鎌倉の隠者

日本画家、詩人、鎌倉の鬼門守護職、甲士三郎の隠者生活

76 写生行の道具

2019-02-14 15:34:07 | 日記
画家の暮しで一番楽しいのは、何と言っても取材旅行だ。
若い頃は欲張ってリュックにイーゼルと木製の絵の具箱など大荷物で行っていたが、慣れてくると最低限の画材で旅そのものを楽しむようになった。
仕事感覚で忙しく写生の枚数を稼ぐ事より、じっくりと風物に感応し旅情を味わう事が一番大事だと気付いてからは、画材はペンと小さめの画帳だけでも十分となった。
また写真も好きなので愛用の小型カメラも必携。

(写生行の持ち物)
特に春の暖かな陽射しの中で鳥達の歌を聴きながら山野の景物を描いている時間は、無上の悦楽に浸れる。
我が宿痾の呪いのせいでもう長旅は出来ないが、自宅界隈でちょっと野外写生に出るだけでも楽しめる。
近場と馬鹿にしないで長旅の時と同じ装備で行けば、気分だけは世界の果ての探索行に等しい緊張感が持てる。
前回の探梅行では遠くの観光地より己れの住む里と話したように、遠国の絶景地より身近な小自然にこそ夢幻の楽土は見つかる。
ニューイングランドでターシャ テューダーが自分のコテージに理想の楽園を築き、その絵を描いたのを見れば、我々も自宅の周囲に夢幻の楽園を探し求めるのが正解だろう。


(気が向けば色鉛筆を10色ほど選んで持つ時もある)
絵や写生をしないまでも、写真を撮ったり短詩や日記に書いたりするのも同じ楽しさがあるだろう。
ちょっとした自然の中の小さな奇跡の発見や感動は、例え拙くとも天霊地気との交歓に違いない。
---くれなゐの苞の中なる白妙の 蕾の秘せる寓意を解かむ---

ターシャの楽園には及ばずとも、我が探神院の庭も雪月花の時は楽土の片鱗を見せる。

(庭の竹林に先日の淡雪)

©️甲士三郎

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