相当廃れたのだという。
「ここに店があったのに」と何度も彼は呟き、溜息を吐いていた。
繁華街と思しき場所はほとんど客も通らず、黒服の兄ちゃんたちの方が多いくらいだった。それでも、何軒か店に入り交渉したが、彼は「ここはダメだな」と言ってはまた別の店に行くことを何度か繰り返した。

F崎さんが言うには「5000円ポッキリ」と言いながら女の子の飲むものは別会計というシステムがあり、それを知らずに入ると痛い目に遭うとのことだった。
自分のお金でキャバクラに行ったことのないボクはそんなことも知らず、ただそのやりとりを見ているだけだった。

1時間程度、前橋の町をうろうろしただろうか。
彼はふと思い出したように「そうだPINOYに行こう」と言い出した。
どうやら心当たりがあるらしい。

彼が言うにはフィリピン人パブであるという。
お店はそれほど華美ではなく、少しの電飾が店のドアに飾られている程度。表に黒服がいるわけでもなく、店構えのプレッシャーは少ない。ただ、クラブやパブによくある重厚なドアがあって、弱気な人はそのドアに阻まれてしまいそうだった。

F崎さんは慣れた感じで店に入り、ホール係の男に声をかけた。
そして、我々は席に案内されたのである。

女の子はF崎さんとボクにそれぞれ一人ついた。
女の子には日本名の源氏名があり、名乗って座った。
はじめの子は28歳という小柄な子だった。
ボクはあまりこういう店は慣れていないので、通り一遍のことしか話題にできなかった。
「日本語が上図だね」。
そこからはじまる会話は「日本に来て○年」。「今までは水戸にいた」というような話しである。
そうやって10分も話しをすると、女の子が入れ替わり、別の子が座る。
そして、また同じ会話が始まるのだ。

店にはステージがあってカラオケが延々とやまない。
3曲に1曲は「My Way」である。

4人目の子に入れ替わって話しをして、「オヤ」と思った。
ここにいる子は皆、年齢が高めであることに気が付いた。32歳の子が来たからだ。年齢を偽っているかは分からないが、その32歳の子は8歳の男の子がいるという。マニラでお爺ちゃんと暮らしているとも言った。
来月には帰国するので、久しぶりに会えることが楽しみと笑顔で答える。
彼女は大学を出ながら、マニラで職を探すことができなく、日本に来て、ここでお金を稼いで米国に渡りたいと夢を語る。

隣のF崎さんは何を話しているのだろうと一瞬顔をうかがうと、彼も神妙な顔をしている。
テーブルにはただビールが1本。
それをたまにクイっとあおりながら、ジャパゆきさんの身の上話を聞く。
ビールはちょっと苦い。
ボクらに金がないのは一目瞭然で、彼女らもサービスはしない。

1時間ちょうど。
ボクらは帰ることに。
3,500円ポッキリ。
それ以上でもなく、それ以下でもない。

彼女らにも不況の波は容赦なくきており、少しずつ影を落としている。
だが、彼女らは逞しかった。
また、いつかどこかで会えればいいなと思いながら、ボクとF崎さんは宿泊先に向かうのだった。
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