小寄道

日々生あるもの、魂が孕むものにまなざしをそそぐ。凡愚なれど、ここに一服の憩をとどけんかなと想う。

「21世紀の資本」を読みはじめる

2015年01月30日 | 社会・経済

昨年の暮れに「21世紀の資本」を買った。実はまだ拾い読みしているぐらいの段階。大部の本を読む時は、まず目次や索引から面白そうなところを見つけだす。
索引のない本は買う意欲をなくす。高価で大部の本を出版するならば、引用文献の索引ぐらいは最低限のノルマだろう。
「みすず書房」はさすがに一流出版社で、原注は75頁あり図表一覧表も記載してある。これら参考資料・データはネット上から繙くことができる。

池田信夫は「ピケティ本には日本に関する記述はほとんどない」と書いているが、索引を読めば日本経済の基本情報がしっかりフォローされていることがわかる。
少なくともGDPに関しては2012年までのデータを参考にしているし、貿易収支、外国資産、所得比率、貯蓄率、税等々、日本に関する基本的な経済指標は叩き込まれている。
資本所得の格差については、「二十世紀初頭には国民所得の20%をトップ100の高所得者が占めていた」と、明治時代の経済格差についても言及している。
ま、この時代の納税記録は国民全体の所得をしっかりと反映してはいないだろうが、格差そのものはヨーロッパと比較してもそん色ないことをピケティは強調している。

ピケティは厳密にいえば経済史家だとおもう。「21世紀の資本」には経済図表は豊富だが、微分・積分などの数式はでてこない。私のような経済素人には読みやすくストレスがない。
19世紀の経済格差を分析するにあたって、フランスではバルザック、イギリスはオースティンの小説から多くを引用し、文学のなかの人間模様を経済的な視点から読み解いていて秀逸だ。
第一次から第二次世界大戦までの間に、文学からは「具体的な金額」や「金銭にまつわる言及は姿を消した」という。
びっくりしたのはトルコのノーベル賞作家オルハン・パムクを紹介していること。私が読んだこともある「雪」を引用し、「小説家(主人公の職業)にとってお金の話をしたり、去年の物価や所得について論じたりするほど退屈なことはないのだと言わせている」と、ピケティの幅広い読書経験がうかがえる。

幅広い読書といえば、「21世紀の資本」を翻訳したひとり山形浩生は、SFやクルーグマンなどの経済書まで多彩な本を翻訳している。彼がピケティを訳しているとき、バルザックやオースティンを当然のごとく読破し、関連する文学書にも手を伸ばす。びっくりしたのはメキシコの大作家カルロス・フェンテスの800頁の大作「われらの大地」を読んでいた。原書ではなくたぶん英訳本だろうが、ピケティ本が翻訳中と喧伝されるなか彼はフェンテスの濃密な文章と格闘していたのは、ちょうど一年前だった。(ブックマーク参考:長い読書感想文が五、六日分にわたる)
翻訳者として必要とあらば、引用されている以外のものも参考にする。10年ほどもかけて翻訳する研究書ならいざしらず、話題書の翻訳においても目に通すべき書と判断したのなら当然チェックするだろう。いやはや、山形は誠実な男だ。

脱線した。ピケティの「21世紀の資本」は「r>g (資本収益率>経済成長率)」と「資本収益※のグローバルな課税」が結論として騒がれている。それよりも、経済史としての面白さや文化史を経済的に読み解くスリリングな面も強調すべきだ。とはいえ私の場合、精読は「はじめに」の章をやっと読み終えたばかり。この部分を読んだだけで、アーサーヤングの「旅行記」を読みたくなったし、他にもでてきた。

ピケティの夢は「パリの社会科学高等研究院でおしえること」らしい。やはり経済学だけでなくより広い社会科学の分野、つまりブローデル、ストロース、ブルデューなどの研究姿勢を尊敬しているのだろう。
今後の著作にも期待したい。

昨日か、ピケティが来日し、都内のどこかで講演したそうである。
Eテレの「白熱教室」は意外と話題になっていないが、我が国民の「熱しやすく冷めやすい」体質がもう現れてきてしまったのか・・。

ピケティに質問できるとしたら、「イスラム国」の現状及び世界経済におけるイスラム経済の連関とポジション。そこに格差があるとしたら、経済以外の要因は分析の対象となるかどうか。
また、「フランス少子化対策」におけるイスラム移民の格差問題と、これら人口減少対策の経済学的是正および現実的処方箋(移民策は必要条件かなど)を訊いてみたいのだが・・。

※資本収益とは、かつて「不労所得」と呼ばれていたものだ。預金利子とか不動産収入などを指し、お金持ちならではの所得。(投資による所得は「不労」ではないという理由で、「不労所得」は忌避されるようになったと思う。が、小賢しい限りだ。罪悪感を喚起させるのか、いつのまにか使われなくなった。)

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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
我が経済事情 (金 利子)
2015-02-03 19:42:35
私も早速、話題のトマ・ピケティ 著 『 21 世紀の資本 』を読んでみたい!! と注文しようと思いましたが、大口定期預金 1 年物の利子でも買えないほど高価...。
「 ( その本を )読みこなせるかどうかも わからないのに... (~_~;) 」と躊躇っています。
我が経済事情と能力を考えると、その本を気軽に買えません... boo - hoo - hoo
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Unknown (Unknown)
2015-02-04 02:10:10
困りましたね。でも、焦らなくてもいいです。とりあえず、訳者の山形浩夫の「経済のトリセツ」にアクセスしてください。ピケティの取説・エッセンスにふれることができます。そして、半年もすれば図書館の無料貸し出しで読むことができます。予約は今からでも遅くあrません。ということで、よろしいでしょうか。その他のことはなんなりと・・。
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