鎌倉の隠者

日本画家、詩人、鎌倉の鬼門守護職、甲士三郎の隠者生活

236 春の祭壇

2022-03-17 13:19:00 | 日記

歳のせいか朝早めに目が覚めるようになってしまった。

あるいはようやく囀り出した鶯や鳥達のおかげかもしれない。

早起きの分貴重な春の朝のティータイムをゆったりと味わえるので気分はとても良い。


待ちわびた花時にふさわしい小屏風を出し、春の神々の祭壇に見立てて茶菓を御供えしよう。



(花鳥図小屏風 狩野派 堆朱菓子皿 飴釉湯呑 幕末〜明治頃)

苺大福と蓬大福は佐保姫と木花咲耶姫の分で私は糖質制限だ。

丁度窓辺の椿に来た鶯の鳴き声も生命感に満ちていて至福の茶時となった。

ーーー散る花の風の流れに定めあり 流れの末に開きし我が窓ーーー


さて自分用には鎌倉の老舗の煎餅を買ってあるので別卓に用意したのだが、案の定煎餅に絢爛豪華な設えは合わなかった。

これは失敗作だ。



(根来輪花菓子皿 益子珈琲碗 昭和初期)

庭の散椿を敷き詰めた春色の調子に煎餅の色が負けている。

民藝調の珈琲碗も地味過ぎた。

煎餅に合う物は雅さよりももっと武骨な野趣が必要なのだろう。


場所を画室の置き床の文机に変えてみた。



(春景訪友画 中西圭介 堆朱文箱 黒織部沓茶碗 江戸時代)

これでだいぶ落ち着いた。

彩色画より室町水墨の幽玄な軸の方がもっと良いかも知れない。

菓子器も今後の煎餅の茶時には、もっと野太く雄渾な物を選ぶとしよう。

この春は煎餅のお陰で糖質制限の私でも茶菓を味わえる幸せを、しみじみと噛み締めて行こう。


ーーー春陰や古色に埋まる茶器の傷ーーー


©️甲士三郎