小寄道

日々生あるもの、魂が孕むものにまなざしをそそぐ。凡愚なれど、ここに一服の憩をとどけんかなと想う。

ソーシャル・インパクト、宇沢弘文ならどう評価したか

2016年07月15日 | 社会・経済

 

いま、アメリカで新たな投資が熱っぽく、いや静かに話題となっている。フェイスブックのザッカーバーグも投資し注目を集めた、「ソーシャル・インパクト(社会的貢献投資)」がそれだ。

イギリスのEU離脱のとき株や為替は、人々の予想を裏切って乱高下した。そうした影響を受けずに長期的なスパンで利益が見込め、同時にその投資が社会的貢献にもなるという新分野。なんとも公共性に富み、キリスト教社会ならではの慈善事業的な投資におもえる。

先日NHKのクローズアップ現代でも紹介されていて、産業が衰退した地方都市の廃棄同然のビルの「リノベーション」を具体例としてとりあげていた。まずNPOやNGOなどの団体による運営母体が中心となって、失業者(ホームレスや犯罪更生者も含む)が働ける様々な事業を展開する。すると、ビル全体の知名度、価値があがり、有力な民間企業、ブランドショップも集まってくる。テナント力は高まり、この再生ビルを主体にして、寂れた地方都市そのものが徐々に活況を呈するというものだった。(実際のビルやそこで生き生きと働く人たちも紹介された)

http://www.nhk.or.jp/gendai/articles/3836/5.html

▲クローズアップ現代の番組ホームペイジ発見。以下に言及する浄化槽シミュレーションモデルがそれとなく紹介されている。

もちろん投資しても2,3年で利益を生みだすものでなく、長期レンジでの収益を考えた、忍耐が求められる投資スタイルだ。株運用の割合を拡大したどこぞの年金基金運用会社は、少しはこうした腰の座った運用法を見習ったらいかがかな。

しかし、番組後半で意外な人物が登場して驚いた。韓国系の金融工学経済学者のジョン・ソー氏である。「ソーシャル・インパクト」の推進役の一人という。ただ、彼はリーマンショックの起爆剤となったサブプライムローンの証券化に寄与したことでも有名な人物。2009年ころのNHK番組に出ていて、彼の平然とした、他人事のような語り口に少々釈然としない思いだった。

彼は天才と呼ばれる生物物理学者として立身したが、年収120万円に満たない薄給のポスドク研究者。福岡伸一と同じような境遇をおくっていたわけだ。

次男が誕生する時に、病院での出産が5000ドルかかることが分かり、年収9000ドルの研究生活を諦め、金融工学の途を選択した。彼の転身を立派だと思うし、やはり天才と言われるだけの才能の持ち主なのだろう。(生活を理由に矜持を棄てられるのか・・。そういう男だとしたら軽蔑されて当然か・・)

ともあれサブプライムローンの証券化への仕組み、商品化方法について、当時わたしは強い疑念を抱いたことを思いだす。生物物理学の応用かどうか知らないが、ジョン・ソー氏のそれは、し尿処理漕のバクテリアを使って浄化する実際のデータを援用したものだった。すなわちサブプライムなどの高リスク証券から、信用度の高い商品まで全部ごちゃ混ぜにして、し尿浄化処理のシミュレーションを当てはめた。なんとまあ、リスクは均等に微分化され、信用度をアップした高付加価値なデリバティブ(金融商品)として販売された。これにより欧米の大手の銀行、生保会社などが、こぞって買い求める人気商品になったわけだ。(多彩なデリバティブがあり、ジョン・ソー氏のそれはその一つ)

結果はご存じのとおり、不動産バブルが弾ければ身も蓋もない。信用不安に火がつけば、証券化商品は元も子もなくなるというわけで、世界中に金融ショックが瞬く間に伝播した。

さて、件の金融工学のジョン・ソー氏、その後は大地震やハリケーンの大災害による巨大損害のリスクを回避する「カタストロフィー債」という分野に取り組んでいる噂もあったのだが・・。
なんと今や、「ソーシャル・インパクト(社会的貢献投資)」という、低成長時代にあって聞こえのいいプロジェクトに、あの金融工学の「魔の手」を持ち込んだ。アメリカは力のあるもの、努力するものを見捨てない。

 

でもですね、お立合い。名前にある「インパクト」という威勢のよい言葉に惑わされてはいけません。わが日本の憂愁の経済学者・宇沢弘文がいたことを思いだしていただきたい。「社会的共通資本」の重要性を説いた経済学者。社会的不均衡を調整する、政府の経済政策と市場経済のアンバランスや格差を回復する宇沢理論の数々。

経済学を究めた人間でない私が偉そうなことは言えない。が、私的資本と社会的共通資本の相対的バランスを常に維持していくようなメカニズムこそ、現代の経済に求められる本質ではないか。つまり政府も民間もそういう視点に立ってみるということ。短期にも長期にも偏ってはならないし、市場と社会の不均衡を同時に是正してゆくアソシエーションが必要なのだ。NGOやNPOなどに依存した枠組みには限界がある。官民、学、その他の非営利団体が一体となったアソシエーションだ。

▲宇沢弘文

ソーシャル・インパクト」は今の段階では、不均衡を是正してゆく視点をもつ経済メカニズムを匂わせる。NPOによるビル・リノベーションに集中し、社会経済の健全な回復をめざすというアメリカのプロジェクトは、少なくとも短期的リスクや、事業としての不確実性を感じさせない。しかし、ザッカーバーグは投資してもソロスはどうか。この新分野への投資は長期的なものになると同時に、上限値・飽和時期があらかじめ予測できる。

何故ここに、どうして金融工学の仕組み、利益創造のレバレッジなるものが導入されるというのか・・。何でもない旨い話に、日本人は即座に飛びつく傾向があるので要注意ですぞ。

(投資の還元モデルも具体的に示されていなかったし、税金が一時的に流用されるようなニュアンスもあった。何ごとも拙速はよろしくない。こうした私の反応は過剰かも知れない。まあ、ご愛嬌ということでお見逃しいただきたい。いま思うに、「鎌倉投信」さんは、インパクトこそ不足だが、社会的貢献に近いポリシーを持っていると思うが、どうか・・)

なによりも宇沢弘文の原点に立ち返って、日本版の「ソーシャル・インパクト(社会的貢献投資)」をぜひとも若い方々に考えてもらいたい、と願う。

 

 


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