約2ヶ月ぶりの「立ち飲みラリー」。
前回、京浜東北線上中里エリアで苦戦を強いられたせいか、なかなかその先を踏み出す気持ちにならなかったのは、事実だ。
いよいよ、わたしは、上中里駅から王子駅へと向かったのである。
上中里駅の坂を上がり、本郷通りを一路北へ。
住宅地が密集する風景に、これまで通ってきた道のりの長さを痛感させられる。
目の前に現れてきたのは、道の真ん中にそびえるこんもりとした木々。
一里塚(写真)だ。
その昔、江戸時代に将軍が日光参拝を行うために植えられたという道標。この道を歩く目的は古今東西様々だろうが、まさか立ち飲み屋を探して歩く輩はきっとそれほど多くはない。
雨上がりの夕刻に樹木の緑は輝いているようにもみえる。
そうなのだ、今日は七夕なのだ。
だが、新暦のこの時期、毎度のことながら空は曇天なのである。しばらく歩くと右手向こうにこれまたこんもりと木々が見えてくる。これは、一里塚の緑の比ではない。
飛鳥山だ。
こうして歩いてみると、何故飛鳥山が山として認定されなかったのかがよく分かる。
飛鳥山は上野大地の一部なのだ。
確かに、JR王子駅からその姿を眺めると、大きな山のように感じるが、滝野川から見れば、そこは丘に過ぎない。
鬱蒼とした木々を見上げると、深く垂れ込めた分厚い雲。
ミルキーウェイはやはり見えない。
澁澤榮一記念館を通りすぎる。口をついて出たのは、RCサクセション「雨上がりの夜空に」。そこで、わたしは道を外れ、例によって銭湯に立ち寄り、体を清めて立ち飲み屋へ向かうことにした。
そうそう、「風呂上がりの夜空に」(小林じん子作=講談社)という漫画もその昔にあったっけ。
しかし、立ち飲み屋の行き先が決まっているのは、実に心強い。
今晩は、王子駅脇の老舗「平澤かまぼこ」。
王子駅を利用する者なら知らない人はいないだろう。銭湯「ゑびす湯」を出て、飛鳥山の際を歩く。
都電が車道の軌道を走る数少ないエリア。
飛鳥山を下れば、JR王子駅。
その高架をくぐらず、手前を左に折れれば、店はもうすぐそこだ。
相変わらず今晩も、店は多くの客で賑わっている。その客をかき分け、わたしは店の奥に進み、居場所を確保した。
まずは、生ビール(400円)。銘柄はキリンとサッポロとあるのが心強い。
わたしは、迷わずキリン!断固としてキリンだ。
この店はその名の通り「おでん」の店。
練り物中心に40種類以上のおでん種がある。
ネタは40円から200円まで。主流は「こんにゃく」「ちくわぶ」「しょうが揚げ」「がんも」、そして「半ぺん」「大根」「白滝」「玉子」でこれらが、80円から食べられるのが、この店の全てを物語る。
この種を全て食べても1,000円しない。これは、東京にあって、とても貴重なことだ。例えば、セブンイレブンに行って同じものを頼んでみたらいい。たちまち、1,000円を超えるだろう。
わたしは、「半ぺん」に「大根」「こぶ」に「白滝」、そして「玉子」を頼んだ。
支払いは、キャッシュ・オン・デリバリー。
働く人もちゃきちゃきっとてきぱきしていて、実に気持ちがいい。
おでんのスープはやや薄味か。色はそれほど黒くはない。試しにスープをすすってみると、これがじつにうまい。
「半ぺん」は純白が眩しく、ほどよく膨らみ、スープに浮いている。
店の柱に、こんな一文を見つけた。
「サメに対して10%の大和芋と卵白を混ぜ、薪火で茹でる。お湯に浮くはんぺんだから、特に『浮きはんぺん』とも言われる。今では、東京、千葉のみで作られている練りものだ」。
なるほど、どうやら希少性の高い物らしい。
その「半ぺん」が実にうまい。
しゃくしゃくと歯ごたえが軽快で、練りもの特有の魚の匂いが香ばしい。
店内、わたしの背後には3人の酔客。
ドリカム編成の彼らは、よくこの店に立ち寄るようで、昔のアニメの話で盛り上がっている。年齢も近ければ、住んでいる場所もどうやら近いことが聞こえてくる会話から推測できた。
生ビールを飲み終えて、次にわたしは酎ハイ(300円)にスイッチした。
ビアグラスになみなみと注がれたそれ。
だが、これがイケてなかった。炭酸の気が抜けているのだ。
