鎌倉の隠者

日本画家、詩人、鎌倉の鬼門守護職、甲士三郎の隠者生活

225 俳聖の煤払

2021-12-23 13:17:00 | 日記

毎年国中でクリスマスと神道風正月に勤しむのは、思想宗教哲学全てにおいて日本人をダメにする大きな要因になっているのではないか。

世間とは別に我家の正月は旧暦なので、この時期は冬至と煤払だ。


煤払さえも神聖な年礼祭祀となせる物が、今年の隠者の最大の収穫である蕪村の画幅だ。

ネット上で見るなら我家には蕪村の資料は山ほどあり鑑定は楽な上に、最近の売主は草書や古文書が読めない人が増えているせいか捨値で買えた。



(俳聖芭蕉図 蕪村 江戸時代 陶製観音像 青木木米 江戸時代)

句は「旅寝して見るや浮世の煤払」で、芭蕉の離俗の旅の夢に濁世の大掃除を見ている、と言った意味だろう。

蕪村は芭蕉を神仏に等しく崇拝していたからこの句画にも真情が籠っていて、芭蕉の表情も高僧のような知性と温厚さが感じられよう。

観音像は青木木米の作で、木米もまた蕪村の文人画に心酔していた一人だ。

今回は隠者のような詩画人にとって二重三重の意味で聖遺物の祭壇となった。


ついでに蕪村の可愛いらしい小品も我家に来た。



(須磨画賛 蕪村 江戸時代)

こちらは珍しい漢詩で葉書サイズの小品ながら、蕪村らしい須磨淡路両岸の大景に燕を添えて詠んでいる。

「春の海ひねもすのたりのたりかな」と同じ浜での作で、上空の鳥達が実に可愛い。

この作品も格安で入手出来て、ネットの無かった我が若き時代に比べれば自宅で資料と照らし合わせながら古美術品を選べる今は大変恵まれている。


地元鎌倉の先達である川端康成は蕪村の大愛好家だった。



(雪国 千羽鶴 初版 川端康成)

川端が蕪村と池大雅の十便十宜図を買った時に、家屋敷と2年分の原稿料を抵当に借金したそうだ。

そして自ら国宝選定委員となり、その作品を江戸文人画初の国宝に指定してしまった。

薩長政権下で江戸文化は低く見られて来た中、このノーベル賞作家の情熱と慧眼には頭が下がる。

私の蕪村がその23桁下の価格で入手出来たのも、彼の御加護があったのかも知れない。

「雪国」の美しい情景を想いながら、彼の好きだった古志野の冬茶碗に冬至柚子を置いて机上を飾った。


そんな感じで我が精神の煤払は十分出来たが、家の大掃除の方は遅々として捗っていない。


©️甲士三郎