小寄道

日々生あるもの、魂が孕むものにまなざしをそそぐ。凡愚なれど、ここに一服の憩をとどけんかなと想う。

スウェーデンにみる、マスクを認めない文化

2020年08月12日 | エッセイ・コラム

前回、スウェーデンにおける「失敗を認める文化」という記事を書いた。その後YouTubeを観たら、「あなたにおすすめ」の動画リストに、吉澤智也さんという方のチャンネルがあった。
ストックホルム在住の方でエンジニア、地元の自動車企業に勤務なさっている。日本から転職して、家族4人で移住。奥様も日本人であるから、日本の一流企業を辞めて、スウェーデン企業に移ったということで、レアケースといえるのか(奥様は地元で正社員の保育士として働き、二人の女のお子さまがいる)。
前置きはともかく、吉澤智也さんは4月当初から、スウェーデンにおける新型コロナウィルスの感染事情を定期的に動画をYouTubeに投稿していた。
コロナ情勢に関しての投稿は、今のところ36本ほどあり、精力的に活動されている(自宅でリモート勤務と夏休みの活用か)。

エンジニアでありながら現地の身近なニュースソースを取り入れ、あたかもメディアのキャスターのように、スウェーデンの新しい感染情報を客観的に伝えようと努力されている。
最近では「日本メディアのスウェーデンに関する偏向報道について思う事」(追記)と題して、日本で報道された「集団免疫獲得を国家目標に定めた」ような記事は、まったく誤報であり、報道内容の偏向があまりにひどいと嘆かれていた。

事実を正しく捉えない、現地取材をしない、2次・3次のニュースソースを臆面なく使う、翻訳の誤用など、本来の報道にはあるまじきことが日本では行われている、と吉澤さんは静かに訴える。まさに、然りである。日本だけでなく、ネットのニュース・サイトでも、特にアメリカの一部メディアの偏向は著しいという。これらをニュースソースとして日本のメディアは記事で垂れ流すのだから、もはや悲惨というしかない。

吉澤さんのチャンネルでも、感染対策のリーダー、アンデシュ・テグネル博士についてなんども言及され、国民の厚い信頼をうけていることが分かった。吉澤さん自身も、博士のブリーフィングを拠りどころとしている印象であった(公的には「公衆衛生庁」の長官(担当責任者?)であり、コロナ感染に関しては一切の采配を振るう立場にある)。

さて、テグネル博士に関する動画のなかで、マスクについて何度かふれられている。スウェーデンはコロナ感染が拡大した当初から、国全体にマスクを着用する人はいなかった。愚生などは「集団感染をめざすのだから、あえてマスクをしないのかな」と勝手に思っていたが、実はマスクの効用について、テグネル博士自身が科学的エビデンスはないと言及したことが一番の理由らしい。

これは、マスク文化の違いもあるけれど、感染予防の最先端の科学的エビデンスがまだ、スウェーデンにも浸透していないと思われる(?)。
トランプだったか外国の要人の誰かが、ウィルスはナノメートル単位の微小なもので、マスクの繊維ぐらいじゃスカスカだから、簡単に通り抜けてしまう。これじゃマスクしても無駄だ、かえって呼吸不全になって身体に悪影響もでる。なんていう実しやかな説が、アメリカやヨーロッパで流布されていた。


ご存じように、マスクは感染から守るだけなく、他人に感染させないという効能がある。コロナウィルスは感染しても発症しないことも多い。
以前、NHKスペシャルで、咳やくしゃみなどの飛沫の拡がりをスーパーコンピュータ「富岳」でシミュレーションした映像が紹介された。
マスクをつけない時、手で口や鼻を覆った場合、マスクをつけた時、などの場面では、圧倒的にマスクした時の飛沫拡散は少なく、対人だけというより、周囲の壁、床への付着が断然少ない。

 

▲最初、スパコン富岳はこんなことに使われるのかと憤慨した。後に、マスク使用の科学的エビデンスが今までなかったことに気づいた。マスクを忌避する欧米人はこれを見て、何を思う?(追記、シミュレーションだからパラメーターで変わる。最大値か、平均値なのか、確認できない。エビデンスとして充分か・・)。

▲マスクの正しい着用とそうでない場合の飛沫の漏れ、拡散のシミュレーション画像。会社ロゴが入っているので使用させていただく。

 

新型コロナウィルスは感染しても無症状の人が多い。未検査のひとは知らないあいだにウィルスをまき散らす蓋然性が高い。まさしく感染を拡大させやすい人の筆頭といえよう。だから公共の場、外にでるときはマスクの着用が望ましい。

アンデシュ・テグネル博士はこのシミュレーション映像を観たことがあるだろうか。テグネル博士は、マスクを全否定してはいない。正しい使い方をしない限り、効果はそれほど期待できない、と言っているだけだ。でも、マスクには「伝染されないと伝染さない」の二面性がある事実、その合理性、利便性に気付いているだろうか・・。

日本人でもごく一部だろうが、自分が感染者かもしれないという想定は難しいのか、マスクをしない人を見かける。マスクのマナー、ルールを知らない困った人たち。そういう人々に対して、あなたはマスクの効能を知らない蒙昧な方だ、なんて言えるわけがない。といって、自粛警察もやりすぎ、言語道断。