わたしは、酎ハイを頼んだことを悔いた。やはり、「おでん」に合うのは日本酒じゃないか、と。
この店には北区の地酒「丸眞正宗」が置いてある。23区内で唯一残る造り酒屋「小山酒造」だ。
「さつま揚げ」「じゃがいも」(各100円)などを改めて頼みながら酎ハイをすすっていると、先ほどまで賑わっていた店内が一息ついてきた。すると、白衣を着た小柄な男性がおもむろに近づいてきて、わたしに話しかける。
この方が、2代目店主だ。
まだ若い店主は、昨今の原油高で魚の価格が上昇し、練り物製造も厳しさを増していること。築地市場の移転は絶対に行われない裏情報などをわたしに教えてくれた。
いずれも、魚を扱う業界としては、深刻な問題である。日々、魚を食べるとき、或いは蒲鉾などの練り物を食べるとき、そこに関わる様々な魚業界の人の苦労を考えたことがあるのか、わたしはおおいに反省をしなければならなかった。
魚は原油高もさることながら、世界各国で魚食の人気が高まり、魚資源は世界の争奪戦になっているのだという。そのため、魚の価格は跳ね上がっている状況も練り物業界に不安を与えているようだ。
だが、そうした厳しい状況をものともしないような声でご主人は快活に笑っている。
そんな大変な時期にも関わらず、同店は全てが大衆価格だ。
まさに企業努力!
こうした店が、わたしの住む北区にあることを誇りに思う。
「おでん」は冬だけではない。
夏こそ「おでん」ではないかと強く感じる熊猫だった。
前回、京浜東北線上中里エリアで苦戦を強いられたせいか、なかなかその先を踏み出す気持ちにならなかったのは、事実だ。
いよいよ、わたしは、上中里駅から王子駅へと向かったのである。
上中里駅の坂を上がり、本郷通りを一路北へ。
住宅地が密集する風景に、これまで通ってきた道のりの長さを痛感させられる。
目の前に現れてきたのは、道の真ん中にそびえるこんもりとした木々。
一里塚(写真)だ。
その昔、江戸時代に将軍が日光参拝を行うために植えられたという道標。この道を歩く目的は古今東西様々だろうが、まさか立ち飲み屋を探して歩く輩はきっとそれほど多くはない。
雨上がりの夕刻に樹木の緑は輝いているようにもみえる。
そうなのだ、今日は七夕なのだ。
だが、新暦のこの時期、毎度のことながら空は曇天なのである。しばらく歩くと右手向こうにこれまたこんもりと木々が見えてくる。これは、一里塚の緑の比ではない。
飛鳥山だ。
こうして歩いてみると、何故飛鳥山が山として認定されなかったのかがよく分かる。
飛鳥山は上野大地の一部なのだ。
確かに、JR王子駅からその姿を眺めると、大きな山のように感じるが、滝野川から見れば、そこは丘に過ぎない。
鬱蒼とした木々を見上げると、深く垂れ込めた分厚い雲。
ミルキーウェイはやはり見えない。
澁澤榮一記念館を通りすぎる。口をついて出たのは、RCサクセション「雨上がりの夜空に」。そこで、わたしは道を外れ、例によって銭湯に立ち寄り、体を清めて立ち飲み屋へ向かうことにした。
そうそう、「風呂上がりの夜空に」(小林じん子作=講談社)という漫画もその昔にあったっけ。
しかし、立ち飲み屋の行き先が決まっているのは、実に心強い。
今晩は、王子駅脇の老舗「平澤かまぼこ」。
王子駅を利用する者なら知らない人はいないだろう。銭湯「ゑびす湯」を出て、飛鳥山の際を歩く。
都電が車道の軌道を走る数少ないエリア。
飛鳥山を下れば、JR王子駅。
その高架をくぐらず、手前を左に折れれば、店はもうすぐそこだ。
相変わらず今晩も、店は多くの客で賑わっている。その客をかき分け、わたしは店の奥に進み、居場所を確保した。
まずは、生ビール(400円)。銘柄はキリンとサッポロとあるのが心強い。
わたしは、迷わずキリン!断固としてキリンだ。
この店はその名の通り「おでん」の店。
練り物中心に40種類以上のおでん種がある。
ネタは40円から200円まで。主流は「こんにゃく」「ちくわぶ」「しょうが揚げ」「がんも」、そして「半ぺん」「大根」「白滝」「玉子」でこれらが、80円から食べられるのが、この店の全てを物語る。
この種を全て食べても1,000円しない。これは、東京にあって、とても貴重なことだ。例えば、セブンイレブンに行って同じものを頼んでみたらいい。たちまち、1,000円を超えるだろう。
