鎌倉の隠者

日本画家、詩人、鎌倉の鬼門守護職、甲士三郎の隠者生活

180 襤褸の聖衣

2021-02-11 13:24:00 | 日記

ーーー襤褸纏ふ老いたる画家の探梅の 行ける限りを照らす春の陽ーーー

隠者の衣服は襤褸でなくてはならない。

鎌倉仏教は地蔵菩薩が地獄遍歴で纏ったようなぼろぼろの糞掃衣を金蘭の袈裟より遥かに尊しとした。


キリスト教の聖人もまた同じだろう。


(木彫聖人像 フランス? 1617世紀頃 七宝鴛鴦 清 19世紀)

この聖人像はカトリックの布教で17世紀頃ベトナム辺りに持ち込まれた物が、幕末に九州のキリシタンまで流れ着いたらしい。

寡聞にして聖人の名は不明だが、私のイメージでは小鳥達と会話していた聖フランチェスコだ。

花は日本伝統の玉椿を西洋アンティークの水差しに活け、中国清朝の小鳥を遊ばせてみた。

元々襤褸の修道服の像自体がさらに壮絶に傷んで、崇高な美しさを醸し出している。


気の利いた襤褸さえ纏えば脱俗の気分が出て、いかにも晩生を清貧に暮す賢人と言った雰囲気にもなれる。

また若い精神世界の冒険者達にとっても、歳月に耐え旅塵に塗れた襤褸こそが聖衣となるだろう。


(バブアー製オイルドコート イギリス 1970年代)

よく見るとあちこち擦り減り傷んでいて、かなりの貫禄がある。

21世紀に入ってからは使い古した服の風合いを好む人も増えた。

古び痛み風化したような物に美を見出すのは日本が世界に先駆けた美意識で、中世の侘び寂びを経て現代に繋がる。


今のファッションブランドでは新品でもダメージ加工してある物も多くあり、襤褸で街中を歩いても奇異な眼で見られる事は無い。


(M65レザージャケット FMH  キャシージェーン 現代)

隠者よりもう少し若い冒険者達には、ダメージ加工されたフィールドジャケットが人気がある。

デニムを中心にエイジングやダメージ加工を施した物の方が、無傷の新品より手間を掛けている分高価なのは仕方ない。


人生の終盤の装束は己が精神が姿形を成すような物で、その風姿は当人の死後まで人々の記憶に残る。

読者諸賢も今一度己が晩生の姿形を省みて、子孫達の記憶に残るような装いを考慮しては如何だろう。


©️甲士三郎