マスクが嫌いな人は、マスクをすることの科学的エビデンスを認知していないだけ、と思いたい。

だからこそ、スパコン富岳が実現したシミュレーション画像の普及が重要とおもう。「マスクをする重要性の科学的エビデンスはこれですよ」と、言葉で説明する手間がはぶける。アベノマスクの安倍首相が、世界に向けて発信してもいいんですけど・・。巷ではアベダケノマスクって言われているから、たぶんやらないだろう(違うマスクをし始めたらしいが、そういえば最近、表に出なくなった?)。

 

追記:YouTubeにコメントを書き込んだら、吉澤智也さんから返信があった。そろそろ本業が忙しくなるので、動画づくりは難しくなるでしょう、とのこと。ちなみにチャンネル名は『スウェーデン移住チャンネル』。今回の記事を書くきっかけを作ってくれた動画。→【新型コロナ】日本メディアのスウェーデンに関する偏向報道について思う事 →https://www.youtube.com/watch?v=lsiqCKMrthI&list=PLmPhC3YXGIF2ua9rcxdd_A6FzGv8tOx-l&index=3&t=2s

 

 

 

 


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2 コメント

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Unknown (通りすがり)
2020-09-15 21:47:04
感染症対策は科学的である必要があります。

飛沫のビデオは残念ながら感染防止のエビデンスにはなりません。単なる飛沫ビデオ撮影で遊んでるだけです。インフォデミックの拡散にはなりますが、科学的な感染症対策にはなりません。

エビデンスと言えるのは疫学調査や臨床試験。例えばアビガンが治療に有効か否か確認するのと同じような試験が必要です。

科学的エビデンスとは、ランダム比較試験メタアナリシスにおいて統計上の有意差が確認される必要があります。

サージカルマスクの効果は昔から研究されてますが、一般人が日常生活で着用しても有意差が確認されません。世界中で何度も実験してもです。
効果を発揮するのは、医療施設内または研究室内で厳密に管理された環境でのみ感染防止効果が確認されてます。

効果がないのは自分への感染防止はもちろん、他人にうつさない効果も確認されてません。なぜなら有意差がないからです。
もしマスク着用して、他人にうつさないが自分にはうつる状況を作った場合、確率的にはマスク未着用よりマスク着用した人の方が感染する確率が高くなります。
もちろんそのような有意差もないので科学的には効果なしと理解できます。

N95以外の、いわゆる雑貨扱いのマスクにおいては、マスク着用と未着用で咳をしてシャーレに付着したウィルス量を調べると、全く差が無いことも確認済みです。

テストするなら実際の感染、現実のウィルスでテストする必要があり、飛沫のビデオでは意味が無いのでです。
同じく専門の施設内での実験や、マウスで動物実験しても無意味であり、ランダムに選んだ対象を日常生活でテストしないといけません。

コロナパニックで拡散されたマスク有効論は、全て共通してエビデンスがゼロ、単なる仮説または希望的観測なのです。
史上最大のインフォデミックだと言えます。

ちなみに2020年3月、イタリアのマスク着用率は、すでに日本の着用率を越えていましたが、それから何万人も死んでます。ピークアウトにも数ヶ月です。もしマスクに効果あるなら2週間でピークアウトしてたでしょう。
何の役にも立たないのです。

感染症対策は科学的である必要がありますが、それができたのは世界で唯一スウェーデンだけでした。
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スウェーデン在住の通りすがり様 (小寄道)
2020-09-16 14:56:10
科学的エビデンスがあるかないかで、日本人はマスクをしません。
ある種の経験則というか、風邪をひかない・うつさないという長年の習慣が積み重なり、それがマスクをしないよりも、どうやら効果があるらしいとした。それだけの事実があるだけです。
日本人のマスク文化は、諸外国から揶揄されてきましたが、今回のコロナ禍では多少見直されたのではないでしょうか。WHOでさえも、マスク推奨の指針を出しましたよ。
それはメタアナリシスによって実証された根拠もなかったはずです。

富岳の飛沫シミュレーションは、仰るように遊びに近いものかもしれません。でも、咳・くしゃみなどの飛沫を大幅に減縮するというマスクの効能を素人が目で確認することができました。これはこれで、マスクの重要性を再認識したと思います。

通りすがりさんは、科学的エビデンスの信奉者のようですから、日本のこんなファジーなマスク文化は許さないでしょうね。だから、反論はしませんし、論争もしたくありません。
要は、人間は科学的エビデンスにすべてを依拠して生きているわけではありません。日本だけでなく、世界のどの国の文化そのものは、科学的に実証できるものばかりで構成されていません。むしろ宗教のように、科学的エビデンスが全くないものの方が、強い影響力を人間におよぼしています。
現在のスウェーデンでは、宗教よりも科学を信仰している感じがしますね。
さて、通りすがりさんは、今回のスウェーデンのコロナ感染対策では、科学的対策を実施した唯一の国だと称賛されています。でも、人口10万人或いは100万人当りの死者数では、いまだに上位ですが、この実数のエビデンスをどう評価・分析なさいますか?

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