鎌倉の隠者

日本画家、詩人、鎌倉の鬼門守護職、甲士三郎の隠者生活

216 荒城の月

2021-10-21 12:47:00 | 日記

ーーーどの町も月の過ぎ去る途に眠るーーー

温暖な鎌倉では中秋の月の頃はまだ夏の気温なので、秋気をしみじみ味わうには10月の後の月の頃が良い。

残念ながら当日の予報は曇りなので、古詩でも飾って夢幻界の月で楽しむ予定だ。


満月は諦めても、せめて十四日月を庭で撮影しておこう。


以前似たような写真があった気がするが、毎年同じ場所の月でも自分なりには新鮮さがあるのだ。

奥村土牛師は「自然は決して古くならない」と語っていた。

古来多くの詩画人が飽きずに月を題材にして来たのは、年々の月を観ながら一年一年己れの心境が深まる感があったのだろう。


後の月の床飾りは先に虚子秋桜子の月をやったので、今回は土井晩翠の「荒城の月」にした。

「荒城の月」は春のイメージだが、2番が秋の詩だ。


(荒城の月 色紙 土井晩翠筆)

1番「春高楼の花の宴〜」2番「秋陣営の霜の色〜」の春秋対が揃えば、一年中飾りっぱなしも出来て重宝する。

この曲を世紀の歌姫ジャッキーエヴァンコが歌っているので、この場に流せばうっとりと夢幻に浸れる。

高雅な古詩と若き歌姫と胸中の月で、隠者らしい秋の夜となり満足だ。


1019日が晩翠の命日なので、ついでにお供物も上げておいた。


(天地有情 色紙 土井晩翠筆)

晩翠や島崎藤村らの文語七五調の新体詩はそれまでの漢詩に代わり真の日本の詩の確立と言えるのだが、大正後期からの口語自由律詩に押されてその後下火となってしまった。

大正時代は大衆文化の一大興隆期だったから、出版界でも口語詩が主流になるのは必然だったろう。


しかし日本の誇るべき格調高い文語詩の韻律は、ごく一部の知識人の中にだけでもずっと生き残って欲しい。


©️甲士三郎


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