わたしは、「半ぺん」に「大根」「こぶ」に「白滝」、そして「玉子」を頼んだ。
支払いは、キャッシュ・オン・デリバリー。
働く人もちゃきちゃきっとてきぱきしていて、実に気持ちがいい。
おでんのスープはやや薄味か。色はそれほど黒くはない。試しにスープをすすってみると、これがじつにうまい。
「半ぺん」は純白が眩しく、ほどよく膨らみ、スープに浮いている。
店の柱に、こんな一文を見つけた。
「サメに対して10%の大和芋と卵白を混ぜ、薪火で茹でる。お湯に浮くはんぺんだから、特に『浮きはんぺん』とも言われる。今では、東京、千葉のみで作られている練りものだ」。
なるほど、どうやら希少性の高い物らしい。
その「半ぺん」が実にうまい。
しゃくしゃくと歯ごたえが軽快で、練りもの特有の魚の匂いが香ばしい。
店内、わたしの背後には3人の酔客。
ドリカム編成の彼らは、よくこの店に立ち寄るようで、昔のアニメの話で盛り上がっている。年齢も近ければ、住んでいる場所もどうやら近いことが聞こえてくる会話から推測できた。
生ビールを飲み終えて、次にわたしは酎ハイ(300円)にスイッチした。
ビアグラスになみなみと注がれたそれ。
だが、これがイケてなかった。炭酸の気が抜けているのだ。
わたしは、酎ハイを頼んだことを悔いた。やはり、「おでん」に合うのは日本酒じゃないか、と。
この店には北区の地酒「丸眞正宗」が置いてある。23区内で唯一残る造り酒屋「小山酒造」だ。
「さつま揚げ」「じゃがいも」(各100円)などを改めて頼みながら酎ハイをすすっていると、先ほどまで賑わっていた店内が一息ついてきた。すると、白衣を着た小柄な男性がおもむろに近づいてきて、わたしに話しかける。
この方が、2代目店主だ。
まだ若い店主は、昨今の原油高で魚の価格が上昇し、練り物製造も厳しさを増していること。築地市場の移転は絶対に行われない裏情報などをわたしに教えてくれた。
いずれも、魚を扱う業界としては、深刻な問題である。日々、魚を食べるとき、或いは蒲鉾などの練り物を食べるとき、そこに関わる様々な魚業界の人の苦労を考えたことがあるのか、わたしはおおいに反省をしなければならなかった。
魚は原油高もさることながら、世界各国で魚食の人気が高まり、魚資源は世界の争奪戦になっているのだという。そのため、魚の価格は跳ね上がっている状況も練り物業界に不安を与えているようだ。
だが、そうした厳しい状況をものともしないような声でご主人は快活に笑っている。
そんな大変な時期にも関わらず、同店は全てが大衆価格だ。
まさに企業努力!
こうした店が、わたしの住む北区にあることを誇りに思う。
「おでん」は冬だけではない。
夏こそ「おでん」ではないかと強く感じる熊猫だった。
これからの季節とくにおでんとお酒が美味しくいただける季節です、おでんには燗酒がよく似合うようです。
おでんはどれもおいしく、凝った種もあるので、けっこう楽しめますね。
丸健水産は行ったことないんですよ。北区民としては恥ずかしい限りです。
昼間から開いている点では、ちょっと飛鳥山周辺を散策しに歩いた帰りに寄りたい店ですね。
ティコティコさんの「平澤かまぼこ」の記事、まだ拝見してません。後ほどチェックしてみます。
原油高もアチコチに影響してますし、
水争奪戦も始まっているようですし。。。
だ~~い好きなお魚、日本ならではのお魚が
食べられなくなってしまう日がきたら・・・
もう生きてられません(涙)。
それこそアメリカに永住したくなっちゃいます、きっと。
来年、名古屋で生態系を巡る会議が開かれるようですね。
こないだ、読んだ新聞記事にこんなことが書いてありました。
「生態系というピースがひとつでも欠けるとパズルは完成しない」。
微妙なバランスのうえで生き物が生きているという現実をもっともっと理解しないといけないようです。
まき子さんのこないだの大旅行(詳しくはまき子さんのブログ「日本酒がある日々」を参照)で、人間は生かされている、というのを実感されたのではないでしょうか。
魚が食べられなくなる日は来るのでしょうか。