ーーー虫の音の中に朽ちゆく画室かなーーー
ようやく夜半には虫の音が聴けるようになって喜ばしいが、先頃の長雨で画室の天井が雨漏りしてしまった。
その後始末と共に今週から茶器食器などを秋用に入れ替えはじめた。
(古唐津の花入、皿、茶碗 江戸時代)
秋はいわゆる土物(陶器)の器が最も生きる季節だ。
中でも古唐津と秋草との取り合せは格別だと思う。
まずは我が恩師、奥村土牛の富士の前で一服点てよう。
さすがに土牛師の直筆は高価過ぎて無理なのでリトグラフで御勘弁頂きたい。
師の作品の前ではこの隠者も身が引き締まる想いがあり、夏の怠惰な気分を一掃してくれる。
こちらは文人好みの煎茶セット。
(京交阯急須 信楽茶杯 幕末〜明治時代)
左の老賢者のような人形は唐時代の胡人俑。
ちょっと古くて良い急須は近年日本でもアジアでも価格高騰していて、隠者の資金ではもう手が届かなくなっている。
特に幕末京都の文人趣味の煎茶器は人気が高いので、この写真のレベルの物はもう二度と手に入らないと思う。
草庵の和室でも、珈琲なら洋画を合わせてみても良いだろう。
(赤絵ポット 道八造 幕末〜明治時代 マグカップは現代作家物)
ギュスターブモローの銅版画の竪琴を持った詩神サッフォーの絵で、詩人の卓上を飾るのにこれ以上適した物も少ないだろう。
モローの絵に合う額を探すのに難儀したが、なんとか19世紀フランスの真鍮製フレームが見つかった。
己れとサッフォー用にカップ2つで詩神と芸術論を交わせば、正に古代の楽園に暮す気分だ。
隠者は暑さには弱いものの例年秋は調子が出る筈なので、自分でも楽しみにしている。
更にはまた昔のように秋色の山野へ旅に出られる時が来れば良いが…………。
©️甲士三郎