宿痾に痩せて脂肪層が無いので寒さが骨身に沁みる時期だが、冬籠り中にこそ隠者の春の楽園への想いは強くなる。
窓外の枯枝を見ては花を幻視し風音を聞いては鳥の囀りを想い、我が草庵周辺をああしたいこうしたいと観想するのが楽しい。
温かい茶や珈琲を飲みながら過ぎ去りし春と来たる春を幻視していると、陰鬱な寒さも忘れられる。
そんな待春の日々の茶事にうってつけの茶菓と器を試してみよう。
(漆絵皿 琳派 江戸時代 古萩茶碗 江戸時代)
菓子皿は黒地に朱漆で簡素に描いた梅の図で、輪花のデフォルメにいわゆる光琳梅の特長が現れている漆絵皿だ。
大福餅のようなふっくらした梅のデザインが元禄頃に人気を博して、以降の琳派の絵には度々出て来る。
写真の皿は京から江戸に移った後期琳派(江戸琳派)の作。
現代のコミックアートに通じる楽しさがあって、耐寒待春の日々を明るくしてくれる。
茶菓は抹茶ラテに苺の大福で春色の取り合せだ。
珈琲の器を季節で変える人はあまり多くはないが、四季の器揃えがあれば長い人生もぐっと楽しくなるだろう。
洋菓子も和菓子のように季節感を楽しめる物がもっと増えて欲しい。
(コーヒーカップ&ソーサー 浜田露人作)
こちらのマグカップはネットショップでも買える現代作家物で、向かって左が冬用で右が春用。
この大正頃のライティングデスクで詩でも書きながら珈琲を飲むなら、気分はすっかり大正の鎌倉文士になれる。
ドーナツはあえて硬めの物を買ってきて、家で温めて食べる(家人が)。
幾分か温かな日の午後は、陽溜りでガーデンティーにしたい。
(緑釉碗 クメール 15世紀 皿類は現代)
枯草の上に座ると陽の温もりを一段と実感できる。
草上の茶席から直ぐ移転出来る夢幻界の楽園を眺めれば、春爛漫の楽園の茶会でミューズ達と詩画音曲を語る隠者が見えるだろう。
ミューズが好みそうなオールドファッションのクッキーに、ミルクティーは17世紀の英国流にボウルで飲むのが古風で良いと思う。
気候変動で夏が長く春は短くなり、楽園の春は益々貴重な時間となってしまった。
その分を寒中から春の花鳥達を想い浮かべつつ、残余の生に美しき日を1日でも多く作りたいものだ。
©️甲士三郎