鎌倉の隠者

日本画家、詩人、鎌倉の鬼門守護職、甲士三郎の隠者生活

42 歌姫救出

2018-06-21 08:50:34 | 日記
今回は若き日の隠者が活躍する話!
昔ある時鎌倉の古道具屋に置いてあった水屋箪笥の引出しに、襤褸裂に包まれた小振りの扁額を見つけた。
かなり傷んだ歌仙図で店主に聞くと「そんなの入ってたのか。気が付かなかったから三千円、いやそれだけボロボロなら二千円で良いよ。」との事で早速購入した。
さりげなく百年物の箪笥の方を褒めながら、店主の気が変わらない間にそそくさと店を出た。
この絵は古画専門業者に見つかると、価格が二桁は上がってしまう。
傷みを完全に修復すれば三桁かも知れない。
急いで帰らないと!

(歌仙図部分 狩野探幽筆 江戸初期 探神院蔵)
無款だが絵具や様式は江戸初期狩野派の奥絵師の物で、形態感や線描から見て狩野探幽の作品だ。
当時の大名家が朝廷や神社に納めた三十六歌仙の扁額の中の一枚、待賢門院堀河の絵である。
探幽特有の繊細で品のある描線も、愁いに伏せる歌姫の姿に合っている。
古画の修復は一応プロなので、酷い傷みだけ取り敢えず直しておいた。
数百年の流転の傷が癒えるまで、我が院でゆっくり休ませよう。
一仕事終えた若き隠者は、もうすっかり薄幸の姫を救い出した勇士の気分になりきっていた。

さて花でも飾って一服しよう。
皿の上には菓子ではなく薬があるのが泣ける。

(双耳硝子壺 古九谷小皿 哥窯碗)

他にも鬼門守護職としての冒険なら、十王岩の大百足封印、衣張山の鎌倉蜘蛛滅却、紅葉谷の瘴気の謎解き、など多々あるが秘して語らじの掟で詳しくは話せない。
一つだけ軽く花鎮めの顛末を紹介しよう。
毎年大塔宮の首塚の山から散る桜の花びらが、我が探神院の前の水路に溜まる。
これを放置しておくと皇子の怨念で花鬼と化すので、花鎮めを行うのだ。
と言っても護法剣で邪を祓い、小短冊に鎮魂の歌を書いて水に流すだけだ。
今年の短冊の歌は、
---もう何も起こらぬ所水底は 冷たく保つ花の白妙---
数日後の夜雨で花屑は無事に消え去っていた。

©️甲士三郎

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