小寄道

日々生あるもの、魂が孕むものにまなざしをそそぐ。凡愚なれど、ここに一服の憩をとどけんかなと想う。

イヴリー・ギトリスを知る

2018年02月09日 | 日記

 

みすず書房さんから出している小冊子『みすず』(1/2月合併号)は「読書アンケート特集」である。
どんなアンケートかというと、「この1年(2017)に読んだ書物のなかで興味をもったものを5点以内で挙げていただきたい」というものだ。
各界の錚々たる諸氏がアンケートを寄せていて、B6版3段組みの記事は結構なボリューム。それぞれが瞠目すべき書評といえる。

最初の2,3頁をパラパラめくったら、科学史家の村上陽一郎の記事がなんと2頁にわたって掲載されていた。
3冊とりあげた本がいずれもヴァイオリニストの自伝。何かある、と感じた。

前橋汀子の『私のヴァイオリン-回想録』(早川書房2017)、諏訪内晶子の『ヴァイオリンと翔る』(NHK出版、1995)。
そしてイヴリー・ギトリス『魂と弦』春秋社2017・増補新版)。このギトリスというヴァイオリニストについてまったく知らなかったのだが、村上陽一郎の筆致におもわず胸が熱くなるものを感じた。

     

▲左が1980年 初版本  右が2017年 増補新版 いずれも春秋社 

1922年生まれ、今年なんと96歳。「3.11」直後、多くのアーティストが来日をキャンセルし、各国大使館員さえ東京からいなくなった。しかし、ギトリスは敢然と来日し、被災地に出向きリサイタルを重ねたという。
被災地では彼を神扱いし、「姿を見ただけで涙ぐむ人さえ少なくなかった」らしい。

私はなぜイヴリー・ギトリスを知らなかったのだろうか。

たぶん、NHKで放映しなかった、或いはメディアで紹介されなかったのか・・。佐村河内何某の特番さえも見た私・・。NHKを非難したいのではない。自らの浅い教養と感度、知るべきことを知らない、その怠慢を恥じたいだけだ。

パリの名門コンセルヴァトワールで学んだユダヤ系の人らしいが、その自伝はフランス伝統のモラリストの思想を受け継ぎ、鋭い警句と斜に構えた批判精神にあふれ読みごたえあるとのこと。(最初の出版年は1980年ごろ)

「イヴリー・ギトリス 伝説のリサイタル~2013年東京公演ライヴ映像~」

 

村上陽一郎の著作は3,4冊読んでいるが、学術書ともいっていい『科学史の逆遠近法』は手ごわく、かつ読みごたえがあった。3.11以前の著作『安全と安心の科学』(集英社新書 2004年刊)は、私が5,6年前ぐらいに初めて読んだ村上の本。原子力発電がクリーンエネルギーとしてもてはやされた時代に、過ちに学ぶ「安全文化」や「リスク認知」の大切さを訴えていた。理系の人だが文系の魂をもつ人がいたのだと、とても感銘した覚えがある。

で、その村上先生が、小冊子「みすず」にヴァイオリニストに限定した長文の書評を寄せていて、のっけから驚きブログに書いた次第である。

いまテレビでは売れっ子になった予備校講師、林センセイが私淑し、その学恩を忘れることはないと語っていたことを思いだした。

 


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