鎌倉の隠者

日本画家、詩人、鎌倉の鬼門守護職、甲士三郎の隠者生活

101 蓮池水禽の涼

2019-08-08 13:29:58 | 日記
---じたばたと浮葉に滑る子鴨かな---

鶴ケ岡八幡宮の源平池に蓮が咲いて、青鷺や鴨が遊ぶ景は涼しげで飽きない。
今年は長雨による低温と日照不足の影響で蓮の花付きが悪く葉もかなり立ち枯れているが、子鴨達は元気に育っている。
花鳥浄土を移した庭園と言えど、普通は眼前の蓮池を見ても只の蓮池にしか見えないのが当然だ。
そこでこの源平池が作られた戦乱に明け暮れた時代を夢想すると、この美しく平和な場所がいかに尊い聖域かわかってくる。
飛鳥時代の橘夫人厨子には蓮の葉の上に座す花精のような菩薩達が描かれていて、更にファンタジックだ。
古人達の夢幻浄土と現世苦界の間の落差は現代より遙かに大きく、その分切実に美しい。

---蓮池に蓮無く空きし水面あり 翔び立つ鳥の為に輝く---

(源平池の主の金色の大鯉と鴨)
観光客が餌をやるとすぐに出て来る金鯉は、浄土庭園の主としてはいささか重みに欠ける。
よく、鳥に投げた餌を水中から横取りしている。
それでも緑の葉影を揺らして悠々と泳ぐ姿は美しく光貴に映る。
この景を盛り上げるBGMは、夏の光に合うドビュッシーかラヴェルが良いだろう。

蓮池水禽の絵柄は古代から描かれて来た画題で、東洋人の夢見てやまない理想郷だ。
純粋絵画は勿論、陶磁器や調度品の装飾に多く見られる。
殊に夏には涼しげで飾るにも使うにも最適だ。


(蓮池図粉彩蓋碗と茶盃 清時代)
水鳥がいる色絵碗が無かったので、花だけの粉彩碗を二つ。
粉彩には大抵達筆の漢詩がついていて高雅だ。
これで冷やした蓮花茶や白桃烏龍茶を喫するのが、文人の処暑として最もふさわしい。

今回(も)写真のピントが悪いのは、眼の手術の後なので御勘弁。
---眼病の進まぬ内に見ておくか 古き写真の皆の笑顔を---
画業の方は御心配無く。
隠者は心眼で描ける。

©️甲士三郎

最新の画像もっと見る